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閑話4:ポワソンダブリルと魚の群れ

小話をこちらに閑話として入れました。

よろしくお願いします。

 今日は四月一日、元の世界ではエイプリルフールといわれる日である。

 元々フランスではキリスト教のマリア受胎告知日である三月二十五日が新年で、一週間に渡りお祝いをした後、四月一日に贈り物をし合う日だったのを、シャルル九世が一月一日を新年と定めたことで四月一日は嘘の新年として町民に伝わっていったのだとか。

 また、ノアの箱船でノアが陸地を探すために鳩を飛ばし、鳩が枝を持って帰ってきた日が四月一日らしいとか。


 色々いわれているが、実は、私の誕生日もこの日である。

 四月二日生まれで約一年年上の同級生と談義に花を咲かせたものだ。


「……かといって、自分のバースデーケーキ作るのも、なあ」


 まさか『ハッピーバースデーわ・た・し☆』などとイタい真似をするわけにもいかない。

 何故か今日に限っていつものようにすんなりと菓子が決まらず、私は調理台の前で考え倦ねる。


「何か面白いモノ、ないかな」


 私は厨房をフラフラと彷徨い始めた。

 私の調理台から少し離れた作業台で、スアンピが魚の鱗を取り、それをおじさんが指導している。


「あ、シホさん。今日はマクホの良いのが入りましてね。夕食はソテーにしようかと」

「マクホ? ああ、鯖ですか!」


 手元の魚を覗き込むと、そこには青く光る魚が横たわっている。

 腹部は銀白色で特徴のある模様を背負っている魚だ。

 この魚を食べた時、確か鯖のような味がしたという記憶を呼び戻し、私は唾を飲み込んだ。


 ……向こうで鱗取りはしない魚だったが、鯖の味そのもので嬉しかったな。何時か味噌煮も是非お願いしたいものだ。


「……鯖……あ、そっか、それだ! シロップおじさん、有り難う!」


 私は追随して呼び戻る記憶から今日の菓子を思い付き、シロップおじさんに頭を下げて調理台に戻る。

 冷蔵庫から寝かせてあったパイ生地を取り出し、魚型にカットした物を二枚作る。

 一枚は中心を丸く切り抜き貼り合わせ、その生地を焼いておく。

 ボウルに卵黄と砂糖を入れ、擂り混ぜ小麦粉を加え、温めてあった牛乳に入れ、焦がさないよう火に掛けてカスタードクリームを作る。

 生地の窪みにクリームを入れてその上にフルーツを盛り合わせ、魚の目をホイップクリームとチョコクリームで書き上げ、ヒレの形に似せて作ったパイ生地も載せれば、ポワソンダブリルの完成だ。

 ポワソンダブリルとはフランスでいうエイプリルフールのことで、意味を「四月の魚」といい、現地では魚の絵をコッソリ人の背中に貼って悪戯するのだそうだ。

 前述の由来に加え、この日の名前の由来は、鯖はあまり利口ではないので四月には簡単に釣れる、逆に四月からは体が青くなり人の目を欺くから、という説もあるそうだ。


 皿に載せたポワソンダブリルを持ち食堂へ行くと、魔王様とコンセルさん、そして先生が瞳を輝かせながら魚の形をしたケーキを凝視した。


「へえ! 今日のは随分可愛らしいな!」

「ホントですね! 切るのが勿体ないくらいです!」

「ふむ、何か意味があるのか?」

「私のいた世界で今日はエイプリルフールという日で、地域によっては魚も関係がある日らしいんですよ。実は今日の午前中は、嘘を吐いても許される、といわれてるんですよ」


 菓子の時間は午後にある。嘘を吐くにはもう遅い。

 少々惜しい気もするが、その風習を知らない人を騙してもしょうがない。

 形を惜しむ三人を尻目にケーキを切り分けながら私が説明すると、魔王様は何かを思い出したようにケーキを飲み込みながら眉を動かした。


「……そうだ。魚で思い出したのだが、午後の授業時間は私に貰えないか? シホに見せたい景色があってな」

「へえ。何だろ? 先生、いいですか?」

「魔王様のお願いですから、お断りも出来ませんね」


 優しく微笑む魔王様の態度に期待を膨らませながら、菓子の時間を終えた私は魔王様と共に執務室へと足を進める。

 転移の部屋から訪れた世界は、一面が水に覆われた空間だった。


「……ここは……もしかして水の中ですか?」

「ああ、海の中だ。もう少し待て、今……ああ、来たぞ」


 魔王様の指差す方角へ視線を動かすと、淡いピンク色の小さな魚の群れが集まってくる。

 ヒラヒラと揺れ動くその様は、まるで満開の桜のようだ。


「この魚の大群は不思議なことにこの地域で、然もこの時期にしか見られないものだ」

「綺麗ですね。最高のバースデープレゼントを頂きました」


 毎年、春になると当たり前のように目撃する光景を思い出しながら、私は感慨深く眺める。

 見慣れた光景とまではいわないが、ここまで感動を伴って観覧したことがあるだろうか。

 私は周囲に集まる魚の群れに見入ったまま、魔王様に感謝の言葉を告げる。

 魔王様は私の発言に目を見開き、口をわなわなと揺らして驚愕し、こちらへ伸ばした腕を震わせてた。


「……バ……?! そ、それを早く言えッッ!! 直ぐにプレゼントの手配を!!」

「いえ、ですから貰いましたし!!」


 正直、今日が誕生日だと告げれば、また武器を寄越されるのではないかと内心訝いぶかしんでいたため、なかなか告げられずにいたのもある。


 ……これ以上武器を貰っても、使い熟すには職業変えするしかなくなるしな……


「やはり槍系か?! それとも意外な所で斧系?! ……仕舞った、武器では喜ばんのだったな。しかし他に思い付かんな……」

「いえ、本当にいいんですって。この景色は私がいた世界の特別な風景にそっくりで、とても嬉しかったです」


 案の定、魔王様の頭の中は武器で一杯のようだ。

 私は苦笑いを浮かべながら最高のプレゼントである証を語り始める。

 魔王様は柔らかな笑みを浮かべながら私の話に聞き入っていた。

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