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第5章:最悪の実現

現在時刻、7時25分。

緒方崇史は腕時計で時間を確認すると、ベッドから外に出た。

窓の外では相変わらず強い吹雪が吹き荒れている。

結局、夜は目が冴えてしまってろくに寝ることができなかった。いつも布団に入ってしまえば1分も経たないうちに寝られてしまう神経の持ち主であったのだが。

ろくに寝てないというのに、まったく眠くないというのも不思議だった。眠気というものがまったくこないのだ。

崇史は軽く伸びをした後、部屋を出た。


「あら、おはよう」

大広間には、3人の人間がいた。

1人は朝食を作っている深森ことり。

それからソファに座っている如月優と小宮悠紀だ。

大広間に入ってきた崇史を見て、1番驚いた表所を浮かべたのは優だった。

「崇史・・・・早いんだね」

今までは寝坊して遅刻寸前、なんてことが毎日のようにあったからだろう。優は崇史がこんなに早く起き出して来たことに素直に驚いているようだった。

崇史は「おう、まーな」とだけ答えた。

眠れなかった、などと言えば、そしてさらにそれを突き詰めて、何か嫌な予感がしたせいで目が冴えてしまっていた、などと言えば、優は確実に心配するだろう。

何もないかもしれないのに、要らない心配をかけてしまっては優に悪い。

「それにしてもすごいっすね、ことりさん。1人で全員分の朝食の準備なんて」

「ううん、そんなに大したことじゃないわよ。それに、本当は明澄が手伝ってくれるはずだったから。今日は」

「へ〜。で、その清城さんは?」

「まだ寝てるんだと思う。起こしちゃ悪いと思って、起こしにはいかなかったんだけど・・・」

ことりが少し心配そうに言う。

料理は、もう大体完成しつつあるようだ。

「どうせもう少しで朝食だし、俺が起こしてきましょうか?」

「あら、本当? だったら悪いけど、お願いするわ」

ことりが微笑みながら言った。

「よし、じゃあ行こうぜ、優」

「うん」

優は立ち上がると、崇史と共に部屋を出た。

その間、悠紀が口を開くことはなかった。


「おーい、清城さーん! おーい!」

崇史は何度もドアをノックしながら呼びかけた。

もちろんここは、明澄の部屋の前である。

「おっかしーな。清城さんって寝起き悪いのかな?」

「さぁ、どうだろう?」

優も不思議そうに首をひねっている。

「・・・あれ、鍵があいてる」

「ちょ、ちょっと、崇史。勝手に入っちゃまずいよ!」

隣で優があせったようにそう言っていたが、崇史はそれを無視してそのままドアを開けた。部屋の中は、外の吹雪の影響で薄暗い。

「電気つけますよー!」

「崇史!」

優が止めたが、崇史はそのままドアの入り口近くにあるスイッチを入れた。

部屋の中は、一瞬にして明るくなる。

「もう・・・怒られてもしらな・・・・」

言いかけた優の言葉が、途切れた。

崇史も、言葉を発することができなかった。

部屋の中央に、清城明澄が倒れていた。頭には、血が滲んでいる。頭が、奇妙に変形している。

眼は薄く開かれていたが、その瞳はもう何も映してはいない。半開きの口が、何かを叫ぼうとしているようにも見えた。

清城明澄は、死んでいた。

「う・・・うわあああああああああああああ!」

隣に立つ優の叫び声を聞きながら、崇史は気が遠くなるような思いを感じた。

的中してほしくないと願った嫌な予感は、こうして、最悪の形で実現されることとなったのだった。


約20分後には、明澄の部屋に全員が集合していた。

あるものは青ざめながら、あるものは無表情で、あるものは泣きながら、その屍を眺めていた。

「明澄・・・・殺された、のか?」

ようやくのことでそう言ったのは、春日部比呂だった。顔色は真っ青で、体は小刻みに震えている。

「殺された」。そう、殺されたのだ。

清城明澄は、紛れもなく殺された。誰かに、殺された。

頭が変形している。おそらくは頭蓋骨陥没だろう。近くに凶器が落とされている様子もない。

こんな自殺はありえない。

こんな事故はありえない。

つまり、必然的にこれは殺人ということになるのだ。

この山荘に、崇史たち以外の誰が潜んでいて、そして明澄を殺したのか? いや、それもありえないのだ。そもそもこんな山荘に、人が隠れられるスペースなどほとんど存在しない。

決して狭くはない山荘だが、それでもここに10人もの人間が存在していたのだ。誰かが隠れていて気がつかないほうが不自然だ。

つまりこれは殺人であり、犯人は今ここにいる清城明澄を除いた9人の中にいる。そういうことなのだ。

そしてここにいる誰もがそれを理解しているだろう。

崇史は自分以外の8人の顔を見回した。

ほぼ全員が信じられない、というような、ショックを受けた顔をしていた。当たり前だ。それが普通の反応というものだ。

だがこの中に、それを演技しているものがいる。

顔には驚愕の表情を浮かべておきながら、内心ではほくそえんでいる殺人鬼が、この中に。

「ん?」

全員の顔を眺め回しているうちに気がついた。

優の視線が、先ほどからある一点に集中している。

「どうした? 優」

「・・・ねえ。清城さん、何か紙切れのようなものを握っているみたいなんだけど」

優の言葉に、全員の視線が明澄の手に注がれる。

注意深く見てみれば、なるほど、左手の端から紙切れのようなものが覗いているのが見えた。

「なにかしら、あれ?」

不気味そうに、須賀美咲が呟く。

「よし、取ってみよう」

そう言って明澄の死体に近づいたのは、柏崎健介だった。

昨夜までは生きていた友人の死体に何の抵抗もなく近づいて行く。

健介はしばらくの間、明澄の手に強く握られている紙切れを必死で取り出そうと苦労していた。死ぬ間際、相当強い力で握り締めたのだろう。取るのに相当な時間を要していた。

「・・・取れた」

数分の後、ようやく健介が明澄の手から紙切れを引き抜くことに成功した。

健介がその紙切れをおもむろに開く。自然と周りに人が集まってきた。

「・・・・・はあ?」

その紙切れを覗き見た崇史は、思わず声を漏らしてしまった。

意味不明な言葉が、その紙切れには書いてあった。

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