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『私』の登校

「ね、姉ちゃん。」教室の前で尻込みする私をうざったそうに見る姉上殿。


「ほら、とっとと入れ。ワタシも遅刻してるんだから。」両腕を組み背後で威圧していらっしゃる。


「でも……。」姉ちゃん目つき悪い。見慣れてなきゃちびっちゃいそう。


「イツキはいつまでたっても手のかかる……。」痺れを切らして姉が教室の戸を開けた。教壇の教師がぎょっとしてこちらを見た。


「失礼します。現在、妹になってる糸滝樹紀を送り届けに参りました。」


「は?」十勝先生が口の形をOに姉ちゃんと私を交互に見る。


「えーと、今朝の電話のお姉さんですか?」先生が引きつった顔で姉ちゃんに聞く。


「そうです。」そういって姉が私の肩を掴んで先生の前に体を置く。


「え…えへ……。」変な作り笑いと声を出しながら私は先生を見た。既に涙目になっている。つらい。


「……この子はどちらさんですか?」十勝先生、往生際が悪いですね。とても親近感を覚えます。


「イツキです。じゃ、ワタシも授業があるので。」ピシリと頭を下げる姉ちゃん。「失礼しました。」ピシッと閉まる教室の戸。


固まっている教室、固まる私、挙動不審になる先生。


キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴る。


「糸滝樹紀は遅刻っと。」十勝先生がポツリといって教室から出ようとした。


「あの?先生?」私は堪らず呼び止めようとした。


先生が両耳に手を当てて教室の戸を荒々しく蹴っ飛ばして出て行く。実に清清しい逃避だった。大人なんて大嫌いだ!


クラスに目を向ける。クソッ、みんな微妙に目を逸らしやがる。


そうだ!こういう時は親友である風谷だ。奴ならやってくれる。


「か、かぜたに……助け…。」ターゲットに近付こうとした。


ガタッと音を立てて当の風谷が立ち上がる。


「イツキは死んだ!アイツはもういないんだ!!」奴は泣いていた。真っ直ぐ目を向けてくるのでちゃんと私だと分かっているようだ。だがその発言、ひどくないか!?


「は?私ならここにいるじゃないか!」聞き捨てならない台詞に反論する。


「だけど、どう見たって女じゃないか!」


「風谷!体は女でも心は男だ!男なんだ!」


心から溢れる言葉を放つ。私はもう涙をとめることができない!


「イツキ!」「風谷ィ!」私達は男同士の熱い抱擁を交わそうとした。張り詰めていた教室の空気が動き出す。


「だまされるなイツキ!そいつお前の体が目当てだぞ!」クラス委員長男子の砂野がすかさず警告を発する。


「風谷はそんな奴じゃない!」「そうだぞ、俺はイツキが本当に女になったのか直接だな……。」


「確保ーー!変態を女子に近付けるな!!」クラス副委員長女子、伊草さんの号令が響く。


女子の壁が出現し、風谷と私との間を阻む。


「か、風谷ィィ!」風谷は体育委員の岩路に絞められていた。


「男子って最低ー。」女子が冷ややかな目で風谷を見ている。


「風谷は悪くない!女になった私が悪いんだ。」親友のピンチ、それも私のせいで。元々私達の女子受けは悪かったが風谷が抹殺されてしまう。


「いいや違うね。この状況にいち早く乗っかって欲望を満たそうとした風谷隼十。万死に値する。」眼鏡をスチャリとさせて風紀委員、鶴賀が裁定を下す。


「出来心だったんです……。」早くも風谷が自供し始めた。ひどい、信じてたのに。


「イツキちゃん。男女の間に友情は成立しないんだよ。」人情派、綾音ちゃんがそっと私の肩に手を掛けた。


「私は男だ。」「うん、分かってるよ。でもね、女の子だからね。」「…おと……。」


「男だったからって胸触らしちゃだめだよ?クラス裁判開きたくないでしょ?」


「う…うん。」女子に注意を受けている間に1限目が終わった。国語の先生の姿は無く、いつの間にか黒板に書かれていた白い自習という文字が、何だか少し悲しかった。


風紀委員女子、佐井さんが今後の学校生活で指導してくれるらしい。

私がすぐに男に戻れるかもしれないから必要ないと言うと鬼のような目で見られた。

そんな意識でいられたら風紀が乱れると怒った後、男でも女でも体は大事にしなきゃねと背中を軽く叩かれる。


今更ながら迷惑を掛けているのを自覚し頭を下げる。

佐井さんは笑って友達だから気にしないでっていってくれた。


「女子の友達Gets!」「君も今、女の子だからね?」「あ、はい。」


「それとちゃんとブラジャーしなさい。」「それは……」「しなさい。」「……はぁい。」


女子の威圧は笑顔なのに怖いと思いました(まる)

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