2
緊張しつつ過ごした楡井先生の授業は、何事もなく無事に終わった。
拍子抜けするほどに。
「笙子、このあと時間があったら進学相談会に行かない?」
和可奈に誘われる。
「進学相談会?」
「うん。塾の卒業生である大学生が来ているの。それで、自分がどんな授業をとって、どんな勉強をしたか教えてくれるのよ。進学相談会というよりは、座談会って言葉の方が合っているかな」
ふっと、楡井と目が合う。
楡井が頷く。
「いいよ、出る」
和可奈についてわたしが歩き出すと、楡井も距離を置きあとに続いた。
進学相談会まで時間があるとわかったので、喉が渇いたわたしは和可奈と一緒にこの階に設置された自動販売機にジュースを買いに行った。
その自販機には、一つだけいろんな飲み物がランダムに入っているところがあるらしく、それが塾生の中では「おみくじ」の役割を果たしているらしい。
出てきたものによって、大吉とか中吉とかあるそうなのだ。
自販機の前の通路は、通路の反対側にベンチが置かれているため少し狭くなっていた。そして、その通路の先には薄暗い内階段が見えた。
わたし達の前に、男の子が二人いた。
けれど、わたしたちが来ると、ペットボトルを手にした男の子たちは、さっとその場を譲ってくれた。
「笙子、なに飲む? わたしはグレープジュース」
「わたしは、その、おみくじのやつにしようかなぁ」
「え、ほんと? あのね、すっごい苦い、ええと、なんだっけな、変わった飲み物も入っているって話だよ」
和可奈がくすくすと笑う。
「苦い飲み物かぁ。……うん、それ出たら、お父さんへのお土産にしよう」
「笙子のお父さんって、苦いのが好きなの?」
「最近ね、うちのお父さんってば、今まで試していない味にいろいろとトライしているの。だから、飲ませてみたいと思って」
「そっか。今日はわたしはグレープジュース気分だけど、今度おみくじ気分になって、苦いお茶が出たら、笙子にあげるよ」
「ほんと? よろしくね。お父さんへのお土産にするよ」
わたしが笑うと、和可奈も笑った。
和可奈が、グレープジュースを買う。
続けてわたしも、自販機にお金を入れようとしたとき「田辺 和可奈さん、だよね。ええと、事務の人が、呼んでるよ」と、そばに来た子が知らない女の子が、和可奈に告げてきた。
「え? なんだろ……。受講の手続きでミスしたかな? ちょっと行ってくるね」
和可奈は開けてないジュースをわたしに預けると、パタパタと廊下を駆けていった。
そして、和可奈に用件を伝えに来た女の子も、役目を終えたとばかりそのまま戻って行った。
自販機の前は、わたし一人になってしまった。
ちょっと、これはあまりよくない展開だ。
楡井の姿も見えない。
なので、わたしも飲み物を買い一旦教室に戻ろうと思った。
手には、コイン。
これを自販機に入れようと体の向きを変えたとき、薄暗い階段の踊り場に、白い封筒が落ちているのを見つけた。
やだ、怖い。
近づいちゃダメだ。
そうわかっているのに、わたしの体はふらふらとそれに吸い寄せられるように、進んでしまう。
そして、屈んでその封筒を取ろうとしたとき、わたしは誰かに腕を掴まれた。




