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第二十七話:インタビュアー姿のサプライズパーティー計画

 昼間は暑く、夜は涼しくなってきた、今日この頃。

 新しい部屋へ皆を呼び、宴会をしたり泳いで遊んだりと満喫しつつ、毎日の菓子を作る。

 そんな生活を続けていれば当然、魔王様との距離が縮まるはずもなく。焦燥感を感じ、夜を迎える日々が続く。

 そして朝だけは気合いを入れて起きるという、何とも学習能力のない怠惰な日々を繰り返していた。


「今日こそは! 魔王様の好感度を爆上ばくあゲットだぜ!」


 だがしかし。私には菓子以外の策がない。

 他に出来ることが何かないかと『私』を使ってネットで調べてみると、同じ悩みを持つ同志諸君によって様々な情報が溢れていた。


「占い……? 生年月日と血液型あ?!」


 色々とリンクを辿っていくと相性占いに辿り着き、思わず相性を調べようとするが、私は魔王様の生年月日も血液型も知らない。

 そもそも、血液型は異世界こちらでもABO式なのだろうか。


「……考えると、私は魔王様のことを何も知らないな……」


 こうなったら直接、魔王様ご本人から個人情報を聞き出そう。

 私は朝食後、執務室へインタビュアーのような格好で訪れた。


「……というわけで、魔王様の個人情報をお教え願いたいのですが」

「唐突だな」

「というよりも、今頃か、と。……まあ、そういう所がシホちゃんらしいよな」


 驚く魔王様に、苦笑するコンセルさんと、対照的とも思える反応が返ってくる。

 コンセルさんの言葉に若干心を抉られつつも、私は挫けずにインタビューを続けた。


「生年月日と血液型を。後、趣味、特技、出身大陸や魔王即位時の年齢と、即位からどの位経っているか、など色々教えてください」

「……難解な質問だな……」


 余りに昔のことのようで魔王様は困惑し、追想する。コンセルさんも空を見上げ、記憶を辿っているようだ。


「……誕生日は確か……十月……始めの方でしたよね? 前任者から聞いた気が……」

「ああ、そういえば……八日、だったか。コンセルは私が調査し、六月五日と判明したのだったな」

「へ? 調査して……判明?」


 魔王様は余計なことを言ってしまったと、気不味そうにコンセルさんを見、視線を逸らす。

 私がコンセルさんへ視線を向けると、コンセルさんは笑顔で淡々と事情を明かした。


「実は俺、物心が付く前に捨てられたんで、ストリートチルドレンの連中と育ったんだ。魔族は母性よりも戦闘本能が強い人間が多くて結構ある話なんで、気にしないでくれると嬉しいな」


 これは所謂いわゆる、スラム街で必死に生きようとする子供達が犯罪に手を染め、その日その日を暮らさざるを得ない、元世界の報道であったような状況だろうか。

 しかし、気にしないでほしいと言われたのだ。気にする方が失礼だ。


「あ! 誕生日、過ぎてるよ! 祝いたかったな……。言ってくれればいいのにな」

「けど、さ……」

「コンセルさんが生まれたから、出会えて仲良くなれたんだ! 私としては、生まれてくれて有り難うって祝いたいよ!」

「え、と……。あ、有り難うな、シホちゃん……」

「それはこっちの台詞だって。来年は盛大に祝おう!」


 コンセルさんは照れくさそうに頭を掻き、お礼を言ってくる。私は忘れないように、魔王様とコンセルさんの誕生日をメモに書き記した。

 魔王様の誕生日にはまだ日があるが、催しのための準備期間も必要だ。今からどんな誕生日会にするか、相談しておくか。


「では、魔王様。誕生日には、どんな菓子が食べたいですかい?」

「む? ……といわれても……毎日食している故、特別なものにすることもあるまい」

「成る程。魔王様はサプライズがお好みだ、と」

「な?!」

「お! いいな、それ! 俺も手伝うよ!」

「よし、作戦会議だ!」

「ま、待て、二人共! コンセル! お前は仕事中であろう!」

「今日の分は、既に終わらせてあります! では!」


 意気揚々と私の背を押し、先へと促すコンセルさんと私は、私の部屋で魔王様誕生日会の作戦会議をすることになった。

 庭園を一望するサンルームで、私とコンセルさんはコーヒーを飲みながら熟考する。


「さて魔王様は、どんなことで驚くか?」

「シホちゃんの菓子になら、いつでも驚いてるからな……。特別感がないよな」

「だから、顔が崩れるくらい驚かせたいんだよね」


 サンルームからは、綺麗に整えられた庭園が視界を埋め尽くす。

 その、整えられた植木の緑に囲まれた道が、元世界の立体迷路を思い起こさせた。


「立体迷路の先に会場がある……って、魔王様に迷路は通用しないか」

「城内規模なら尚更そうだな……。シホちゃんが何処かに隠れても、直ぐに見付けられると思うしな」


 庭園を何気なく眺め、中央にある噴水に目を向けた私は、噴水から連想された菓子の名を、声高に上げた。


「……あ! チョコレートファウンテンッッ!!」

「ん? それはどんなものだろ?」


 私はその名称が表す菓子を、コンセルさんに説明する。

 噴水に似た、上部から流れるチョコレートに具材を浸けて食べる、デザートビュッフェなどの目玉にされる菓子だ。

 コンセルさんも興奮した表情で、私の解説に聞き入っている。


「おおっ! 凄えッッ!! それなら魔王様、絶対驚くぞっ!!」

「問題は、機材なんだけど……」

「それなら俺が魔王様に内緒で作らせるよ。仕組みを教えてくれるか?」


 私は、最下部の受け皿が熱を帯びてチョコレートを溶かしたまま、タワー内部の空洞からスクリューでチョコを汲み上げて外部に溢れ出し、数段ある受け皿を伝って循環している、という機材構造を説明する。

 コンセルさんは頷きながら、頭の中で構築していくかのように、私の話を聞いていた。


「成る程! その、チョクラを溶かした状態に保ち、下の器で受け止めたチョクラの液体を、内部で上昇させて頂点で外部に流し出す構造が出来ればいいんだな!」

「三十五度くらいが適温だと思う。十七度くらいで溶けてくるけど、五十度から六十度になると焦げてくるんで、体温くらいに保てればいいかな」

「オッケー、分かった! 魔王様にバレないよう極秘で作ってもらうな!」


 流石、コンセルさんも顔が広い。

 これでメインが決まり、後は、思い付いた時に改めて話し合うことになる。

 茶請けに出した焼き菓子を素早く手に取り、頬張っていくコンセルさんの動きを見、私は頼まれていたことを思い出し、情報球を差し出した。


「そういえば、頼まれてた『避ける人形』のデータ、渡しておくよ」

「お! サンキュー! で、どうだった?!」

「全クリした」

「……へ?! ま、魔王様も……か?」

「そりゃ、それなりに苦労したけどさ。避けるだけで攻撃してこないなら、こっちが攻撃に専念すればいいし」

「……あ。シホちゃんには盲点だったな、それは。オリジナルの『戦う人形』を作るよう、魔王様と相談しておくよ」

「……へ?」


 何故か『戦う人形』の動作をどうするか、彼此あれこれと聞かれ、スイッチに魔力を通すと戦闘専用の空間に転移され、戦闘シチュエーションも選べるようになるという、完全に対戦格闘形式を模した計画が進められてしまう。

 私が狼狽えながら返答しているところへ、魔王様からコンセルさんへ連絡が入り、話し合いはお開きとなった。


 ……何故そうなった?! 『戦う人形』とか、疲労感半端なさそうなもの、試す気にもならないぞ?!


 コンセルさんの戦闘意欲にも困ったものだ。……いや魔王様もそうなんだよな……。

 私を戦闘種族だと皆がいうが、ハッキリいって此方の世界の方が戦闘種族が多そうだ。いや、多いに決まっている。元世界では、乳搾りや卵を取るのに命懸けで戦うことはない。……多分。


 私は厨房からキッチンへ、チョクラを大量に運び込んでチョクラの精製を増やし、他にも足りない素材の補充作りをし始めていると、不意に明日の予定を思い出した。


「そうだ、明日はアルが来る日か!」


 作っておいた焼き菓子の、通常生地とチョコ生地を切り抜いて貼り付け、動物や人形のような形に作る。

 それを焼成し、冷ましてから袋に詰めていった。

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