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それは、心だけになってもここにいるわたしが抱える、罪悪感。
なんで、残ってしまったのか。
でも、そんなこと、この人に言われる筋合いではない。
まして、わたしの死を、この人になんか語ってほしくない!
あんたに、いったい、わたし達のなにがわかるっていうのよっ!
力が湧く。
満ち満ちた、力が。
その力で、勢いよく村沢先生に肘鉄をした。
村沢先生が、うっとしゃがみ込む。
そのタイミングで、階段を勢いよく駆けあがってくる足音がした。
村沢先生が顔をあげた。
「楡井先生?」
薄暗い踊り場で、楡井に向かい村沢先生はそう言うと、うずくまった。
――助かった。でも。
「誰か、来て下さい!! 助けてください!!」
大声で、助けを呼ぶ。
今まで、笙子の声で、こんな大声聞いたことが無いと思うほど声を上げる。
その、ただならぬ様子を察知したかのように、多くの人が駆け付けた。
「楡井先生、見ないで。楡井先生、見ないで、見ないで」
村沢先生は、楡井から顔を隠すように体の位置を変えた。
さっき、わたしを捕らえたときの堂々とした態度とは大違いだ。
その村沢先生を、集まって来た塾の先生たちがゆっくりと立たせた。
そして、生徒から隠すように、その場から連れ去った。
「笙子ぉ!」
うそうそ、なにがあったの、と和可奈がわたしにしがみついて来た。
和可奈は、あたたかかった。
大きくなってからというものの、わたしは笙子と、こうして抱きしめあったことなんてない。
和可奈の背中に手を回しながら思う。
妹って、こんなんだったな、と。
今では、わたしよりも背が高くなった笙子。
でも、幼稚園や小学校の低学年のときは、よく抱きしめた。
ほんのりと、ミルクの香りのするその体を、ぎゅっと。
すると笙子もわたしをぎゅっと、抱きしめてきたのだ。
その度に、笙子の小さな、でも力強い心臓の音がわたしの体に響いてきた。
――あぁ、すごいな。こんなに小さくてもちゃんと生きているんだ。
忘れていた、昔の思い出。
でも、今、思い出した。
そして、あの、軽くて無責任と言われた楡井先生も、弟を守るように抱きしめていた。
あれは、相当のブラコンだな。
もしかすると、楡井先生が笙子の相談にのったのも、弟の片想いの相手だったからかもしれない。
村沢先生は、水を向けるまでもなく、全てを白状した。
最初は、手紙だけだったこと。
けれど、「無神経」な笙子が気が付かないので、怪我をさせたこと。
事故後は、笙子を心配する和可奈を利用し、いろいろと探りをいれたこと。
そして、笙子が楡井先生の講座に申し込んだと知るやいなや、怒りがふつふつとこみあげてきて、もう気持ちが止まらなかったと。
村沢先生の学生時代は、笙子のように勉強ばかりだったそうだ。
その時、親切にしてくれた塾の先生がいたそうだ。
けれど、その先生を好きな他の生徒から、散々嫌な目に合わされたそうだ。
そのことには、同情するけれど、今回のことは、全くの別問題だ。
塾には、両親も呼ばれ説明があった。
両親は、涙ぐみながらもその話を聞いた。
両親の涙には、いろんな意味があったとおもう。
笙子が酷い目にあっていたことと、そのことに気が付かなかった自分たちの不甲斐なさ。
そして今度は、わたしが一人でそれに向かったことへの恐怖。




