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ごめんね、もう少し  作者: 仲町鹿乃子/鹿の子
1・25才会社員→高校生
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2-1

 放課後、わたしのもとに、隣のクラスの女子生徒がやってきた。彼女は須田すだ 佐知さちといって、笙子(しょうこ)と同じ図書委員だ。

「朝倉さん、これから委員会だけど。どう、出られそう?」 

「うん、大丈夫だよ」

「じゃあ、行こうか」

 委員会のたびに、佐知はこうやって誘いに来てくれる。

 笙子の周りには、穏やかで優しい友だちが多い。

 それはひとえに、笙子がそうだからだろう。


 わたしの友だちが、優しくないというわけではない。ただ、中学校でも、高等学校でも陸上競技を続けてきた関係か「男とか女とか関係なくみんな友だち」といった、大雑把な雰囲気の子が多かった。

 友人関係も、しっとりとかほっこりとは言い難く、ガサガサとかバサバサとか、音にするとそんな擬音の間柄だった。

 高校のときの陸上部のモットーは「悩むなら走ろ!」だった。

 わたしも例にもれず、宗田そうだ 邦彦くにひこに失恋したときは、グランドをひたすら走った。それを、同じ部活だった彼も見ていて……。

 あぁ、思い出しても恥ずかしい。わたしの高校時代って、どうしてこんなにイタイのだろう。

 だから余計に、笙子としての生活は、戸惑いも多いけれど新鮮だ。

 そして、思うのだ。

 姉妹とはいえ、わたしは笙子のことを何も知らなかったのだと。


 わたしと笙子は、仲が悪かったわけではない。

 良いか悪いかと聞かれれば、関係は良好だった。

 喧嘩だってした覚えがない。

 でも、それはわたしの言い分だ。

 笙子がどう思っていたのかは、わからない。


 家での話題の中心は、いつもわたしだった。

 友だちのバカ話を披露したり、自分の失敗をおもしろおかしく話したりした。そんなとき笙子は、にこにこしながらわたしの話を聞いては、ころころと笑ってくれていた。

「お姉ちゃんって、おもしろいね」

 笙子にそう言われるのが快感で、なお一層おもしろい話を仕入れては、家族に披露した。それが、わたしだった。

 笙子は、わたしの話を聞くばかりだった。

 わたしから彼女の生活や友人について尋ねたことは、おそらくない。

 笙子は、そのことをどう思っていたのだろう。 

 自分の話ばかりする姉を、うっとおしく感じていなかっただろうか。

 わたしは、ちっとも妹思いの姉ではなかったのだ。




 委員会は、3階の空き教室で行われた。

 図書委員の面々は、真面目で本好きが多いようだ。

 今日の議題は、夏休みの貸し出し図書の件だった。

 どうやら、貸し出した本の数が去年と比べて少なかったらしく、みんなが本を読んでくれるためには何をしたらいいのだろうかと、真剣に悩んでいた。


 そんなの簡単だ。

 漫画を置けばいい。

 できたら、シリーズものを全巻、どんとお願いします。

 古本屋で買えば、安く買えますよ。

 もしくは、ネットで流行りの恋愛小説はどうでしょうか?

 わたしの通勤のおともとして愛読していた、とびきり切ない物語がこのたび出版されましたが。


 そんな案が喉まで出かかったけど、我慢した。あんまりな発言は、笙子の今後に支障をきたす。彼女たちが、みんなに読んでもらいたいのは、志賀直哉とか夏目漱石なのだそうだ。なので、わたしは笙子らしく、時折まつ毛をふせながら、とにかく頷いていた。

 そんなわたしに、出席者の一人の男の子が、かなりぶしつけな視線を送ってきている。

 そっと口元や鼻の下を、手で触る。

 ご飯粒とか、鼻水とか。

 笙子の顔についていてはいけないモノがないかを、さりげなくチェックした。

 うん、大丈夫。たぶん。

 女子として、問題視される事態は起きていないようだ。

 と、いうことは。

 この男の子は笙子に、興味があるのだろう。

 あれ? 

 もしかして、笙子の彼?


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