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第14話-5:城下町の露店と蜂蜜レモンティーシフォンケーキ

「へい! 美味いよ、美味いよ!」

「味見をくれ」


 腹熟しを終えた私達は、城下町へと繰り出す。

 城壁に囲まれた町の中央には、大きな噴水のある円形の広場があり、その周りの町並みを東西南北に通された大きな道で分断している。

 東が観光区画、西が商業区画、北が工業区画で南が住居区画、その奥に城があるんだったっけ?

 よく分からないが、私にはこの広場以外関係ない。

 立ち並ぶ露店を前に興奮していると、プレジアは早速食べ物を扱う露店へと赴き、味見をせがんでいた。


「プレジア! あれは何?!」

「あれは魔術球じゃな。旅の途中、魔術が使い熟せん者には重宝する物じゃ」


 私は色々な色の付いたビー玉に似たものを売っている店を指差し、串焼き肉を頬張るプレジアに尋ねる。

 水の球は、口に入れると水が溶け出す、飴のようなものらしい。

 他にも、薪の中に放り込むと火をおこす火の球や、敵に投げ付けると感電させる雷の球もあるらしい。

 他の露店では、魔術補助能力が付いているらしいアクセサリーを扱っていたり、面白い顔や形のヌイグルミを置いていたり、何に使うのか分からない仮面を台の上に並べている店など、様々な店が建ち並んでいる。

 食べ物も、パンに薄切り肉を挟んだものや、様々な野菜を串に刺してソースを掛けたもの、チーズを薄く切って乾燥させたもの、蒸かしたジャガイモっぽいものなど、色々なものが売っていた。


「……ん? これはもしかして……」


 私は、ナッツに衣を付けて揚げたものを頬張りながら、出店の一角に視線を向ける。

 直径一センチほどで、知っているバナナより大分小さいが、確かにバナナの断面を持つものを薄切りにして揚げ、塩を塗した食べ物が置いてある。


 果物を乾燥させたドライフルーツだけでなく、やはりこういう文化があったのか!


 私は嬉しくなってプレジアを振り向く。


「……ああ、バヌニチップじゃな。……ポテのチップより固いし食いにくいのじゃ」

「あれ、甘くないんだ」

「甘味なんぞ、ないわ」


 ポテトチップスとバナナチップを比較する所から、このバナナの甘味がない可能性に気付き、プレジアに尋ねてみる。

 プレジアは眉根を寄せバナナチップから視線を外し、自分の好みと合わないことを主張した。

 そういえば、海外では甘くないバナナを使って料理をすると聞いたことがある。


 じゃあ、このバナナも追熟させれば甘くなるんじゃないだろうか。

 日本でもリンゴを一緒に置いておくと早く熟すというし、甘くないバナナは四十~五十度のお湯に五分漬けて一時間以上待つとか、電子レンジで温めるとかすれば甘くなると聞いているが、こちらのバヌニとやらにも適応されるのだろうか?


 ……どうしよう、試してみたい……!


 上手く甘くならなかったら、私の夕飯に加工してしまえばいいか!


「プレジア、バヌニを買ってもらってもいいかな?」

「何ぞ思う所でもあるのかのう? 構わぬぞ。何本いるのじゃ?」


 プレジアと彷徨い、バナナを売っている店を探す。

 売られているバナナは、くの字形をした七センチほどの小さなものだった。

 ……モンキーバナナだったっけか? 元の世界でも見たことある気がするな……

 一本の枝から数十個ほど生やしたその実を五本買ってもらい、次の標的を求めて流離う。


「味見をくれ」


 プレジアが強請(ねだ)りに行った店では、パンケーキのようなものの間にトロリと伸びるチーズが挟まれている。


 こ、これは美味しそうだ!


 私は矢庭にプレジアの袂へ駆け寄り、チーズインパンケーキを凝視する。


「お、プレジア。今日は友達連れか? しょーがねーな、ほれ!」


 プレジアはこの店の常連のようで、既に露店のおじさんと顔見知りのようだ。

 気の良いおじさんがチーズインパンケーキを半分に切り、私とプレジアに手渡す。

 モチッとした生地に塩味の利いたチーズの味が絡み合い、僅かに掛けられた胡椒が絶妙のハーモニーを奏でている。


「美味っ! 熱っ! 美味っ!」


 チーズの熱に舌をやられつつその場で頬張っていると、周囲にいた人達も店に集まり買っていく。

 ……なるほど、我々はサクラか!

 確かに、プレジアが味見を貰った店は人がたかり始め、売れ行きが向上しているようだ。


「……分かったかのう? これを利用する手はないんじゃよ……」

「はっ、師匠、お見逸れしました!」


 口端を上げ、自慢げに横目で私を見上げるプレジアの態度に私は敬礼し、深々と頭を下げた。


「さて、次は何の討伐で腹を熟すかの」

「何で討伐限定??」


 様々な店で味見を貰い、すっかり腹の膨れたプレジアは、大きくなった腹を撫でながら呟く。


 ……何で選択肢が討伐オンリーなんだ?


 小さいなりをして、意外と血に飢えた野獣なのかもしれない。

 私が腰を引き、眉尻を下げてプレジアを見つめていると、プレジアは大きく目を見開いて弁明する。


「べ、別に儂の趣味ではないぞ?! シホが好きそうじゃから言ってみただけじゃぞ?!」

「私は別に血に飢えてないよ?!」


 一体どんなイメージで私を見ていたのだろうか。

 プレジアの言葉に、私は動揺を隠しきれず声を荒げると、プレジアは大きな瞳をより一層大きく見開く。

 私も負けずに目を見開き、プレジアを見つめ返すと、プレジアはゆっくりと口を開いた。


「何じゃ。意外と普通なんじゃのう。シェーヴを平伏させたあの表情は、正に鬼神といった風格じゃったが」

「……え?!」


 私は驚愕してプレジアに視線を向けながら、己の顔を確認するように掌でさする。

 正直、プレジアにはいわれたくないのだが、思わず出てしまったSっ気が、とんでもない表情を醸していたようだ。


 ……以後、自嘲せねば……取り敢えず、もっと親しくなってから出すくらいに。


 私は己への戒めをやや緩く定めながら、プレジアに満面の笑みを浮かべてみせる。


「うぬ! そのギャップも面白いのう! しかし、それでは何で腹熟しを……あ! ポテのチップ屋じゃ! シホ、あれは美味くてのう、儂の好物の一つじゃ!」

「ポテトチップス?! どこ、どこ?!」

「おお! 知っとるのか、シホ! 流石グルメじゃな!」


 満腹であり、腹熟しをする予定だったはずの私達は、ポテトチップスを求め、露店目掛けて駆け出した。

 例え満腹でも視界に入る食べ物は全て、食べ尽くしたくなる。そこが露店の妙だ。その上、発見したのは元世界でお馴染みのポテトチップスだ。

 ポテのチップは厚手の紙の袋に入れられ、塩味は勿論、焼き肉っぽい甘辛パウダー、胡椒などのスパイシーなパウダー、チーズ味やホワイトソース味など、様々なフレーバーが用意されている。


「全部じゃ! 全部掛けるのじゃ!」

「味、混ざっちゃったら台無しだよ?! 私はブラウンソース……ギューシチュー味をこの辺に、この辺はトマト……テマッツスパイシー味で!」


 勿論これも味見だ。

 露店のおじさんが禿げ上がった頭を撫で、笑みを引き攣らせている。

 プレジアは金持ちのようだが、タダで食うのはまた味が違うと、好んで強請ねだっている。

 私もそれに同意し、無料で貰う食べ物を満喫する。

 ……とはいえ、この世界に来てから金銭に関わったことはないが。

 兎も角。プレジアと私は城下町を十分に満喫した後、隠れ家へと戻っていった。




 太陽が西に沈みかけ、辺り一面を真っ赤に染め上げている。

 家に着いた私は、早速オーブンを百五十度に温めた。

 ……目安としては黒光りするほどじっくり焼く、で大丈夫だろうか。

 オーブンにバナナを放り込み、様子を見る。

 焼き上がったバナナは緑色の皮を真っ黒に変色させ、部屋の光を反射している。

 熱すぎて上手く触れないが、かなり柔らかくはなったようだ。

 それをそのまま冷蔵庫に突っ込み、冷えるのを待つ。


 私の行動に興味を持ったのか、プレジアがいちいち付いて回るのが可愛らしい。

 漸く触れるくらい冷めたバナナの皮を剥き、味見をしてみる。

 ……うん、甘い! 成功だ!

 指を咥え、羨ましそうに私を見上げるプレジアに、半分に折ったバナナを手渡す。

 プレジアはそれの匂いを嗅ぎ、首を傾げながら口に放り込んだ。


「!! 甘ッ!! これは、美味いのう!!」

「?! ちょ……プレジア?!」


 甘くなったバナナが大層お気に召したプレジアは、黙々とバナナを食べ続ける。

 次々と手に取られたバナナはあっという間に最後の一つとなり、それもプレジアの口の中へ瞬く間に消えていった。


 ……菓子に使おうと思ったのにな……


 それにしても、この世界ではバナナを熟して食べないのだろうか?

 私はプレジアの感激振りを不思議に思いつつ眺める。

 バナナを食べ尽くし、我に返ったプレジアは己の手を驚愕の眼差しで見つめる(愕然として刮目する)と、怯えた表情でゆっくりとこちらへ視線を動かした。


「……す、すまぬ……。……あまりに美味くてつい、うっかり……」

「……まあ、気に入って良かったよ。菓子の材料は他にもあるし」


 少し考え込んでから、私は調理台で紅茶を濃いめに入れ、買ってきたレモンもどきを絞る。

 卵黄に砂糖を加え、白くもったりするまで掻き混ぜる。

 そこに植物油と蜂蜜、紅茶とレモン汁に、乳鉢ですり潰した茶葉を加え混ぜ小麦粉と篩っておいた物を入れていく。

 メレンゲも少しずつ加えていき、泡を潰さないよう混ぜる。

 持ってきたシフォン型にその液を入れ、暫く焼いたら均等に焼けるよう表面に幾つか切れ目を入れ、再び焼き上げ、それを逆さにして冷ましておく。

 蜂蜜レモンティーシフォンケーキの完成だ。


「ふふぁふぁふぁふぁ!! ふわんふわんシュワッとしとるのう!!」


 きめの細かいシフォン生地が、ふんわりと柔らかくもしっとり感があり、口の中でシュワッと溶けていく。

 蜂蜜のあっさりとした甘さと旨味、レモンの爽やかな酸味が紅茶の香りと混ざり合い、香ばしい小麦の風味がそれらを引き立てている。

 さっぱりとしていて、幾らでも食べられそうだ。

 雄叫びを上げていたプレジアも、無言になってシフォンケーキを口に運んでいる。

 既にシフォンケーキは半分以上無くなっていた。

 ……バナナを食べまくった後なのに、よく入るな。

 私が感心しながらプレジアを見入っていると、不意に台所の方から音が聞こえてくる。


「……こんな所でまで菓子作りか、お前らしいな」

「シホちゃん、はっけーん! 美味そうなの食ってるな!」

「ま、魔王様っ?! コンセルさんっ?!」

「なっ?!! な、なな何故此処がッッ?!」


 魔王様とコンセルさんが、城よりかなり低いドアの上枠を屈みながら入ってくる。

 二人の姿にプレジアは驚愕の表情を作り、慌てて口元をナプキンで拭う。

 魔王様は躊躇いなく当然のように、テーブル中央にあるシフォンケーキに手を伸ばし、それを一口分掴んで口に運んだ。


 ……千切って食べないで、どうせなら切り分けさせてもらえないだろうか……?


 とは、とてもいえる状況ではないことは、魔王様とコンセルさんが目元まで影を落とした笑顔からドス黒い空気を放ち、それを受け、部屋の隅で縮こまり、真っ青な顔色で全身を震わせているプレジアから感じ取れた。

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