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第三十九話:緊急特別最重要案件によるファムルの暴走

 夕食を堪能した後、緊急特別最重要案件を思い出した私はファムルに相談するため、部屋に来てもらう。

 その、緊急特別最重要案件とは。当然、魔王様と朝食後に二人きりで話をする時間を設けたことだ。

 貴重な時間を割いてもらうのだ。無駄な時間にしてはいけない。

 議題とその膨らませ方、質疑応答の予測と回答例など、考えることが目白押しで、私の脳では許容しきれない。というわけで、我が親友の頭脳に頼ることにした……のだが。


 私の真剣な相談を、ファムルは真剣に聞き入っていた表情を徐々に緩ませ、果ては呆れ顔になって深い溜息を吐き、脱力感全開で項垂うなだれた。


「……シホちゃん……。そんなガチガチに内容を決めたら、魔王様が仕事を思い出しちゃってリラックス出来ないよ……?」

「ああっっ!! 仕舞ったっっ!! けど、何を話せば……」

「内容は、お菓子でも何でもいいの! その時の気分で! それよりも!」


 ファムルは急ぎ足で隣の部屋へ行き、大量の服を持って戻ってきた。


「だって! デートだよ! 魔王様がもっとシホちゃんに夢中になるような格好、しなくっちゃ!」

「ふへあっっ?! で、でででーと、だとおっっ?!」

「因みに、シホちゃんが考えてた格好は?」


 ファムルの言葉に衝撃を受け、混乱しつつも私はいつもの、異世界こちらでは特注で作ってもらっている、Tシャツとレギンスにショートパンツという、普段から愛用している服装を取り出した。

 ファムルはその服を見、私へ愛らしい笑みを浮かべると、右手でその服を纏めて横に追いやる。私は驚倒しつつ、カーゴパンツを恐る恐る手に取ると、笑顔のままファムルはカーゴパンツを取り上げ、横に追いやった服の上にほうった。


「……シホちゃん? 巫山戯ふざけてないよね……?」

「も、ももももも勿論……ッッ!!」


 何だか笑顔で黒い雰囲気を放つファムルが怖い。こんなに怖いファムルは初めてだ。

 どこをどうしてここまで怒らせてしまったのかと私が思案に暮れていると、ファムルは軽く息を吐き、切ないような心配した表情で私へ向き直した。


「シホちゃん。私、怒ってるんじゃないよ? シホちゃんが大好きで、幸せになってほしいから言ってるんだからね?」

「ファ、ファムル……」


 私は感動に胸を打たれ、ファムルの瞳を凝視し、今まで聞けなかったことを口にした。


「……ファムル……魔王様のこと……好きなんじゃ……?」

「えっ?! し、シホちゃん……気付いてたんだ……」


 ファムルは一瞬驚いた顔を見せるが、少し悲しげな笑みを浮かべながら私の手を取り、言葉を紡ぐ。


「……うん。大好き、だよ。助けてくれて、こんなに素敵なところにいさせてくれて……。魔王様のためなら、何だって出来るって思ってるよ……」

「……なら! 何で私に……!」

「でも! シホちゃんも大好きだから!! 私は、大好きな二人が幸せそうに笑い合っててほしいの! だから……」

「……ファムル……」

「だから! 可愛い格好して、もっと魔王様の心を奪っちゃえ!!」

「……はい?」


 ファムルの複雑な心境を思い、心苦しくなる私には、一瞬、何を言われたのか理解出来ない言葉が耳に飛び込んでくる。


 ……あ……ありのまま、今、言われた事を反芻するぜ! 魔王様のことを好きだと、何だって出来るほど好きだといったファムルが、私に、もっと魔王様の心を奪えって言ったんだ!

 何を言っているか分からないかもしれないが、私にも分からない。頭がどうにかなりそうだ。いや、どうにかなっているんじゃないだろうか。


 顔面蒼白で冷や汗を流し、ファムルへ視線を固定させている私に、ファムルは心配して私の肩を揺すってきた。


「し、シホちゃん?! え、と……私が言いたかったのは、私の魔王様への感情は、恋かと思ってたけど、どっちかというと憧れに近いみたいで……。それで、シホちゃんのことも同じくらい、ううん、もっと大好きな大事な親友って思ってるから、シホちゃんと魔王様が仲良くしてるのを見てると、心がほっこりしてくるようになって……! ……って、分かってもらえるかな……?」

「……あ、何か分かった気がする」


 つまり、ファムルの推しが魔王様で、推しカプが魔王様と私、という解釈が近いのか。

 それがもっと現実的な、ファムルの生い立ちなどの事情から考えられる、友愛や親愛、愛し方などが関わっており、多少の違いはあるだろう。だが、分かりやすく考えれば、推しカプが一番近い気がする。

 何より、私を『恋よりもっと大好きな、大事な親友』と思ってくれている。ファムルとの親友両思い状態が嬉しくて、私は感謝を込めた笑みをファムルに向けた。


「有り難うね、ファムル。私も逆の立場だったら……ううん。ファムルが望むなら、全力で協力するよ!」

「シホちゃん……! ……私こそ、有り難う! すっごく嬉しい! じゃ、ガンバろーね!」

「はへ?!」


 ここは、お互いの友情を確かめ合った喜びで、抱き締め合うところではないのだろうか。


「シホちゃん! 先ずはこれとこれを合わせて着てみて! 次、これね! 淡い色使いとか、フリルやレースにリボンが苦手なのは分かるけど、魔王様の好みを探るためにも色々試さなくちゃ! ね!」


 私の親友は目を爛々と輝かせ、何だかとても楽しそうに色々な服を組み合わせていく。


「やっぱり最初が肝心だよね! それとも、手堅くいくべきなのかな? 奇をてらうのもありかもだけど、シホちゃんって何でも似合うから困っちゃうね!」


 ……似合うかは知らないが、とても困った表情には見えないぞ、マイエターナルハニーよ……。


 私は今のファムルに逆らうのは悪手と考え、ファムルの着せ替え人形と化した。

 私は言われるがままに着替えつつ、元世界の『私』へ接続し、ネットで検索してみる。

 スキニーにはフリルトップスなど、ガーリーとカジュアルを合わせたり、想像よりもカジュアルでシンプルなものが多い。だが世界観が違いすぎ、参考にしていいのか分からない。

 徒、元世界では、ピンクにフリルとレースがこれでもかと付いたブラウスとスカートのような、気合いが入りすぎて引きそうな服装がシンプル系……普段着に入れられているようなこの世界で、私の普段着が浮きまくっているのは事実だ。


 魔王様がラフな格好をしてくれればいい。などと無理難題を考えながら、私の格好だけが色々と変わっていく。

 散々着替えた結果。ファムルの中では、淡い青のショールに白いワンピース……太めの布でウエストを締め、淡い水色のレースで所々を飾っている、キャップスリーブで短い詰め襟のようなロールカラー、フレアスカートの裾へ刺繍が施されたワンピースに、ポイント刺繍の入った淡い青色で作られたショールをブローチで留めた服装が、しっくりきたようだ。

 後は靴や装飾品をさり気なく合わせるよう、色々と組み合わせて付けられる。ネイルや化粧も言わずもがなだ。

 ファムルはやりきった感で清々しい笑顔を見せ、親指を立てた拳を見せた(サムズアップする)。


「うん! 爽やかで清楚な感じが最初のデートにはいいよね! 髪型はどうしよっか?」

「い、いや、そこまで変えると、気合い入りすぎてて魔王様が引くって!」

「そうかな? 気合いを入れれば入れるほど、魔王様は喜ぶタイプな気がするよ?」

「私がキツいよ?!」

「うーん。私だけの感覚だと、やっぱり心配だよね」

「いや、全然!」

「うん! 他の人にも見てもらおうよ!」


 最早、私の意見は通らないらしい。

 他にも数人のメイドさんがファムルによって呼び出され、今度は正に着せ替えさせられる状態までいってしまう。突っ立っている間に次々と服が替えられていき、全員で意見が交わされていく。

 私は、私がここまでされるのに対し、魔王様が何もしないでいつもの格好である状態に理不尽さを感じ、声を荒げた。


「魔王様にも!! 服の変更を要望する!!」

「畏まりました! シホ様のご命令ですので、逆らえませんよね!」

「……ぇ……?」


 思っていた反応と違い、逆に大義名分を得たことに喜ぶメイドさん達が、他の人達と連絡を取り合い始める。

 興奮気味にはしゃいでいるように見えるのは、私の幻覚だろうか。


 ……何だか、物凄くまずいことを言ってしまった気がするぞ……?


 …………勢いで巻き込んで申し訳ありませんこのお詫びは菓子で魔王様のお気に入りのものを更にチョクラ神や聖なるチョクラを施し正にチョクラ尽くしの菓子でお詫びいたしますのでどうか私のせいでとお怒りになりませんようお怒りと言うべきかこのせいで二度と二人で会う気が無くなり好感度も爆下げになりそうなのでメイドさん達がその辺を考慮して私の命令とか言わずに魔王様のご機嫌を損ねないようにどうか正気を取り戻してお互いにそっとしておいてくださいと言うべきか今更どういえばいいのか分からないけれどとにかく魔王様には先ずはお詫びをしますので五体投地までで許してもらえると助かりますがそうすると今度は服を汚してファムルが怒り心頭に発すような気もするのでどうか言葉だけでも…………


 魔王様へのお詫びの言葉を脳内で念仏のように唱えながら、結局服はファムルが選んだワンピースに決定され、私はされるがままに全身エステまで施され、そのまま眠りに就いてしまった。


 ……ああ! 菓子の素材作りがッッ!!

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