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クラスに戻り、田辺 和可奈に物理のテスト直しの話をした。
「笙子が18点。で、放課後には楡井君が物理の先生」
和可奈はそれきり、黙ってしまった。
「わたしの点数はともかくとして、楡井君に勉強を教わるって、そんなに変?」
「……笙子が休んでいた時の物理のノートのコピーも楡井君が貸してくれたんだけど」
「もしかして、これのこと?」
わたしは鞄からごそごそと、以前、和可奈に貰ったコピーを出した。
「そう。楡井君から」
「これ、和可奈ちゃんのじゃなくて、楡井君の?」
「だって、わたしの選択は生物で、物理は選択してないもん」
「和可奈ちゃんが楡井君に頼んだの?」
「違うよ。笙子が休んでいる間のノートをいろいろと集める中で、彼が声をかけてきてくれたの。楡井君とは、わたしも接点なかったから驚いたんだけど、笙子とは物理で同じクラスだっていうし、まぁ、貸してくれるっていうならありがたいから、そうさせてもらったんだけど。それが、テスト直しまでとはねぇ」
和可奈が、意味ありげなほほ笑みを向けてきた。
「わたしと楡井君、実はひそかに仲が良かったとか?」
「どうなんだろう? 楡井君だろうが、誰だろうが、男子だよ。ミス・堅実の笙子は、男子には、近づかないじゃない」
――ミス・堅実。
笙子に、そんな渾名が与えられていたとは。
「わたし、男嫌いだったのね」
「そうじゃなくて。笙子、いろいろと面倒な目にあったのよ」
「わたしが? トラブルでもあったの?」
「覚えてないのなら、聞かない方がいいかも」
「知りたい。これから、また同じ目にあうかもしれないじゃない」
あの「7月12日 PM6:15」の謎を解くヒントになるかもしれない。
「それもそうね。笙子は、綺麗だし、男の子から人気があるの。だから、ちょっと宿題を教えただけの男子がその気になったり、その男子の彼女がヤキモチやいてきたりとか」
「もしや……修羅場が?」
「そこまではいかないけど。笙子、嫌な思いはしていたと思う。笙子って勉強できるから「教えて」って口実で近づきやすいのよ。でも、今回は、笙子が教わるのよね」
でも、近づいてきたのは楡井だ。
「楡井君には彼女いるかな? わたし、いじめられそう?」
「楡井君、彼女はいないと思う。でも、そうね。以前の笙子だったら、楡井君は避けるかも。彼、さりげなく人気があるから」
人気な笙子と、さりげなく人気の楡井。
嫌な予感しかしない。
「そういえば、高1のときの同じクラスの芦田 祐仁君。高校入ってすぐの4月だったかな。笙子が勉強を教えてあげたの。そのあと、なんかすごくしつこくて」
「それで、どうなったの?」
「ある日、笙子が、もう解決したから大丈夫って。聞かないでって雰囲気だったから、わたしもそのままにしちゃった」
「そうなんだ。心配してくれたのにごめんね」
「いいよ。なにも起きなかったから。笙子の言う通り、大丈夫だったんだよ」
笙子は一人で解決したのか。
それが悪いとは言わないけど。
こんなにいい友達がいるのだから頼ればいいのにって、姉としては思うよ。