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終焉とハジマリの歌

それは、戦争とは名ばかりの、ただ一方的な虐殺だった。


イカれたオートマタ(機械人形)オートウェポン(独立兵器)に、稚拙な武器しか持たない人間が敵うはずもなく。

電脳に頼り切っていた人類は、その大半を機械に奪われ、強力な電子的火器は使い物にならず、電子制御の必要ない、前時代的な火器で応戦するより他になかった。


圧倒的火力の差は、戦場を瞬く間に処刑場へと変貌させた。



そんな戦場を少し離れたところを一人の男とまだ年端も行かない少女が走っていた。同化外套を羽織り、遠くからでは発見することは困難なようにして。

ただしそれは、人間相手ならばの話だ。


背後からの爆音。彼らが振り返れば、土煙を上げてオートバイに乗った機械人形が迫っていた。



「…ちっ! 早すぎだ」


「……ジェイク」


少女がジェイクと呼ばれた男の外套を引っ張った。


「……アリシア、此処は俺が止める。出来るだけ遠くに逃げろ」


敵の数は2。ジェイクは敵が舐めてくれたことを今は幸いに思った。


「やだよ…っ! 一緒が良い!」


しかし、少女、アリシアは必死に彼にすがりついた。十にもならない、かつてなら無邪気に遊んでいて良い、危険とは無縁な子供。

しかし、そんな幸福な時代はとっくに終わったのだ。


「聞き分けろっ! お前は最後の希望なんだ! みすみす死なせるわけにゃいかねぇんだよ!」


アリシアは、その左眼に『希望』を宿した子供だった。


「やだ…やだよぉ…」


ジェイクが叱咤しても、アリシアは泣きすがる…フードの奥から、蒼氷の瞳が覗いていた。そんな彼女に対して、ジェイクは根負けしたようにため息をつく。


だが、二人でいるという選択肢はない。もう、敵はすぐ其処まで来ているのだから。


「聞いてくれアリシア」


ジェイクはしゃがみ込み、アリシアと目線を合わせる。そのか細い肩をしっかりと握り、彼女の目を真っ直ぐ見つめた。


「後から必ず追いつく。だからこの先のコミュニティに行って待ってろ。必ず迎えに行く」


アリシアは顔を上げる。スルリとフードが落ち、漆黒の艶やかな髪があらわになる。


「うそっ! そういって置いてっちゃうんだ! 絶対やだ!」


ジェイクは軽く溜め息を吐き、膝をついた。そして、アリシアを抱き締める。


「大丈夫、約束だ」


ジェイクはアリシアを離し、外套の中から巨大な砲撃武器を取り出した。


「これ、お前に預ける。迎え行くまで持ってろ」


「……これ、ジェイクのたいせつな…」


黒く艶やかな銃身…


ジェイクの身の丈程もある、巨大な銃だった。


アリシアはソレを受け取る。重力制御装置がついているので、重量は問題じゃない。


「そうだ、俺様の大事な銃だ。壊したら承知しねぇからなっ!」


ジェイクは笑って見せた。この子が生き残るためなら、どんな嘘もいとわない。


アリシアも聡い娘だ。そんなのに騙されるほど、無邪気ではなかった。だが、聡いからこそ、どうしようもないとも判った。


必死に時間を稼いでくれたみんな…ここでアリシア死んだら、無駄死にだ。


「…ちゃんと、来てよね?」


「あぁ…約束だ」


「……っ!」


アリシアはジェイクに背を向け走り出した。黒き銃をその小さな身体に背負って。


「アリシア!」


 ジェイクはその遠ざかる背中に叫んだ。


「どんなに無様でも良い! 生き汚くてもいい! もがき続けて、どんなことをしてでも、生きるんだ!」


声は届いたのかわからない。アリシアは振り返らず、砂丘の向こうヘと消えていった。




「さぁて…」


彼は振り返り、追いついてきたソレらを睨みつける。


「テメェらは通行止めだ」


二機のオートバイは目の前で、砂埃を上げて止まった。案の定、乗っていたのはオートマタ。


ジェイクは二丁のハンドガンを構え、跳ぶ。あの子を出来るだけ遠くへ逃がすために、敵うはずもない敵に、挑んだ。


「鉄屑に還りやがれっ!」




後ろの方で銃声と爆音が聞こえる…でも絶対に振り返らない、足も止めない。


そのうち銃声も爆音も止んだ。


どうなった、とか事実なんてわからない。ただ、約束にすがって走るだけ。


黒き銃を背負い、涙を流しながら、尚も走った。


そして彼女、アリシアは隣のコミュニティで保護された…







それが、十年前…機械戦争終結直後の話。


今や彼女、アリシアも十八…あの時より背も伸びたし、髪も伸びた。戦えるくらい、強くなった。


容姿も随分と変わったはずだ。幼さ、あどけなさなどは一切なく、腰まで届こうかという漆黒の艶やかなツインテールからは想像もつかないほど、凛とした顔立ちをしていた。


(もう、無力な子供なんかじゃない…)


そんな彼女は、崖の上から一つのコミュニティを見下ろしていた。かつての町の跡をそのまま使ったコミュニティ。


近くには、開発施設跡がある。


「あれか…」


アリシアは外套を羽織り直して、オートバイにまたがる。


「見てて…必ず…」


 ありったけの哀悼と憎しみを込めて呟き、彼女は走り出した。


物語の始まりに向かって…




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