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家に帰ると、わたしはそのまま笙子の部屋に入った。
そして、あの手紙が挟まっていた机の一番下の引き出しを、そのまま前に引いた。
真っ白だった。
あの手紙の封筒と同じものが、引き出しの中にバサバサと無造作に入れられていたのだ。
その上の引き出しを開ける。
そこには、塾のパンフレットや、新聞の切り抜きが大きさを揃えて入れてあった。
さらにその上の引き出しを開ける。
ペンやメモ帳が綺麗に整理されて入っていた。
あの引き出しだけが、異質だった。
まるでゴミ箱だ。
わたしは、その場にへなへなと座り込んでしまった。
芦田の冊子にはびくともしなかったけど、この手紙の量にはぞっとした。
一度だけじゃない。
笙子が手紙を受け取ったのは、一度だけじゃないのだ。
一階に下り、台所へと向かう。
母は夕飯の用意をしていた。
「お母さん」
「なぁに」
「相談したいことが、でてくるかも」
引き出し一杯の手紙を見つけたわたしは、そのまま笙子の部屋も調べた。
ごめん、と謝りながら隅から隅まで全て見た。
けれど、あの手紙以外に変なものはなかったし、それに関係するようなものも何もなかった。
手紙に関しては、気になることがあった。
最初に見つけたものには、「日にち」に対して「時間」が一つしかなかった。
けれど、他の手紙の中には、時間が複数書かれたものがあったのだ。
「5月25日 AM10:30 PM2:00」といった具合に。
おびただしい量の手紙からは、悪意しか感じられなかった。
笙子は、想像以上に悪質なトラブルに遭っていたのかもしれない。
母にも伝えなくていけないとわかっている。
けれど、もう少し自分の気持ちが落ち着いた上で、話したいと思ってしまったのだ。
そんなわたしの思いなど知るはずのない母の返事は、「はいはい」と軽やかだ。
けれど、その声を聞くと、わたしはあたたかな気持ちになった。
一人じゃないって思えた。
と同時に、笙子がこれを一人で抱えていたのかと思うと、やりきれない。
どうして家族に相談してくれなかったのかと、情けない気持ちになる。
笙子にとり家族は、頼りない存在だったのだろうか。
笙子のことでいえば、気になることがあった。
最初に手紙を見た時、確かにわたしはあの子を体の中に感じた。
なのに、あのおびただしい量の手紙を見ても、それはなかった。
笙子の反応は、なかったのだ。
理論的ではなく、感覚的な話なんだけど。
やっぱり思う。
時間がないって。
笙子が段々遠くなっていく気がするのだ。
それが、怖い。




