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ごめんね、もう少し  作者: 仲町鹿乃子/鹿の子
2・香奈→楡井君
8/50

1-1

 物理の小テストは、終了した。

 テストは終了したけど、物理はわたしを解放してはくれなかった。

 バツだらけの答案を返されたわたしの前に、先生が立つ。

「まぁ、朝倉あさくらはいろいろあったからな。どうにかしたいと思ったけど。この点数じゃ、なぁ」

「……追試ですか?」

 先生は気の毒そうにわたしを見ると、大きく頷いた。

 返されたテストは、お世辞にも素晴らしい点数とは言えない。

 素晴らしいというよりは、ある意味こうばしさを感じる数字だ。

「でも、今回は、返却したテストの直しができていれば、追試の点数は多少あれでも考慮するから。基礎的な問題ばかりだし、そう難しくもないだろうから。朝倉なら大丈夫、頑張ってくれよ」

 先生は、言うとクラスを見渡した。

「他の赤点諸君は、そうはいかないからな」

 わたしの赤点仲間と思われる同級生に向かい、先生は大声で言った。


 物理。

 わたしが高校の時に、こんな教科あったでしょうか? などと、ぼけてみてもしょうがない。

 先生は「朝倉なら大丈夫」って言ったけど、朝倉にもいろいろいるんですよ。

 テストを前にすれば、思いもよらないパワーが出るんじゃないかって思ったけど、甘かった。

 ぱらぱらと教科書をめくり、ため息をつく。

 先生は、基礎だと言うけれど、その基礎さえままなりませんよ。

「俺が答え、教えようか」

 ふと見上げると、わたしの席の前に楡井 慧(にれい さとし)が立っていた。

 物理は選択授業なので、いくつかのクラスが混ざっていた。彼がいるのは認識していたけれど、まさか話しかけられるとは思わなかった。

 楡井はわたしを見下ろしている。

「それ、わたしに言っているの?」

 楡井が頷く。

 答えを教えてもらえるのはありがたいけど。この子と、こんな風に接してもいいんだろうか? 楡井が笙子のことを気にしているのはわかるけど、笙子がどう思っているかは、わからない。

「えっ、嘘だろ。18点?」

 楡井がわたしの点数を凝視している。

 ちなみに、テストは50点満点ではない。その倍だ。

「赤点だもん。そんなものでしょう?」

「まぁな。でもさ、朝倉のそんな点数を見るとは思わなかった」

 半ば感心したような言葉の響きに、わたしは何かしらの含みを感じた。

 委員が同じってだけじゃないのかも、この子。

 笙子と楡井は、テストの点数を知る程度の付き合いはあったのかも。

 なるべく笙子が戻って来た時に影響がない暮らしをしたいけど、でも、少しは何かしら動かないと解決策も見つからない。


「あの、では、お願いします。わたしに物理を教えてください」

「わかった。放課後、朝倉の教室に行くから、そこで勉強しよう」

 楡井はそう言うと、側にいた男子と一緒に教室を出て行った。


 楡井、親切男子か?

 わたしは、自慢じゃないが、勉強を教えてもらうのは、得意だ。得意、というのは言葉に語弊があるかもしれないけど、それは素の自分に――朝倉あさくら 香奈かなに、とっては、日常茶飯事なことだったから。

 教えてもらった相手は、宗田そうだだったけど。

 宗田は、運動バカの癖に、勉強までできて、おまけに面倒見までよかった。失恋するまで、わたしはどっぷりと彼にお世話になっていたのだ。

 あのときが、楽しかったから。

 宗田も、よく笑ってくれたから。

 宗田も、わたしが好きなんじゃないかと希望を持ってしまったのだ。


 そんな昔を思い出し、少し切なくなる。


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