表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごめんね、もう少し  作者: 仲町鹿乃子/鹿の子
8・香奈→対決
39/50

 それは、心だけになってもここにいるわたしが抱える、罪悪感。

 なんで、残ってしまったのか。

 でも、そんなこと、この人に言われる筋合いではない。


 まして、わたしの死を、この人になんか語ってほしくない!

 あんたに、いったい、わたし達のなにがわかるっていうのよっ!


 力が湧く。

 満ち満ちた、力が。


 その力で、勢いよく村沢先生に肘鉄をした。

 村沢先生が、うっとしゃがみ込む。


 そのタイミングで、階段を勢いよく駆けあがってくる足音がした。


 村沢(むらさわ)先生が顔をあげた。


楡井(にれい)先生?」


 薄暗い踊り場で、楡井に向かい村沢先生はそう言うと、うずくまった。


 ――助かった。でも。


「誰か、来て下さい!! 助けてください!!」


 大声で、助けを呼ぶ。

 今まで、笙子(しょうこ)の声で、こんな大声聞いたことが無いと思うほど声を上げる。

 その、ただならぬ様子を察知したかのように、多くの人が駆け付けた。


「楡井先生、見ないで。楡井先生、見ないで、見ないで」


 村沢先生は、楡井から顔を隠すように体の位置を変えた。

 さっき、わたしを捕らえたときの堂々とした態度とは大違いだ。

 その村沢先生を、集まって来た塾の先生たちがゆっくりと立たせた。

 そして、生徒から隠すように、その場から連れ去った。




「笙子ぉ!」

 うそうそ、なにがあったの、と和可奈(わかな)がわたしにしがみついて来た。

 和可奈は、あたたかかった。


 大きくなってからというものの、わたしは笙子と、こうして抱きしめあったことなんてない。


 和可奈の背中に手を回しながら思う。

 妹って、こんなんだったな、と。

 今では、わたしよりも背が高くなった笙子。

 でも、幼稚園や小学校の低学年のときは、よく抱きしめた。


 ほんのりと、ミルクの香りのするその体を、ぎゅっと。

 すると笙子もわたしをぎゅっと、抱きしめてきたのだ。

 その度に、笙子の小さな、でも力強い心臓の音がわたしの体に響いてきた。


 ――あぁ、すごいな。こんなに小さくてもちゃんと生きているんだ。





 忘れていた、昔の思い出。

 でも、今、思い出した。



 そして、あの、軽くて無責任と言われた楡井先生も、弟を守るように抱きしめていた。

 あれは、相当のブラコンだな。

 もしかすると、楡井先生が笙子の相談にのったのも、弟の片想いの相手だったからかもしれない。

 




 村沢先生は、水を向けるまでもなく、全てを白状した。


 最初は、手紙だけだったこと。

 けれど、「無神経」な笙子が気が付かないので、怪我をさせたこと。

 事故後は、笙子を心配する和可奈を利用し、いろいろと探りをいれたこと。

 そして、笙子が楡井先生の講座に申し込んだと知るやいなや、怒りがふつふつとこみあげてきて、もう気持ちが止まらなかったと。



 村沢先生の学生時代は、笙子のように勉強ばかりだったそうだ。

 その時、親切にしてくれた塾の先生がいたそうだ。

 けれど、その先生を好きな他の生徒から、散々嫌な目に合わされたそうだ。


 そのことには、同情するけれど、今回のことは、全くの別問題だ。






 塾には、両親も呼ばれ説明があった。

 両親は、涙ぐみながらもその話を聞いた。

 両親の涙には、いろんな意味があったとおもう。


 笙子が酷い目にあっていたことと、そのことに気が付かなかった自分たちの不甲斐なさ。


 そして今度は、わたしが一人でそれに向かったことへの恐怖。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手 by FC2

cont_access.php?citi_cont_id=447020331&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ