第36話 必殺技って憧れるよね
先日、今日の一冊で紹介したいとのメッセージが来ました。どうしましょうか。
「では、行きます」
アイデートが手に持った杖を構える。
「いや、別に来なくていいから。なんなら一生来るな。寧ろ回れ右して帰れ」
「・・・貴方、何故そんなに気が削がれる事を言うんですかね・・・」
それが狙いだから。
「『並列思考』」
アイデートがスキルを使う。あー・・・。やっぱりそれ使ってくるか・・・。ちょっと不味いかなー。
「では、死んでください」
その言葉と同時に、10を超える数の魔法が飛んでくる!
先程アイデートが使ったと思われるスキル、『並列思考』。その効果は、個人で複数の思考をする事ができるようになる。これを使える『魔法』使いは総じて強力だ。その理由は、同時に複数の魔法を使えるところにある。
普通なら、一度に個人が使える魔法は一つだけだ。何故なら、魔法を使うには詠唱が必要だからだ。詠唱をしなければ、魔法を使う事はできない。だが、スキルを使えば別だ。『詠唱省略』。そのスキルは文字通り、魔法に必要な詠唱を省略する事ができ、思考のみで魔法を使うことが出来る。
分かっただろうか?『並列思考』と『詠唱省略』。この2つのスキルを使えば、一度に複数の魔法を使うことが出来るのだ。『詠唱省略』だけでは、一度に複数の魔法を使うことなんで出来ない。それはつまり、一つの事をしながら、また他の事をするのも同然だからだ。人は、そんな事は出来ない。
いや、出来る人もいるのかもしれないけどね?俺は出来ないし、出来る人も知らないが。
まあそういう事で、『並列思考』で思考を増やし、その増えた思考の一つ一つで『詠唱省略』を使い魔法を使う。こうする事によって、魔法を複数同時に使う事が出来る。
それを出来る人は以外と少ない。『並列思考』はともかく『詠唱省略』を使える人は少ないからな。
そんなこんなで襲い掛かって来る炎、水、氷、雷、風、多数の魔法。一発でも当たったら、相当なダメージを負うだろう。
「うおおおお!」
俺に向かって来るはずの魔法はーー
やはり全て外れた。
いや、分かってたけどね?・・・だったら俺、何のために叫んだんだろうね。まああれだ、気分?
「これでも当たりませんか・・・。まあいいでしょう。『殺戮魔法』と呼ばれる由縁、教えて差し上げましょう」
「遠慮しときます」
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アイデートが本気を出してからもう五分はたっただろう。その間にアイデートが使った魔法は優に百を超える。だが、
「何故だ!何故当たらないんだ!」
今まで一度も当たっていない。建物すら簡単に焼き尽くす炎だろうと、猛火を消す水だろうと、肌を切り裂く風だろうと、天から降る雷だろうと、
当たらない。掠りもしない。何故ならそれが。それこそがーー
俺のスキル、『範囲誘導』の力なのだから。
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『範囲誘導』、それは、俺がまだ『創造罠師』ではなく『罠師』だった頃、90レベとかその辺に上がった時に使えるようになったスキルだ。
このスキルの説明をするには、同じく『罠師』だった頃、80レベとかその辺に上がった時に使えるようになったスキル、『誘導』について説明しなければならない。
『誘導』、それは、相手の無意識下に干渉し、相手の行動をある程度操る事が出来るスキルだ。
と言っても、その効果は大したものではない。相手が同レベルであれば、精々二つの道があった場合、どっちにしようか迷っている相手に、自分の好きな方を選ばせるのがやっとだろう。
だが、それは同レベルではの話だ。相手のレベルより自分のレベルが高ければ高いほど、スキルの効果は上がる。
アイデートのレベルは精々80レベ程度。そして、俺のレベルは上位職で40を超える。それほどまでのレベル差があれば、『攻撃を外せ』という誘導をすれば、手元を狂わせ攻撃を外させることが出来る。
それこそが、今まで俺が回避の一つも取らないのに、攻撃が当たらなかった秘密だ。
しかし、『誘導』では一人にしか効果がない。『誘導』では、複数人からの攻撃を外させ続けることなんてできない。
そこで使うのが、『範囲誘導』だ。個人にしか効果を発揮しない『誘導』に対し、『範囲誘導』は指定した範囲内の全ての生物に干渉する。
俺は常に、半径300メートル以内の全ての生物に対し、『俺への攻撃は外せ』という誘導をしている。
だから俺には攻撃は当たらない。数十人で攻撃してこようとも、不意打ちをしようとも、俺には当たらない、当たる訳がない。俺が避けるわけでも逸らすわけでもなく、相手が外す。
それこそが、俺が『罠師』として手に入れた、最強のスキルなのだから。
・・・まあ、例外はあるのだが。
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「当たらない・・・!いや、外れている、のか?」
アイデートとの戦いはまだ続いている。
どうしよっかなー。女性を殴るなんてあんまりやりたくないからなー。殺すなんて以ての外だし。どうしよう・・・
「・・・『ワイドファイア』」
横に広い炎が襲いかかってくる。あ、やばい。
「おっと」
真上に跳んで避ける。危ねー。もう少し反応が遅れていれば当たるところだった。
「ふむ、なるほど。何故貴方に攻撃が当たらないのかは分かりませんが・・・。攻略法は分かりました。範囲攻撃をすれば良いんですね?」
あ、俺の攻略法バレた。
俺の唯一の弱点。それは範囲攻撃である。当たり前のことなのだが、俺は攻撃を少しだけ外させているだけだ。ぶっちゃけ範囲攻撃をすれば、ど真ん中で当たらなくても端の方に当てることはできる。
これが俺の攻略法である。簡単なことだが、こんなに早く気付かれるとは思っていなかった。
今までずっと単独で戦い続けていたから、範囲攻撃をしてくる奴なんていなかったのに。一人に対してわざわざ複数人の為の攻撃をしてくる奴なんていないからな。目の前の奴以外は。
「やり方が分かれば後は簡単です。終わらせましょうか」
アイデートがアホみたいに範囲攻撃をしてきた。
「チッ」
必死に逃げ惑う。一発でも当たったら大惨事だ。当たる訳にはいかない。
「ほらほらどうしました?反撃してこないんですか!?」
アイデートの奴、滅茶苦茶ハイテンションだ。ウッゼー。
「良いだろう。なら使ってやる。俺の必殺技を!」
魔法が数秒撃ち止んだ瞬間、精神を統一する。
「・・・行くぞ!」
アイデートの魔法を掻い潜り、一気に肉薄する!
「近づくな!『フィールドコールド』!」
アイデートが地面を凍らせる。だが、遅い!
「喰らえ!俺の必殺技!愛と友情のキ☆ズ☆ナ☆アタァァァァック!!」
別名、ただの飛び蹴り。その蹴りは、アイデートに直撃した。
「カハッ・・・!」
アイデートは吹き飛び、その動きを止めた。
「あ、貴方・・・。女性を傷つけたくないとか言っていたのは、嘘だったんですか・・・?」
驚いた。まだ意識があるのか。結構本気で蹴ったんだけどな。その気力に免じ、答えてやろう。
「馬鹿お前何言ってんの?戦場に男も女もあるか!甘ったれてんじゃねぇ!」
「いや、その通りですけど・・・。酷い・・・」
その言葉を最後に、アイデートは意識を絶った。俺の完全勝利である。流石俺!
さて、この調子でベルゼルガとかいうのも仕留めるとしようか。
ちなみにですが、今のアキラはプロローグでやっていたような巨龍を瞬殺なんてことできません。
かっこいい技名考えたいんですけど、あんまり思いつかないんですよね。誰かカッコイイの考えてくれないでしょうか。




