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ごめんね、もう少し  作者: 仲町鹿乃子
2・香奈→楡井君
14/50

2-1

 帰宅途中の電車の中で、携帯のメールを受信した。

 父からだ。

 仕事が早く終わりそうだから、わたしを駅で待っているといったものだった。


 父は、長年勤めた会社を退職したあと、今は友人が経営する会社にお世話になっていて、そこで経理をしている。

 両親は、晩婚だった。

 社会人になったわたしはともかく、笙子(しょうこ)はまだまだこれからも学生生活が続くため、父としてはもうひと頑張りしよう、といったところなのだろう。

 退職祝いは、あんなことになってしまったけれど。

 自分ではどうしようもない事態だったとはいえ、父の立場になるとやるせない。

 父は、事故は自分のせいだと思っている。


 退職祝いをあの日にしなければよかった。

 わざわざ外食する必要もなかった。


 あの日に退職祝いをした全ての人に、こんなことが起きたわけでもないし、あの日に外食した人についても、それは同じだ。


 多くの人はみな、そうしたひと時を楽しく幸せに過ごしたはずだ。


 けれど、思いもよらない不幸に遭ってしまうと、人は悔やんでしまう。

 もっと違う選択をしていれば、違った今があったと思わずにはいられないのだ。

 わたしだってそうだ。


 もう一台後のタクシーに乗っていたら。

 もう一台前のタクシーに乗っていたら。

 そんな思いは、つきない。


 握ったままだった携帯電話が震えた。

 和可奈(わかな)からだ。

 塾の一日講座のお知らせで、よかったら一緒に行かないといったお誘いだった。

 使い慣れない携帯電話で、メールのお礼と、どうするかはちょっと考えるねと、返信をうつ。和可奈は明日、パンフレットを持ってきてくれるそうだ。


 笙子として暮らしていく都合上、悪いとは思いつつも、わたしは彼女の携帯電話を使っていた。あの子はこまめに履歴を消していたようで、わたしが使いはじめたときも、それは数える程度しか残っていなかった。

 登録されているアドレスも少なく、笙子はあまり携帯電話を使っていなかったようだ。

 あの「7月12日 PM6:15」の手紙を見つけてから、改めて残っていたメールを読んだけれど、特にあやしいものはなかった。

 宿題のこととか、テストのこととか、そんなことだけだったのだ。


 ミス・堅実。


 笙子には、その名前の通りの生活しかなかったのだろうか。



 改札を出ると、父がいた。

 父はわたしを見ると手を上げ、そして鞄を持ってくれた。

「ケーキでも買って帰るか」

「うん、いいね。わたしは、チーズケーキがいいなぁ」

 家の途中にあるケーキ屋さんは、ニューヨークチーズケーキが絶品なのだ。

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