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講座は、和可奈の校舎で行われるため、最寄り駅で待ち合わせをして二人で向かった。
「笙子がジーンズなんて珍しいね」
えへへ、と笑いながら、動きやすい服を選びました、といったコメントは黙っていた。
校舎の一階で受付をすると、そのすぐ後ろにあるエレベーターで教室のある三階まで行く。
教室の前には、楡井がいた。
楡井はわたしが和可奈と一緒なのを確認すると、一人教室に入っていった。
席は自由だったので、前から三列目に座った。
楡井が、わたしの後ろに座る気配がした。
期待してます、騎士殿。
この講座に誘ってくれた村沢先生については、そのまま楡井にも伝えていた。
楡井の話だと、たしかに村沢先生は、笙子がいた校舎と和可奈がいる校舎で授業を持っているということだった。
教科は英語なので、楡井先生と同じだ。
英語講師同士親しいのかと聞くと楡井は首を傾げ、「ただの同僚じゃない?」と返してきた。
生憎、村沢先生の写真はなかったので、その外見はわからない。
「楡井、村井先生の絵を描いてよ」
そんなむちゃぶりに楡井は渋い顔をしつつも、ノートの隅に細長い生物を描いた。
その絵から推察するに、村井先生の髪の毛は肩までで、身長は笙子より少し高めのすらりとした人物らしい。
塾のチャイムと同時に、一人の男の人が教室へと入って来た。
「にっ、れぇ~!」
女の子たちの掛け声に、びくっとした。
振り向くと、後ろの席の女の子たちが「にっ、れぇ~」に手を振っている。
思わず、後ろに座る楡井に視線を送ると、楡井はまいったなぁといった顔をしていた。
なるほど、楡井先生は、掛け声がさまになるほどにカッコイイ。
楡井を思いっきり派手にしたような顔に、すらりと伸びた背はまるでどこかの俳優さんだ。
楡井先生は外見がいいだけでなく、教え方だってよかった。
緩急もあり、時折、生徒たちに向けて話を振ったり。それは授業というよりも、まるで一種のパフォーマンスのようでもあった。
――生徒個人に関しては超ドライで、あまり真剣に受け取っていなくて。無神経なところがあって。
楡井の言葉を思い出す。
まぁ、そうじゃないとこれだけのイケメン先生は、やっていけないわな。
これで、熱血が入ったら、過労になるわ。
生徒も、そんな先生だと受け入れ、授業を楽しんでいるんだろう。
――でも。
もし、楡井先生に真剣な想いを抱く人がいたら?
笙子は一時期、芦屋のことで楡井先生に相談をしていた。
生徒個人に関しては超ドライな楡井先生のそんな姿を見て、面白く思わない人がいたのかもしれない。
または、密かにモテつつも、ミス・堅実と呼ばれ異性とあまり接触のない笙子が楡井先生と接近したことで、彼女を想っていた男子が行動に出たのかもしれない。
もしくは、それ以外の?
あれこれと考えるうちに、やっぱりわたしの頭は熱くなってしまった。




