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楡井とわたしは、一言も話さなかった。
楡井は宗田と話したときとはうってかわって静かで、大人しく家までついて来た。
母は、楡井を見て、心底驚いた顔をした。メールで知らせていればよかったと反省した。
わたしは、台所で仕入れたおせんべいやジュースを楡井に持たせ、香奈の部屋へ行った。
楡井にこの部屋で待つように言うと、今度は、笙子の部屋へと向かった。
そして、机の引き出しごと引き抜くと、それを持って自室へ戻った。
楡井は、部屋の隅にあった小さなテーブルを真ん中まで運んで、お菓子を広げていた。
気が利く子である。
そんな楡井であるので、わたしが引き出しごと持ってきて、それを床にごんと置くと、ぎょっとした顔をした。
「がさつだ。朝倉とは、似てない。朝倉なのに、朝倉じゃない」
「あのね、楡井君。あなたね、少し笙子に幻想を抱き過ぎているんじゃないの? そりゃ、笙子はわたしと違って繊細だけどね」
「お姉さんだって、高校の頃は宗田に幻想を抱いていたんじゃないの?」
「なに、生意気言ってんのよ」
楡井の反撃に口を尖らす。
「宗田の言った『友だち』って、お姉さんのことでしょ。元気の源ってなに? 俺、心臓が止まりそうになったんだけど」
「さっきまでは一言も話さなかったくせに、勢いにのってべらべらと」
「公の場で、こんな話はできないでしょう」
「憎らしいほど、正論言うね」
ほんと、頭を小突きたいほどだ。
「宗田の話、やばかった。それに、お姉さんの顔が赤くなる理由もわかったし」
「そんなん、わからなくてもいい」
「告白、しなかったの? あれは、宗田も脈ありだと思う」
「ふられたの」
「え?」
「だから、告白しましたよ。でも、ふられましたよ。そして宗田は、他の女の子と付き合いましたよ。可愛い子でした。以上。質問は、受け付けません」
わたしの言葉に、楡井が固まる。
「俺……ごめん」
「はいはい、『ごめん』受け付けました。で、笙子のことね」
わたしはそう言うと、引き出しの中の手紙をさす。
楡井がそれらをじっと見る。
「こんなにたくさんの手紙を、朝倉は受け取っていたのか」
「うん。気持ち悪いでしょ」
引き出しから、一通の手紙を取り、その中身を見せた。
日にちと時間しかないその手紙に、楡井が、暗い色のため息をつく。
「お姉さん、ホチキス持ってる?」
そう言うと楡井は、どんどん手紙を開け始める。
「これ全部開けて、便せんが見えるように、封筒とセットしよう」
わたしは楡井にホチキスを渡すと、わたしも楡井と同じ作業をすべく、笙子の部屋にホチキスを取りに行った。
楡井は、あれほど腹がすいたと言っていたのに、飲み食いもせず、ひたすら手紙を開封してはホチキスで留めていた。
止まっていた時間が流れ出した気がした。
希望が持てた。
「お姉さん、この手紙を日付で揃えて」
楡井の指示に従い、月ごとの山をつくり、そしてその中で日付順にした。
手紙は、「7月」から始まっていた。
量としては、7、8月と12、1月。
そして、3月が他の月よりも多かった。
しかも、複数の時間も、それらの月にみられた。
手紙の山を見て、楡井が考え込む。
「俺、朝倉が受け取った日時しかない手紙を見たとき、『こんな時間を書いても、朝倉は行けないのにな』って思ったんだよなぁ。ちょっとだけだけど、ザマァミロって思ったんだ」
楡井、気が付かないかもしれないけど、それ告白だから。
あっ、と楡井が叫ぶ。
そして、自分のスケジュール帳を出すと、ぱらぱらと捲りだした。
「これ、塾の授業の時間だ! しかも、兄の」
「楡井先生の?」
英語の講師である楡井のお兄さんは人気があるため、夏休みといった長い休みに入ると、一日のうちで違ったテーマの授業を何コマも受け持つことも、少なくないという。
「だったら、この手紙は、楡井のお兄さんからってこと?」
俺の授業を受けろ、とか?




