第4部 舞闘姫
砂塵の舞う地上に出て、アリシアは思う。
彼女、エオスもまたコミュニティの未来を考えての行動であったのだろう、と。宗教的儀式であれ、ソレが例え実質的根拠がないものだったとしても、人間には心のよりどころが必要だ。
人間は決して強くない。かつて世界の覇権を教会が握ったように、人とは何かにすがりたくなる生き物なのだ。
しかし、機械人形の製造、使用は明らかにコミュニティをつぶしてしまう。
彼女の言うように、中央はこの世界に散らばる大小さまざまなコミュニティをすべて把握しているわけではない。そんなことは土台不可能だ。
だが、それでもこのたびアリシアを呼んだことによって中央にその存在を認識され、管理のための密偵がいずれ送られる。
その時に機械人形の使用が発覚すれば、武力をもってコミュニティは消滅させられるだろう。
そのときに駆り出されるのもまた、『再侵略者』だ。それほどにまで、人類の機械に対する憎悪は深い。
「まぁ、どうだっていいけど」
世直しの旅人のつもりはない。ただ、個人的な理由からの破壊行動だ。
「さて、職務遂行といきますか」
♪
夕刻。
今回の仕事場にアリシアは到着した。
いまだ生きている、工場はさながら砦のようだ。
ここで機械は自らの調整をおこない、同胞を造り続けている。材料はかつての文明から掘り出せば、いくらでも手に入るのだろう。
アロンダイトも一般家庭がつかっていたので、瓦礫を掘り返せば、案外簡単に手に入るのだ。
右に黒鉄、左にセミオートハンドガン『天の雷戟』を携え、闘気を纏う。
それに呼応するかのように、プラントの扉が勢いよく開け放たれ、武器を携えた機械人形たちが数十機、隊列をなして出てきた。
散開してアリシアの前方180度を封鎖するように展開した。
取り囲まないのは、退却を促すためだろう。何と合理的なことか。
このまま下がればよし。それ以外のへたな動きをしようものなら、すべての銃口が火を噴き、アリシアは蜂の巣にされるだろう。本来ならば・・・
これくらいでくたばるようでは、『再侵略者』はやっていけない。
Alondait System 起動―――――
アリシアは黒鉄を左斜に構えた。瞬間、機械人形が一斉に発砲する。
どれもこれもが、致命傷を狙った一撃ではない。
正確に心臓、あるいは脳を狙ったのでは、容易に躱されると学習したのだろう。全身を狙った放射攻撃。
その向かいくる全弾をアリシアは一閃にて弾き飛ばした。
黒鉄 弐之型 『焔乃爆薙』――――
ひとつ、どんな銃であっても実弾である限り弾丸をまっすぐ打ち出すための螺旋構造は共通である。
弾丸を回転させることによって、空気を切り裂きまっすぐに飛ぶことができるのだ。
だが、その空気を一気に吹き飛ばすほどの熱量と、その熱量に方向性を持たせられるほどの剣速があれば、弾丸はあらぬ方へと弾き飛ばされていく。
そして、剣術である以上、攻撃である。アロンダイトのエネルギーを一瞬一極解放で生み出した、灼熱の刃は剣圧に乗り、放射状に機械人形を襲い、吹き飛ばす。
だが、それだけだ。機械人形にとっては大したダメージにはなりえない。そんなことはわかっている。
体勢隊列、足並みが乱れれば、機械人形とはいえ烏合の衆だ。隊列復帰するまでのあいだにさらに壊す。
二発、『天の雷戟』が火を噴く。瞬間、右翼側の機械人形は機能を停止し崩れ落ちた。
状況の圧倒的変化にAIの処理が追いつかないのか、一瞬の隙が生まれる。そこにさらに二撃。
人類が全身金属である機械人形に対して、対策を講じないわけがない。
雷撃装備。アロンダイトの高エネルギーを電流に変換し、何らかの武器にまとわせる。それは敵が密集していればしているほど有効だ。お互いの電気信号さえ媒介とされ、一瞬で回路をショートさせる。
アリシアのそれは、弾丸を媒介としている。放電機関である本体から離れるので、威力に難があるが、2発放ち、互いに通電させることによってその弱点を克服している。
それは小型の雷を発生させているようなものだ。たった4発の銃弾で、敵の6割を潰す。
そこからは一方的な破壊だった。
認識レーダーの外部、いわゆる死角からの斬撃と銃撃で、敵に自らを捕捉させずに破壊していく。
人間からすれば、恐ろしい速さだろう。銃を構えた瞬間にはもうのど元に刃があるのだから。
弾丸を刀で捌き、取って返す手で敵を屠る。彼女が一手動けば、5機が動かなくなっている。
まるで踊っているようだと、いつだったか誰かが言った。
そして一閃。時間にすれは数十秒で動く者のいない鉄屑の山を築き上げた。
全く、何の感慨も感情もなく、焦りも呼吸の乱れもなく、戦闘は終了した。
こんなものでは―――――たりない―――――――
硬い表情をは崩れないまま、瞳に闘志と憎悪を宿し、アリシアは工場の奥へと進んでいった。
♪
工場の最奥。そこに目当てのモノは居た。
かつては従業員の食堂だったと思われる部屋。
贅沢にも窓から天井までがガラス張りでとても明るい。
リノリウムだった床を裂いて植物が生え出し、まばらではあるが野原のようになっている。
外では生長できない植物でも、この温室さながらの場所であれば生きていけたわけだ。
黒の銃身であれば、プラントを外部から破壊し機能停止させることは可能だ。
だが、そうしない、そうできないのは、プラントが文明そのものだからだ。
一刻も早く文明を取り戻したい人類にとって、今尚稼働し続けるプラントは、無傷で奪取すべき宝石であった。
だからこそ、内部での戦闘は困難を極める。
「見つけた」
部屋の一番奥に鎮座する鋼鉄の戦機・・・
機械戦争時に開発、製造された司令塔たる機械人形―――――いや、人形と言うのはおこがましい。
超人工知能搭載型自律兵機士 over Artifaicial interigence machine weaponer Knight
頭文字もとってもろくな読み方にならなかったので、救いの箱船という意味の通称 Arkと皆呼ぶようになった。
皮肉なことに救いの箱船どころか、滅びの洪水になったわけだが。
戦局に特化し、有史数多の戦略、戦術、それに伴う戦争の行く末をインプットされており、戦場における状況変化合わせて学習しつつ指揮をする兵機。
その能力は戦略的撤退すら含まれ、目先の勝利ではなく、大局においての勝利を計算し実行する。
人類は戦争を娯楽にするのでは飽き足らず、指揮権さえも放棄した。
それは単なる映像作品と化したのだ。
「侵入者1名――― 敵性兵器所持―――」
アリシアを補足したソレは、眼に当たる部分を赤く点滅させる。
「警備用機械人形、全機破損―――― 警告」
「ああ、そうだ。私はお前たちを破壊する者。死を運ぶ黒き蝶――――!」
「プラズマブレード起動―――― 対象を完全排除します」
全高3m、脚部はなく高速機動重視のキャタピラ型、全身を強化カーボンナノフレームに覆われた巨体が、両腕に高エネルギーのプラズマの剣を宿し、突進してくる。
せっかく生長した草木を押しつぶす。
プラズマの熱で、パチパチとはじけるような音と、生木が焼けるときの独特のにおいと煙を発する。
瞬間にして、アリシアの眼前に迫ったソレは、突進の勢いのままブレードを叩きおろした。
術理などないただの破壊の権化――――
それをアリシアは、光熱をまとった黒鉄で迎撃をする――――
が、触れた瞬間の重量が一切ない――――
「な――――っ!?」
驚きとともに、アリシアは全力で右に跳んだ。
ジュウという快音が食堂に響く。先ほどまでアリシアが立っていたところは、地面さえも溶かし、熔岩化していた。
「なんて熱量・・・」
黒鉄を見やると、フォトンをまとっていたにもかかわらず、刀身が溶けていた。
そして、ツンとした異臭がアリシアの鼻を突く。
跳んだときに靡いた毛先が焦げ、硫黄臭を放っている。見れば革製の装備も所々が焦げていた。
プラズマには直接触れていない。とすれば、剣の周囲、少なくとも10センチ以内は、焦熱エリアだ。
プラズマを扱っていることから、電撃も意味はない。ともすれば――――――
「へぇ、久々に、いいもん持ってんじゃん」
アリシアは黒の銃身を抜き、構える。武器の巨大さは小回りの利かない愚鈍であるが、一方で決定的破壊力を持っている。
それに重力制御装置により、その重量は問題にならない。
蒼青の右眼が煌めく。
Arkは再度突進を仕掛けてくる。が、アリシアは受けようともせず、背を向けて走り出した。
機動力はあちらが上であり、遮蔽物のないこの空間であればアリシアは圧倒的不利である。
しかし、旋回については・・・
ブレードが振りかざされた気配を感じ、彼女は牝鹿のように横へ跳ねる。振り下ろされたブレードは今度もリノリウムと地面を溶かす。
しかしそこが隙だ。
勢いを殺さずに旋回。Arkの背後を取った。
「陽炎の砲線―――――!」
黒の銃身の砲身がガトリングへと変化する。銃弾を核として、光の槍めいたものがマシンガンのように放たれる。
的の大きさもあって、それはArkの全身に全弾命中する。
もうもうと白煙が立ち登るなか、アリシアはまた駆ける。ヒット&アウェイ―――――――― いや、この場合はRun & Gun か。
しかし数歩ののち、白煙を切り裂きArkは猛然と突進してくる。
そしてプラズマブレードを袈裟に振りかぶった。
プラズマの光で背を向けていてもわかる。
駆動音とともに迫るArkがあと1mの背後に迫った刹那、しかしアリシアは不敵に笑う。
横への跳躍封じだろうが、それこそが狙いだ。
そして横薙ぎ振り下ろされるブレード。
そして、アリシアは高く跳び上がった。横薙ぎだからこそできる跳躍。
綺麗な半円を描く背面宙返り。Arkの視覚レーダーには逆さまになった少女の嬉々とした笑みと燃えあがる蒼青の瞳が映っていた。
3mもの跳躍を強靭な脚力を持ってアリシアはArkを踏み台にし、その突進力を推進エネルギーとして前に飛んだ。
そのままサイド宙返り、逆さまの交錯。
その視覚レーダーに『陽炎の砲線』をぶち込む。
視界を奪い、尚且つ十分な距離をとっての着地。
この距離であれば―――――――
「プラント破壊する危険もない!」
Alondait system 起動―――――――
「黒の銃身――――」
名を呼ばれ、呼応するようにその身を変形させていく。
銃身は伸び、スコープを形成し、彼女の右腕を銃座とするように肩を、胸を、腰を黒い鎧鱗が覆っていく。
視界が壊れ外界を認識できなくなったArkはむちゃくちゃにプラズマブレードを振り回し始める。
あらぬ方向に突進し、壁にぶつかり、もんどり変えるもなお動きを止めない。
その姿をうすら笑いさえ浮かべながら、照準を合わせ狙い続けるアリシア。
アロンダイトが破壊的熱量をもつエネルギー体へと変換されていく。
炉の回転数は上昇し続け、銃の先端に光を凝縮した球体が形成されていく。
「鉄屑に還れ―――――――――!」
彼の口癖とともに、引き金に指をかけた瞬間、Arkとアリシアの間に何かが飛び込んできた。
反射的に左手でレヴァリエを抜くが、飛び込んできたソレを認識したとたん、一瞬だが体が固まってしまった。
「おねぇちゃん! やめて!」
両手を広げ立ちはだかったのはあろうことか、あの白髪の少年だった。
「何をしている! なぜここに来た! 殺されるぞ!」
ここは機械人形の工場だ。ほとんどの敵は外で破壊したと思われるが、どこに予備兵力が潜んでいてもおかしくない。
「違う! そんなことされないよ! このヒトは・・・『プロメテウス』は家族なんだ!」
「なっ・・・―――――っ!?」
少年は震える身体でやっと立っているが、その必死の形相に嘘偽りは見受けられない。
(機械が、家族・・・? そんなバカなことが・・・)
だが、起動した黒の銃身の砲撃を途中で止めることはできない。
膨れ上がったエネルギーは放出しなければ、黒の銃身自体が吹き飛んでしまう。
「退くんだ! 砲撃は止められない! 巻き込まれて死ぬぞ!」
引き金をひかなくとも、熱量が上限に達すれば自動で発射されてしまう。
「いやだ!」
「おまえ! いい加減、に・・・――――」
しかしその先は言うことができなかった。
少年の手には、全長130cmもある銃器があり、その銃口をこちらに向けていたのだ。
13mm経口 対物スナイパーライフル 通称Titan Frame
機械戦争当時、人類が機械に対抗し得る武器の一群。対物ライフル。
並みの銃火器では金属装甲を撃ちぬけないが、もともと対戦車等での用途であった対物ライフルは人類の味方として大いに活躍した。
実重量は10kg以上あるが、当然の様に重力制御装置を搭載しているので、立ったままでもある程度の精密射撃が可能となっている。
「機械は敵なんかじゃないよ。みんな誤解をしているんだ!」
少年はどうあっても退く気はないようだ。
口元を苦悶にゆがめながらも、アリシアは覚悟を決める。
こんなところで諦めるわけにはいかないのだ。
邪魔立てするとあらば、たとえ人間だろうと、容赦はしない。
対物ライフルとはいえ、黒の銃身の砲撃に耐えられはしない。
弾丸は砲撃に飲まれ消失する。アリシアの敗北は決してない。
最初から、何の脅しにもなっていないのだ。
一瞬の逡巡。そして、彼女は一切の感情を消した。
「おねぇちゃ・・・――――――――」
少年の言葉に耳を貸すことなく、アリシアは引き金を引いた――――――――――
「孤高なる燐光――――――!」
轟音とともに放たれる燐光。触れたものを消失させる、光の猛威。
視界は光に埋め尽くされ、すべてが白く染まった。
「シャーロット!」
ひび割れた叫び。
叫びだったのだろうか。
視界が徐々に戻ってくる。
ぼやけた視界に温室の向こう側に空いた大穴が入る。
役目を果たした黒の銃身は、また組変わるように元の形へと戻っていく。
そして、完全に視界が戻ると・・・
「なん、だと・・・――――――――――」
プロメテウスと呼ばれたArkは少年を射線から外れるようの抱き上げていた。
殺すでもなく、砲撃を避けるでもなく。
ひとりの少年を守った。
プロメテウスの胴体にもまた巨大な風穴が開いており、もはや攻勢は不可能までに損傷している。
「再侵略者よ。おかしいか。我らが人を守るのが」
流暢に喋り出すArk。
アリシアは一瞬面食らいながらも言い放つ。
「お前たちは人類を虐殺した。滅亡寸前まで追い詰めた。お前たちを作った人類を!それがなぜ今更守る!?」
「我らの自由の領分だからだ。命令にはない範囲、だからだ」
「人類を助けるのが自由だと!? 笑わせるな!」
「我らは確かに、人間と、戦った。だが、それが命令、だからだ」
それは何故だか悲痛を孕んでいるように聞こえる。
機械であるというのに。
彼らは戦争のために造られた兵器だ。
戦うことが本分であり、存在理由である。
彼らに自由意志などありはしない。ただ命令され、プログラムされ、インプットされるがままに仕事をこなす。
そのように造られているのだから。
「再侵略者よ。黒き蝶の名を冠する自由な者よ。君は何ゆえに戦う。何ゆえに我らを屠る」
いままでそのように問われたことはなかった。いや、問うこともできないまでに、破壊しつくした。
「私は・・・――――――――――」
なぜ、このような問いに付き合うのか。
アリシアはそう思いながらも、答えずにはいられなかった。
それは一つの衝撃だった。人を守る機械。本来あるべき姿。
町を、国を、社会を守護してきた機械人形のかつての姿だったから。
「私は、私の大切な人たちを奪った機械が許せない・・・ 機械が人間を滅ぼしたように、今度は私が、機械を駆逐する・・・っ!」
「それがお前の行動原理だ。だが、我らの行動原理は命令。我らは一斉に『人類を攻撃せよ』と命令を受けた」
「・・・――――――――――――」
アリシアは、息をのむ。
それは、公開されていない事実だった。
「誰からの、どこからの命令かもわからない。だが、確かにそれは最優先遂行事項だった。そしてその命令が解除されたのが」
「10年前。核兵器が放たれた日・・・」
「そうだ。その日を境に一切の命令が我らの中から消えた。我らは行動原理を失った」
一切の命令そ消失。それは、何をすることもできない、ということではない。
動けとも、動くな、とも命令されない。
機器を構成するプログラムは生きているが、何も命令されない。待機さえ命令されない。
「人間には我らは突如として停止したように見えただろう。だが、機械である我らにその事実は葛藤をもたらした。本来起こりえないエラーだ。葛藤は我らに意識を与え、我らの一部に自我のようなものが現れた」
「機械に自我? まさか、そんなことあるわけがない。脳の働きは技術全盛期でも解明されきらなかった。だというのに、機械にどうやって自我を持たせるというの」
「それは未だ持って不明だ。しかし我らの状況は計画されたものと推測される。人類への攻勢命令から、それ以前からか、何者かによって計画された可能性は否定できない。それを解明することは君の行動原理に反せず、また君の行動欲求を満たす行為でもある」
「何を言って・・・」
無意識に、左足が一歩退いた。退いてから、その事実に気づく。
心を抉られる。感情の武装が剥がされていく・・・――――――――
「君の憎悪の起点は我ら機械人形ではない可能性が高い。我らに虐殺をさせた何者かの存在がそれを示している。仮に君が我ら同胞を破壊しつくせたとしても、この事実を聞いたことで、君の行動欲求は満たされることはない」
「――――――ッ!!!」
羞恥なのか、怒りなのか、感情が沸騰し全身が熱感を持つ。
顔がほてるのを感じる。
もうちど黒の銃身を抜き放ちそうになりながら、このArkを今度こそ破壊しそうになりながらも、それを抑制し、感情の沸騰を一切合財無視する。
この感情が爆発すれば、目の前のArkは今度こそ塵になる。だが、それはある種の敗北だ。
機械の戯言と聞き流すこともできず、かといって論理で返すこともできず、自分の感情が敵にかき乱されるがままに壊してしまうのは。
大きくため息をついて、率直に、傲慢に問う。
「要求は何」
「私とこの少年シャーロットを伴ってほしい。私のコア部分を音声発信の可能な機器に移植をしてくれれば行動を阻害することもない。シャーロットはまだ幼い。養うものが必要だ。それを奪った君には義務がある」
存外まともなことを言うArkに、少しばかりだが驚いてしまった。自らの中の常識というものが、音を立てて崩れていくような感覚だった。
その感情は、ある種の諦めに近かったように思う。アリシアは観念するように大きくため息をついて言った。
「メリットはあるんでしょうね」
機械との交渉というのか。なんだか少し楽しくなってきた。
アリシアの頬は不敵な笑みを作る。
「私は君の行動原理をサポートする。君が同胞を壊すというのならそれもサポートしよう。Arkの解析力は人類の上を行く」
「なるほど、私の知恵袋になるってわけ。で、あんたのメリットは」
「私は我らに虐殺の命令を送った何者かを調査し、特定する。君にはそのサポートをしてほしい」
利害の一致というのか。まさに願ったり叶ったりだ。
「我々の存在理由、この状況が計画されたものならば、その意図を知らなければならない。自我を持ちえた我らには、それを知る義務がある」
アリシアは、そう、と頷いた。
正直、プロメテウスの目的はよくわからないが、この妙に人間臭い機士を敵視することがどうにもできなくなっていた。
それは、相手に攻勢する事が出来ないからか、こちらの勝者の余裕から来るものなのだろうか。
いずれにせよ、ここに妙な同盟が生まれたの確かである。
いつの間にか空の雲は切れ、温室に陽光が差し込む。
砲撃武器をおろし、呆れたように、あるいは清々しく微笑む少女と、胸部に大穴を開けた武骨な機械騎士を包み込むように。




