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漆黒の舞闘姫は歌いつづける  作者: 湊 奏
第2章 侵攻
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第5部 秘匿されしもの

――――――ここ、は…


目覚めたアリシアが最初に目にしたのは、殺風景な、コンクリートむき出しの天井だった。


「―――――――・・・ッ」


疼く程度とはいえ、いまだ頭痛は去っていなかった。頭を抱えながら、ゆっくりと体を起こす。


「起きたか」


「ゲイブ・・・、ここは」


「自治府の休憩室だ。治療が必要というわけではないからな」


ガブリエルはソファに座ったまま、煙草をふかす。


「聞きたいことはわかる。君を救出したのはこの街の専従再侵略者(レコンキスト)だ。工場での出来事は本人から聞いている。が、今応えられることは一つだ」


煙草の火をもみ消しながら、ゆっくりと紫煙を吐き出した。


「Arkの秘密は中央が握っている」


「なっ・・・、ちょっとそれどういう・・・」


アリシアの追及は、しかし黙殺される。そして理解する。今の情報提供だけでも、危ういのだと。


「君はどのみち、中央に行くのだろう? 今回の功績で、君のランクはまた上がるだろう。その権限で、調べらるだけ調べてみるといい」


勝手に調べろ、とそういってガブリエルは部屋を出る。


「――――――――と、そうだ、彼をねぎらってやりたまえ。君の背中は、その少年が守り切った」


ソファで小さく丸まって寝息を立てるシャーロット。目覚める気配はない。きっと頑張って疲れたのだろう。

アリシアはベッドを這い出し、シャーロットの頭の方へ座った。


「―――――・・・ありがとう。よく頑張ったね」


そっと頬を撫でてやると、少しだけ微笑んだ気がした。














朝、日が昇り待ちが賑わい出したころ、アリシアたちは駅舎に向かっていた。無論、中央へ行くためだ。


気になることはいくつかある。アリシアを助けたのが誰だったのか。この街の専従といっていたが、それだけでは説明がつかないことが多い。もう一つ、光学歪曲迷彩の出どころやその使用者の存在。


しかし、あちらから仕掛けてこない以上、調べようもないのも事実。ならば中央に行って調査をしよう、ということにしたのだ。


ランクが上昇すれば機密情報へのアクセスレベルも上がる。もちろん「Arkの秘密」などおいそれと出てくるものではないが、その情報を得たことはアドバンテージとなる。


「まぁ、プロメテウスの目的にも合致するわけだしね」


「Ark自身も知らぬArkの秘密とは何なのか。この情報を取得すれば我らに虐殺の命令を送った何者かを特定する手掛かりとなる可能性は、十二分にある。君の行動原理とも合致する」


そう、これはアリシアとプロメテウスが協議した結果出した、最善の行動。スパイの存在や光学歪曲迷彩のことなど、それに比べれば霞むほど優先度は低いのだ。それに対処するのは、この街と中央の仕事だ。


「シャル、一応確認しておく。中央で君は、私の権限で普通の生活を送ることもできる。私に今後も同行する以上、今回以上の危険があるの」


だから、どうしたい、と問う。だがそれは野暮な質問というものだ。


「僕はアリシアについていくよ。それに行っておくけど、僕が一緒に行かなかったら、プロメテウスも一緒に行かないんだからね!」


「その通りだ」


そう言ってニヤリと笑う少年は、少しだけ大人になったように見えた。


アリシアは呆れたように苦笑し、ホームへと向かった。


「さて、行こうか」










列車は機械戦争前の時代のものと比べると随分と武骨だ。人の運搬よりも物資の輸送が主だった役割で、陸路では唯一と言っていい、一般人の移動手段だった。


どちらかというと、近代と呼ばれた時代に現れた、汽車に近い武骨さだ。もちろん燃料はアロンダイトなので、石炭を燃やした時のような黒煙は出ない。だが、車両のすべてが装甲使用というのは、言うまでもなく戦闘を想定してのことだ。


アリシアたちは、彼女の再侵略者特権を有効活用し、一等車両のコンパートメントの一つに入っていた。


「ねぇアリシア。中央までどれくらいかかるの?」


「前にも言ったと思うけど、半日かかる。中央って本当にこの大陸の中央部にあるし、途中駅もいくつかあるからね」


アリシアは基本的に大型自動二輪や徒歩で移動していたため、列車輸送で中央に向かうのは実のところ今回が初めてだった。因みに大型自動二輪は貨物車両に乗せて輸送している。


中央に向かうことにしたとはいえ、気になることがないではなかった。それこそヘファイストスは今も健在だろうし、あの言い方にも引っかかることはある。


「感情を獲得した機械、か・・・」


Arkの秘密とは、おそらくそれにまつわることなのではないだろうか。

果たして、アリシアの呟きは二人の耳には届かなかったようで、シャーロットはすることもないので寝る体勢になっていた。


街に近いエリアや、未制圧地域は地下移動なので、まだまだ景色を楽しむ、なんてことはできない。たとえ地上に出たとしても、広がるのは果てしない荒野だ。



シャーロットがすやすやと寝息を立てはじめたあたりで、アリシアは腰を上げた。


「どこへ行く」


「食堂車。何か食べ物をもらいにね。起きたらシャルも何か食べたいだろうし」


「ならば私も同行しよう。盗難にあっても困るのでな」


プロメテウスの物言いに、アリシアは少し笑った。再侵略者のコンパートメントから何かを盗もうなんて、豪胆な輩がいるはずもないが、それだけではない。なんとなく、プロメテウスが退屈してるような気がしたからだ。


(――――なんだか人間臭くなった気がする)


「何か理解できない発言をしただろうか」


「いいや、べつに? じゃあ、一緒に行こうか」


アリシアはプロメテウス=ラジオを首から下げ、食堂車へと向かう。食堂車は列車の中間にあるので、3車両分ほど距離があった。通り抜けていくコンパートメントには人はまばらだった。


現状、都市間を移動する必要がある職業は限られているし、旅をするというが必要も概念も、一般人にはまだない。どこへ行っても基本的には同じだからだ。都市間の人口移動がほとんどないため、親戚を訪ねていくということもない。


発展レベルとして観光の余地があるとすれば中央だが、中央・・・――――――――アルザシウムは立ち入りが制限されている。人口の都市流入を警戒してのことだと、アリシアは聞いている。


「なぜ、すべてのコミュニティが中央へ参加しないのだ?」


退屈しのぎなのか、プロメテウスが問うた。


「さぁ・・・ 私はコミュニティを運営したことがないからよくわからないけど。良いことばかりじゃあ、ないってことかな。参画コミュニティ全体の発展のために当然税金はあるし、中央から技術供与が受けられるとも限らない。それに方針は中央のそれに従う義務が生じる。こんなところなんじゃない?」


「リスクを天秤にかければ、参画したほうが脅威レベルは引き下がると推測できる。私が提言するのも立場上おかしな話ではあるが」


「そうだね。ただ、ファンダリアだったり、ほかのコミュニティにも見られたことだけど、政治思想ってそれぞれなのよ。私は遭遇したことないけど、機械を神のようにあがめるコミュニティもあるそうだよ」


「結局は、市民の安全より自分の利益や愉悦が最優先ってことさ」


あらぬ方向から返答があり、アリシアの心臓は大きく跳ね上がった。


「誰っ!!?」


「おいおい、そんなに殺気立つなよなぁ。通話を聞かれてくらいで」


背後の物陰から出てきたのは、どうみても軽薄そうな、能天気そうな背の高い男だった。


「あんた、アレク?」


「お、覚えててくれたかぁ、アリシア!」


その軽薄そうな赤毛の男は、両手を広げてアリシアに抱き付いてきた。だ、アリシアはそれを躱しみぞおちに拳を叩き込む。無論本気ではない。


「やめろ、馴れ馴れしい!」


「おふっ。馴れ馴れしいって、同郷だろうがよ・・・ ヘファイストスから助けてやった貸しもあるっつうの」


それを聞いて、今度は脛に蹴りを見舞いした。


「いってぇ! 何すんだよ!?」


「お前かぁ、あの町の専従は・・・。よくも敵前逃亡してくれやがったなぁ、おい――――――!!」


アリシアのドスノ利いた声に、アレク――――――アレクセイは若干縮み上がる。


「お前、知らなかったのかよ。他の再侵略者の情報もチェックしておけって言ってただろうが・・・」


アレクセイはアリシアの保護されたコミュニティでともに育った、ある種の幼馴染だ。アリシアより5つ年上で、先に再侵略者になった。時折コミュニティには顔を出していたが、アリシアが再侵略者になってからは、時折通信はしていたものの、顔を合わせていなかった。



「他人に興味なんてない。っていうか、あんた町を離れていいわけ?」


「ああ? まぁ、ちょっと厄介事がな。それでお前を探してたってわけ。先に謝っておく。巻き込んで悪いな」


さらりと言ってのけるアレクセイに、アリシアは困惑する。


「ちょっとそれ、どういう・・・」


どういうことだ、と問おうとした瞬間、つんざくブレーキ音とともに、列車が急停車をした。バランス崩し、床にしりもちをついてしまう。

そして車内アナウンスが流れた。


「ご乗車中のお客様にご連絡申し上げます。当列車はただいま、危険信号を受信したため、しばらく運転を見合わせます。なお、再開の目処はたっておりません、皆さまには・・・――――――――――」



淀みなく流れるアナウンスは、動揺の欠片もない。当然だ。パターン録音なのだから。



「ほら、行くぞ」


アレクセイの差し出す手を握り、アリシアは立ち上がる。


「行くって・・・―――――――――どこにっ!」


「ヘファイストスが暴走したんだ」









列車から降り、地上へ出たアリシアが見た光景は、目を瞠るものだった。


「なんだ、これ・・・」


正に絶句であった。荒野を進む機械人形の群れは整然と隊列が組まれ、こちらを目指して進軍している。


そして、その厚き機械の壁の向こう。ドーム状要塞の頂点に視覚センサーを備えた頭部と、その要塞の外壁から突き出される六門の砲身。鍛冶の神の名を冠す、Ark――――――ヘファイストスの外観だった。


「あいつの中で生産されている機械人形どもが全部吐き出されたんだ。しかも、ほっときゃまだまだ増える」


それはまさに戦争の光景だった。


Arkが指揮を執り、機械人形が隊列を組んで侵攻する。機械戦争終結後、ほとんど見られなかった光景だ。


「アリシア、奴を止めるぞ」


「止めるって・・・、なに。また破壊せずに捕縛しろって言うの!?」


あっさりと言ってのけるアレクセイに、アリシアはいらだちを隠さなかった。黒の銃身であれば、機械の隊列を薙ぎ払いArkを破壊することは可能だろう。だが、止めるとなると勝手は違う。


「当然だろ? あれはArkであると同時に生きたプラントだ。破壊なんかしたら処罰対象じゃねーか」


「じゃあどうしろっていうんだ!!」


「まあ、落ち着けって」


激昂するアリシアをアレクはやんわりと宥める。


「こっちも無策じゃねぇよ。そのために俺がいるんだからな。」


作戦は至って単純だった。黒の銃身でもって、アリシアが前方に展開している機械人形および六門のの砲台を破壊する。もともと防衛機構が主眼である装備のため、通常のArkより攻勢は弱い。さらに言えばお飾りでしかないのだ。


その後はアレクセイが、その場に物理的に拘束し、コアを本体から分離することで停止させる、というものだ。


作戦を聞いてアリシアは神妙に考える。

(作戦としては現実的・・・。役割分担としても問題ない・・・。でも)


「機械人形を焼き尽くすのはいいわ。でも、砲台に対して黒の銃身(ブラックバレル)を使ったら、結局内部を破壊する羽目になるけど? そんな威力調整はできないし、そもそも6発も放てない」


アリシアの問いも、アレクセイにとっては織り込み済みだった。彼はいたずらっぽくニヤリと笑う。


「なぁーにも、おまえに全部露払いしてもらおうとは思わねぇよ。一人三門、こいつで同時にぶっ潰す」


そう言って差し出したのは、白い粘土のようなものが詰め込まれた雷管。


「これって・・・――――――――」


「そう! C-4プラスチック爆薬だ! アロンダイト爆弾でもダイナマイトでもよかったんだが、最近に技術復興したこいつをつかってみたくてよ」


嬉々として語るアレク。爆発はやはり男のロマンなんだろうか。

C-4は衝撃爆発性のアロンダイト爆弾や、物理的な火が必要なダイナマイトよりも安全性が高くかつ、威力調節もしやすい。今回のような微妙な作戦にはもってこいということだ。だが・・・


「・・・――――――――――ちょっと。なんでそんなに用意周到なんだか?」


「んなもん、昨日の時点で今日のことが決まってた様なもんだからだろうが」


さも当然のようにアレクセイは言い放ち、見事なサムズアップ決めてきたのであった。









孤高なる燐光(エーデル・ブラスト)――――――――――――――――――――――――!!」


黒の銃身から放たれた超高エネルギー砲は、瞬く間に機械人形を壊滅せしめた。ヘファイストスまで距離があることも織り込み済みだったのか、砲撃は外壁を焦がす程度だった。


しかし、面で進行する敵にに対して、せいぜい太めの線でしかない砲撃ではすべての敵を破壊することはできない。ここからが本番だ。


「よし! あとは邪魔な奴だけ各個撃破だ。走れアリシア!」


アレクセイのかけ声と共に二人は列車の屋根を飛び降り、ヘファイストス目指して一直線に疾走する。

正面に敵影はない。だが、両サイドには未だ数百機が展開している。

アリシアは天の雷戟(レヴァリエ)を両手に先行し、狙いをつけることもなく両翼に連射しながら疾駆した。


密集陣形である敵に対して、雷撃装備は絶大の効果を発揮した。しかし、それでも覆らないほど敵の兵力は圧倒的だ。今はアリシアの砲撃とレヴァリエの銃撃で戦局が混乱しているが、敵が立て直したが最後、二人は銃弾を回避し切れずに蜂の巣だろう。


そうならないために、彼がいる。




Alondait system 起動――――――――――


「――――――展開! 絹糸要塞(シルクスブルク)――――――――!」


彼の袖からあふれ出した大量の糸が、瞬く間に織り上げられる。幾重にもおられたそれは、二人を覆い隠すように広がり、囲う。


これこそがアレクセイの持つロストテクノロジー、『織姫の糸車』。

ナノ物質化された様々な材質、強度の糸をアロンダイトのエネルギーによって瞬時に再物質化する遺産。


本来は織物用の工業用品でしかないものを、アレクセイのその捻くれた性格が武器として昇華させた。


暖簾に腕押し、柳に風。6層に展開した糸の要塞は銃弾の威力そのものを吸収、無力化する。

突破された部位は瞬時に再構成される、まさに鉄壁と言わしめる防御だ。小さな物理攻撃に対しては・・・


「・・・――――――っ! 避けろアリシア!」


「・・・っち!」


くぐもった破砕音と、直後今までいた地点が轟音を立てて爆発した。

ついに砲台の有効射程に入ったのだ。絹糸要塞では砲撃の圧力にも爆発にも耐えられはしない。


二人はまた走り出す。一ヶ所にとどまればそれこそ命がいくつあっても足りない。


銃弾は防げる。砲撃も直撃さえしなければ耐えられる。

六門の砲台から次々と降り注ぐ砲撃をかいくぐり、旋回、回避を繰り返しながら、二人はなんとかヘファイストスの外壁までたどり着くことができた。


「こんな、ことなら・・・っ! 道、作るんじゃなくて・・・ 全滅、させとけば、よかった・・・っ!」


息も切れ切れにアリシアは、アレクに悪態をついた。


「まあ、結果・・・ オーライってことで・・・っ!」


外壁部であれば砲撃の危険はない。垂直には撃つことができないからだ。だが、今度は生き残った機械人形に囲まれる結果となった。

絹糸要塞で囲っているからこそ暢気に休んでいられるわけだが、いずれにせよこれらをどうにかしないと砲台破壊どころではない。


「はぁ・・・、というかさ! このまま中に入ればいいんじゃないの!?」


鳴り止まない銃声のせいで、叫ばなければ声も届かない。


「バッカ、おまえ! そんなことしたら『戦技絶唱(ディアボロスソング)』で殺されるわ!」


そう、だから、外部から物理的に止めるしかないのだ。目指すは頭部、そこに格納されているコアの分離だ。


「アリシア! こいつらどうにかできるか!?」


「できなくても、やるしかないでしょうが!!」


幸いなことに砲撃に巻き込まれて、さらに数を減らしている。のこり200機前後と言ったところか。

天の雷戟(レヴァリエ)では間に合わない。アリシアは背負っていた黒の銃身(ブラックバレル)を再び構えた。



Alondait system 起動――――――――――――


黒の銃身はその身をガトリング砲へと変形させる。


「お、おい! おまえ何する気だ!」


アリシアのやろうとしている事に予想がつき、慌てて止めようとするアレク。


「うるさい! 四の五の言ってる場合かっての!! 陽炎の砲線(ソル・ディ・レイ)――――――――――! うらぁああああああ――――――――――!」


アロンダイトエネルギーによる、至近距離攻撃では絹糸要塞といえどもあっというまに破れる。だがそれでいいのだ。


破れたところから射線が確保され、そこの敵をは一掃される。それを横に薙いでいくだけだ。

絹糸要塞はものの見事に粉砕されたが、かくして機械人形は一掃されたのであった。



「おいおいおい! 何て事してくれてんだ! あーあーあー・・・ 俺の要塞が・・・」


「うるさいなぁ、街で材料を補充すれば済むことでしょう」


嘆くアレクをよそ目に、アリシアはそびえ立つプロメテウスを睨め付ける。射程圏外ということもあり、砲台は動いていない。


「・・・っくそ、しゃあねぇ。さっさと砲台破壊しちまうぞ!」


アレクは『織姫の糸車』を使って、一番手近な砲台にワイヤーを射出、絡めつけて巻き取ることで一気に上昇した。アリシアも持ち前の身体能力でそれに続き、まもなく全ての砲台を無力化したのだった。








シャーロットはスコープ越しにアリシアと見知らぬ男、アレクセイの動向を見守っていた。


いくら寝こけて、いたとはいえ急停車すれば異常には気づく。


「・・・一言くらい言ってくれてもいいのに。プロメテウスも持って行っちゃうし」


列車からおり、ハッチを開けて地上に頭を出していた。ブツブツも文句をたれながらも、緊急性が高かったのは理解しているから、本当に子供っぽい愚痴だった。


それにしても再侵略者のすごさを、改めて目の当たりにしたシャーロットだった。アリシアたちはあっという間に敵兵力を壊滅させ、今はすでにヘファイストスの砲台まで破壊し終えていた。


たった二人で一個旅団規模をも壊滅させる兵器を扱うもの。武器が強力というのは間違いないだろう。しかし、それを使いこなせる彼女らもまた、人間離れしているのだ。


「さて、と・・・」


シャーロットはTitan Flameを構え直す。今回もまた作戦を聞いているわけではないので、下手な手出しはできない。もとい怒られたくない。


だが、アリシアが危険にさらされるようなことになれば、ためらいなく引き金を引くつもりでいた。

そして、その瞬間は訪れるのであった。







その瞬間は唐突に訪れた。


アリシアたちは外壁を登り切った。頭部の周りはメンテナンスのためだろうか、それなりに広い平坦な足場があった。あとはコアを離脱させるだけだったのだが・・・


パンっという乾いた音と、外壁の斜面を転がり落ちていくアレクセイ。その顔は驚きと痛みにゆがんでいた。

打たれたのは肩。おそらく命に関わるわけではない、とはおもうが・・・ 一体何が起きたのか、アリシアは思考が追いつかなかった。


(なに・・・? 撃たれた・・・? なんで・・・?)


「アリシア!! 避けろ!」


プロメテウスの声ではっと我に返り、慌てて身をかわす。刹那、アリシアの側頭部すれすれを銃弾が通過した。そして目を見張る。


ヘファイストスの巨大な頭部・・・・・・その周囲を守るように設置されたいくつもの銃器。

その銃口のすべてが、すでにアリシアを捉えていた。


『馬鹿な人間どもめ! 防衛機構が設計図通りなんて一体誰が言ったんだい?』


響き渡る嘲笑。耳に触る、子供の笑い声。開けた場所であるというのにケタケタと、クスクスと、いくつもの嗤いが反響しているように聞こえるのは、彼の機能なのだろうか。


「なるほど。設計図を意図的に改竄したか、設計後に追加設置したのか。防衛機構のすべてを公開するはずもない、というわけか」


『そのとおりさ、プロメテウス! 滑稽だったよ君たちは! ここまで登ったところで死ぬしかないのに必死になってさぁ!』


「いいや、負けるのは君だ。君は再侵略者を過小評価している。君の敗因はその自信過剰なところだろう」


『・・・なら、君たちを壊して、僕が正しいって証明してやるよ!!』


ヘファイストスは激昂し、すべての銃口が火を噴いた。

だが軌道の読める銃撃など、アリシアには児戯と大差ない。



「焔乃爆薙――――――――――!」


熱波を放つ斬撃は銃弾の軌道をねじ曲げ、銃座を揺らす。機械人形ではないから雷撃装備は意味をなさないだろうが、ならば銃座そのものを切り飛ばしてしまえばいい。


たった一足で銃座の裏に回りこみ、銃座を切り倒していくアリシア。

銃身を、引き金を、台座を、グリップを、一刀のもとに解体していく。自動追撃であったなら多少けがを負ったかもしれない。しかし、ヘファイストスとの会話中に銃座は動かなかった。それがこの結果だ。


『やるじゃん、ひ弱な人間ごときが。でも、これはどうかな!?』


ヘファイストスはとても楽しそうに言い放つ。その頭部の左右から分離して構えられたのはマシンガンの類いだ。

正直なところ、アリシアにとってマシンガンは相性が悪かった。1分間に100~200発放たれる弾丸に対処するのは容易ではない。軌道を曲げるにしても弾き飛ばすにしても限界がある。


だが彼女は不敵に笑った。プロメテウスは冷ややかに言った。


「そのように戦力の逐次投入をするから敗北するのだ。もっとも、はじめから全兵器を投入したとしても、結論に変化はないが」


直後、ガァンという甲高い音が響いた。続いてもう一度響き渡る。


意気揚々と構えたマシンガンは、一発も撃つことなく機関部を見事に破壊されていた。

シャーロットの見事な援護射撃だった。


「対物スナイパーライフルだ。戦車の装甲すら撃ち抜く。この地点に到達した時点で我々の勝利は揺るがなかったということだ」


追加兵装はもはやないようで、ヘファイストスは諦めたように停止した。戦闘は終了したのだ。


「ヘファイストス。あんたは中央と組んでいるのか。でなければこんな街のそばにいて、ばれないわけがない」


アリシアがヘファイストスを破壊しない理由は、命令と言うのもあるがこれが聞きたかったのだ。


『・・・なるほど、君は知らない方の人間か。ならば僕から言えることは何もない。言っておくけど、脅したって無駄だよ。僕らは人間と違って生存本能も痛覚もない。ロックがかかった情報はどんなことがあっても漏洩したりできない』


「・・・――――――――――――つかえないわね」


アリシアは呆れたようにため息をついた。期待してはいなかったが。けれど、いずれにせよArkは人間と関わっている。それもそれなりの長期間だ。疑惑は確信へと変わったのだ。


『・・・――――――まぁでも、ロックのかかっていない情報なら教えてあげるよ。今回の僕の侵攻はね、君を殺すためだったのさ。あはは、君狙われているんだよ!』


本当に楽しそうな笑い声は、しかし本当に不快で耳障りだ。


「・・・――――――――一体誰が私を!」


『それは、いずれわかるさ。君がこのままArkの秘密を追っていくならね。さぁ、僕のコアを外しなよ。それもまたArkの秘密に近づく一つのヒントだからね』



アリシアが頭頂部に登ると、ヘファイストスがハッチを外した。プシューと油圧を抜き開放されたハッチの中に収められていたのは、コアというには歪なものだった。なぜなら・・・


「これって・・・脳・・・?」


「なるほど、脳を模したコアプログラムモジュールだな」


Arkにとってコアとは脳に等しい部品だろう。だが、脳そのものを模す必要性はない。現にプロメテウスのコアはただの球体だ。ヘファイストスのコアは皺のない脳のような形状だった。


「プロトタイプおよび第一世代は自我を入手した。コアは無駄のない球体だった。第二世代は感情までも手に入れた。コアは脳をもした形状だった。この差異は計画されたものだったのだろう。おそらくコアの形状にもArkの秘密は隠されている」


「・・・――――――――プロメテウス。Arkは何世代までいるの」


「戦場に投入されたのは第三世代までだ。しかし、第四世代の開発も始まっていた」


第四世代Ark・・・。想像もつかないが、そこまでたどり着かなければならいという確信が得たのだった。




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