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ごめんね、もう少し  作者: 仲町鹿乃子
7・香奈→合服
35/50

 母がわたしに、商店街の福引補助券を見せてきた。ピンク色の券が5枚。

「いいところに来てくれたわ。これから福引をするの。ちょうど1回できるのよ」

「お母さん、がんばって」

香奈(かな)、ひきなさい」

「え、わたし? でも、わたしこういうのって、あんまり当たったことないけど」

「あら。わたしだって、当てたことないわよ」


 うちの家族は、総じてくじ運が悪い。


「あのさ。はずれても、文句はなしね」

「当たり前でしょう。文句なんて、言いませんよ」

 母の笑い声に背中を押され、商店街の真ん中にできた、小さなテントに向かった。


 一等は、あの勝手に床の掃除をしてくれるという掃除機だ。

 頑張ったな、商店街。

 大丈夫か?

 今日の福引の係は、文房具屋さんのおばさんだった。

 おばさんと目が合う。

 おばさんが、にたりと笑う。

 なんとなく、縁起が悪い。


 わたしはおばさんに券を渡した。

 そして、母が見守る中、ぎゅっとハンドルを握り、えいやぁと抽選機を回した。

 抽選機がのそりと回る動きと、少しずれたような重そうな玉の音がじゃらんと響いた後、一個の白い玉が出た。


 その場がしーんとなる。

 そして、空気を裂くように、大きな鐘が鳴り響く。


「おめでとうございます~」


 わたしと母は目を丸くし、顔を見合わせた。





「いやぁ、当たるんだね」


 家までの帰り道、おばさんから渡された目録を、しみじみと見た。

 現物はそこにはないので、後日送付ということだった。


「当たるのねぇ」


 母も感心したような声を出す。


「そういえば、香奈。以前、相談があるって言っていたけど、どうなったかしら?」

「あぁ、うん。……あのね、ほら、少し前になるけど、和可奈(わかな)ちゃんから塾の講座に誘われたって話したでしょう。あれ塾生でなくても受講できるって話だったの。どうしようかと迷っていたけど定員もあるから、お母さんに相談前に申し込んじゃったのよ」

「塾に行くのは構わないけど。よくそんなお金があったわね」

「一応、社会人なんで」

 わたしの財布には、講習会に参加でできるくらいのお金はあったのだ。

「香奈、勉強好きでもないのに。無理してない?」

「わたしもね、少しは賢くなりたいし」


 わたしの嘘に、母は困ったような顔をしつつも、了承してくれた。


 手紙のことは、母には言わないことにした。

 以前は、おびただしい量の手紙について、なにかしらの目安がついたら母に話そうと思っていた。あの時、わたしは孤独だった。一人で考え、動くしかなかった。だから、誰かに相談したかったのだ。

 けれど、今は楡井(にれい)がいる。

 それに、手紙や怪我の話を母にしてしまうと、わたしは、あの塾に近づくことができなくなるだろう。

 それは、困る。

 あの手紙には、笙子をもとにもどす鍵がある。

 これは、危ない橋かもしれない。

 そういった自覚は、あった。


 そんなところに「笙子(しょうこ)」を行かせていいのか、とも思う。


 でも、行かないと、動かない。

 変わらない。

 このままでいいと、香奈でいいんだと思う両親には、わたしのしようとすることは、きっと受け入れられない。

 知られたら、止められてしまう。

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