第6章:遺された言葉
「とにかく、重要なのは誰が明澄を殺したかってことだ!」
ばん、と強く机を叩き、春日部比呂が強い口調で言う。
清城明澄の死体を発見した崇史たちは現在、大広間へと戻ってきていた。
全員が席に着き、比呂のほうを見る。
そう、清城明澄は殺されたのだ。
自殺でもなく、事故でもなく、紛れもなく殺されたのだ。
今ここにいる9人のうちの誰かに。
それだけでも絶望するのには充分すぎる要素だというのに、大広間へと帰ってきた崇史たちを、更に大きな絶望が襲った。
大広間に保管してあった合鍵の束が、なくなっていたのだ。
この山荘にはすべての部屋に鍵がついている。その鍵は部屋を使うものが管理し、万が一紛失したときのために合鍵が大広間に保管してあった。
しかし、その合鍵が、なくなっていたのだ。1つ残らず。
それはつまり、これで犯人は全員の部屋に自由に入ることができるようになったということだ。
もちろん崇史自身の部屋にも。
おそらく犯人は前日のうちに鍵を盗み出したに違いない。
鍵が保管されている棚は外からじゃ中が覗けないようになっているから、いつ盗み出してもすぐに気づかれる心配はないというわけだ。
「言え! 誰が殺したんだ!」
誰も答える様子はない。当たり前だ。
こんなことを何回言ったって、犯人が名乗り出てくるはずがない。
鍵が盗まれたということは、犯人はこれからも殺人を繰り返すつもりだろう。
そんな犯人が、自分から罪を告白するはずがないのだ。少なくとも、今この時点では。
「も・・・もう嫌・・・」
静まり返った空間に、小さな女の声がした。須賀美咲だ。
「もう嫌! いや! いや! こんなところになんていたくない! 帰る!」
「無茶言うなよ。外は物凄い吹雪なんだから、山を降りられるはずがないだろう」
「だったら・・・だったら、もう、部屋に戻るわ。鍵かけて、ずっと起きてるから! 私の部屋には一切近づかないで! もし来たら、私が逆に殺してやるからっ!」
鬼のような形相でそう叫ぶと、美咲は自分の部屋へと走り去って行ってしまった。
それが合図であったかのように、1人、また1人と無言で部屋へと引き返して行く。
先ほどまであれほど息巻いていた比呂でさえも。
次第に人が少なくなって行く中で、崇史は1つため息をついた。
「問題はこの紙切れよね」
大広間から全員が解散した後、崇史と彩音と優の3人は、崇史の部屋に集合していた。
3人の部屋は崇史を中心に右側に彩音、左側に優という位置関係にあったので、容易に集合、解散ができるようになっていた。
そんな3人が今眺めているのが、明澄の握っていた紙切れである。
崇史が他の者に頼んで、もらってきたのだ。
そしてその紙切れに書いてある言葉は、実に不可解なものであった。
「『Jam Jam DJ Son』、か」
「・・・・意味分かんない」
「だよな。清城さんはどういうつもりでこんなの書いたんだろう?」
「清城さんが書いたとは限らないんじゃないの? 犯人があたしたちを混乱させるために握らせたとかさ」
「だったらあんなに強く握るもんかな? 俺には最後のメッセージを誰かに読んでもらいたくて、必死に握っていたように思えるんだけど」
「あんなに強く握ってたのは、清城さん自身があれを書いたからってことか。なるほどね。崇史、結構鋭いじゃん。さすが勘と閃きだけは冴えてるわね」
「勘と閃き『だけ』はってお前なぁ・・・」
「事実でしょ?」
「お前もう1回言ってみろ!」
「・・・・ねぇ」
喧嘩に発展しそうになる崇史と彩音に今まで黙っていた優が口を開いた。
「もしかするとこれ、ダイイングメッセージなのかな?」
いきなりの優の言葉に、2人はいがみ合うことも忘れて優の方を見る。
「ダイニングメッセージ?」
「馬鹿、違うわよ」
「タイピングメッセージ?」
「どう見てもあれ、手書きだったでしょうが」
「タイミングメッセージ?」
「どんなタイミングよ」
「ダイビングメッセージ?」
「潜ってどうする! っていうか崇史、あんたわざとやってるでしょ」
「あ、バレた?」
「ふざけんなこの馬鹿!」
再び喧嘩に発展しそうな2人だったが、再び優の言葉によってそれを中断させられることになる。
「ダイイングメッセージっていうのは、死にゆく被害者が犯人や真相を告発するために、最後に残したメッセージのことだよ。犯人に気づかれないように、暗号化されたものが多いみたいだね。分かった?」
「・・・・はい」
笑顔で言う優に、崇史は素直に返事した。
なぜか優には弱い崇史だった。
「えっと、つまり清城さんが握っていたこの紙切れに書いてあるこの謎の言葉は、清城さんが残したダイイングメッセージってこと?」
「多分ね」
彩音の言葉に、優が軽くうなずく。
「じゃあつまり、この謎の言葉も暗号ってことか? で、この暗号を解くと、犯人の名前になる、とか?」
「僕にはそこまでは分からないけど、その可能性は高いんじゃないかな?」
「・・・よっしゃ!」
崇史は椅子から勢いよく立ち上がった。
「俺、この暗号が解けるように頑張ってみる。勘と閃きには自身があるしな。このままじっとしてて殺人犯に怯えてるよりずっといいと思うんだけど、どうだ?」
崇史は一応聞いてみたが、2人の心はすでに決まっているようだった。
「もちろんあたしだって! 頭はあたしのほうがいいんだから、任せといて!」
「僕もやるよ。頑張って解読して、これ以上被害者が出ないように食い止めよう」
こうして、後にこの事件を解決に導くことになる少年、緒方崇史は始動したのだった。
はい、ついに出てきましたダイイングメッセージ。
あれを解読できてしまった方は、すでにもう犯人が分かってしまったことでしょう。そうならないように、できるだけ難しくしてみたつもりですが・・・・。
とにかく、皆さん考えてみてくださいね。