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ごめんね、もう少し  作者: 仲町鹿乃子
2・香奈→楡井君
18/50

4-2

 こんなとき、つくづく、わたしは25歳なんだなと思う。

 芦田あしだの勢いのある言葉に、まったくといっていいほど怯まないのだ。

 だって、社会に出たら、もっと迫力のある先輩方からの、もっと毒のあるお言葉をもらうのだ。それだけでなく、自分の至らなさをズバリ指摘され、アイタタタなときだってある。

 高校生の頃と比べると、対人関係の図太さは、数段スキルアップしているのだ。


 ただ、朝倉あさくら 笙子しょうこの立場で考えると、同じ年の男子のこの剣幕は、怖いだろう。

「芦田君は納得できないと思うけど、楡井(にれい)君に教えてもらおうと決めたの。物理の先生にも勧められたのよ」

「……先生が。わかったよ、そこは譲るよ。それなら、いつ返事はくれる?」

「返事?」

「あれ、読んでくれたんでしょう?」

 あれ?

 もしかして、「7月12日 PM6:15」の手紙は、芦田が?


「朝倉、遅いぞ」

 突然腕を掴まれ、体がよろける。目線の先には、楡井にれい さとしがいた。

「おい。朝倉さんは、ぼくと大切な話をしていたんだ。邪魔するな」

「芦田って、1年の時に朝倉とトラブって、先生が入って話し合いしてたよな。もう、朝倉とはかかわらないとか、そんな取り決めになってたんじゃないの?」

「なんで、おまえがそんなこと知っているのさ。先生も朝倉さんも誰にも言わないって言ってくれたよ」

「でも、俺は朝倉から聞いたよ」

 楡井の発言に、芦田だけでなくわたしも驚く。

「……おまえ、朝倉さんと親しいのか?」

「芦田に言う必要ある?」

 威圧するような楡井の声に、芦田が悔しそうな表情を浮かべる。

「朝倉、行こう」

 楡井に背を押され、わたしは歩き出した。


 芦田君の横を通り過ぎようとした瞬間「朝倉さん、返事、待ってるから」と声がした。



 図書室の準備室は、カウンターの後ろにある。

 室内には楕円の大きなテーブルが置かれ、カウンターと接する面は、ガラス張りになっていた。

 楡井のあとに、準備室に入ると、今日当番の図書委員の子たちが手を振ってきた。笑顔で手を振り返しながらも、わたしの頭の中には、芦田が言った言葉が残っていた。

 ――あれ、読んでくれたんでしょう?

 わたしの手持ちのカードの中で、それに該当しそうなのは、笙子の机の引き出しにあったあの手紙しかない。

 芦田からと思われるメールはなかったし、アドレスもなかった。


「7月12日 PM6:15」の手紙は、芦田から?

 なら、笙子は、芦田からの手紙に、反応したってこと?


 頭の中が芦田の言葉で一杯なままで、わたしは楡井と目があった。


「――朝倉。朝倉?」

「え、は、はい」

「大丈夫? 勉強、できそう?」

「うん。あのさ、芦田君のことなんだけど。わたし、楡井君に相談していたのね」

「してないよ」

 目を丸くして、楡井を見る。

「なら、どうして知っているの?」

「それは、言えない」

「意地悪しないで、教えてよ」

「こっちにもいろいろと約束があるんだよ」

「どういう意味よ」

「そんなことより、今は物理が大事だって意味だよ」

 そう言うと、楡井は大きなテーブルに教科書を広げ出した。

 楡井が話す気がないのがわかったので、仕方なくわたしも勉強を始めた。

 ――はずなんだけど、やっぱり芦田の意味深なセリフが頭をかける。


「ねぇ、朝倉。ひとの話、聞いてる」

 楡井が、シャーペンで机を叩く。

「ごめん。なんだっけ」

「『音の波』だよ」

 物理の授業はあれから進み、「音の波」つまり音波についてのフォローを、わたしは楡井にしてもらっていた。


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