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第3章:役者たち

その日の夕食、金色荘に集まった10人のメンバーは全員で大きなテーブルを囲んでいた。

テーブルの上にはことりと明澄の2人で作った手料理が並べられている。

「ことり先輩と清城さんって料理うまいんですね! 家庭的!」

なにやら感激した様子で彩音が言うように、確かにそれらの手料理はとてもおいしかった。

「こんなうまい料理、あんな凶暴女にはとても作れないよなぁ」

「そんなこと言ってると、また彩音に殴られちゃうよ?」

独り言のつもりで呟いた言葉に、優が言葉を返してきた。

「・・・・聞こえてた?」

「うん」

崇史は冷や汗をかきながら彩音のほうを横目で見たが、幸い彩音には聞こえていなかったようだった。

「まあ、今度からは気をつけたほうがいいと思うよ。彩音ってああ見えても結構繊細だし」

「はあ? 優、お前それ本気で言ってるのか? 繊細なんて言葉、彩音には全然あってないだろ」

崇史の言葉に、優は少し困ったように苦笑した。

崇史が更に、いかに彩音が凶暴なのかを語ろうとしたそのとき、不意に後ろから肩をたたかれた。

「うわっ!」

しまった、声が大きすぎた!

崇史は今度こそ彩音に聞かれたと思って恐る恐る振り返ったが、そこにいたのは彩音ではなかった。

「肩叩いたくらいでそんなにおどろくなよなー、少年」

快活そうに笑いながらそう言ったのは、1人の男だった。

明るく、活発そうな印象を受ける。ことりたちと同期のスキー部員の1人である。

この場にいるのだからそれは当然として、しかし名前が思い出せない。

「えーと、すいません。名前何でしたっけ?」

「た、崇史。失礼だよ・・・」

「いいっていいって」

慌てる優に、その男は笑いながらいった。

「俺の名前は春日部比呂かすかべ ひろ。朝自己紹介したよな?」

「え、そうでしたっけ?」

「あのとき崇史寝ぼけてたもんね・・・」

優はちょっと呆れた風に言った。

「ん? じゃあここにいる全員のこと、覚えてないのか?」

「あー、そうっすね・・・」

言いながら崇史は自分がとてつもない馬鹿なような気がしてきた。

本当に自己紹介なんてしただろうか? 何せあの時は本当に寝ぼけていたから記憶は曖昧だ。

「じゃ、とりあえずもう1回自己紹介しとくか? 全員で」

比呂はにやっと笑って、そう言った。


「えーと、柏崎健介かしわざき けんすけ。趣味は釣り。いじょ」

「もっとなんか話せよ!」

「あー、じゃあ好みのタイプは広末涼子」

「広末涼子? 昔は常盤貴子って言ってなかったか?」

「昔の話さ。あ、熊田曜子もいいよなー」

「お前の好みってコロコロ変わるのな」

「美山加恋ちゃんもかわいいよなー」

「・・・・ロリコン」

とまあ、こんな感じで2回目の自己紹介は滞りなく進んでいた。

深森ことり、春日部比呂ときて柏崎健介で3人目である。

「よーし、じゃあ次。悠紀」

比呂が呼ぶと、崇史とは1番遠い席に座っていた男が立ち上がる。

小宮悠紀こみや ゆうき、24歳」

それだけ言うと、悠紀はさっさと座ってしまった。

「あいつ、昔からああなんだよな。口数少なくて」

長い付き合いらしい比呂はもう慣れたようで、笑いながら崇史に解説をしてくれた。

「ええっと・・・・小宮さん、仕事は何してるんですか?」

あまりにぶっきらぼうなその様子に戸惑いながら、彩音が聞いた。

悠紀はしばらく口を開かなかったが、やがて短く「翻訳家」とだけ答え、また口を閉ざしてしまった。

「・・・・あー、じゃあ次。明澄」

「はいはーい!」

名前を呼ばれた清城明澄は、先ほどの悠紀とは打って変わって元気そのものだった。

「清城明澄、24歳。華の独身生活満喫中。好きな男のタイプは福山雅治。『明星堂』って会社に勤めてます!」

「みょうじょうどう・・・ってどんな会社なんですか?」

「まあ、簡単に言えばカレンダー製造会社ってところかな」

「へー、そうなんですか」

感心したように言う彩音だったが、崇史にとってはあまり興味がなかった。

「んと、次は美咲だな」

「ええ」

そう言って明澄の隣に座っていたショートカットの女が立つ。

須賀美咲すが みさき、24歳。普通にOLをやってます。今でもスキーは時々やってるわ」

「美咲は部内でもかなり上手いほうだったからな」

「ほんとほんと。美咲の滑り、かっこよかったなぁ」

「あらそう? 照れちゃうなあ、私」

このまま雑談に発展しそうな雰囲気だったが、それ以上長くは話さなかった。

そう、まだあと1人残っているのだ。

「じゃ、最後は英明だな」

比呂の言葉に、最後の男が立ち上がる。

眼鏡をかけ、やや長髪気味の髪をしている。

落合英明おちあい ひであき。歳は24。職業には就いてないなぁ。無職ってやつ」

笑いながらそういう英明に、崇史はなんとなく粘着質な感じを受けた。

しゃべり方がねっとりとしているような、そんな感じ。

「英明は大病院のボンボンなんだぜ? まあ、医者ににはなれなかったみたいだけど」

「そうそう。そのせいで今もまだ無職なんだよね」

「う。いいじゃないかぁ。うちは親が面倒を見てくれるんだし」

「はいはい、坊ちゃんはいいよなー」

比呂が呆れたように言う。

その比呂の顔に、どこか相手を軽蔑したような、そんな色が浮かんでいたような気がした。

裏表のなさそうな比呂には、まったく似合わない顔だった。

崇史の視線に気づくと、比呂ははっとしたようにその色を隠し、またさっきのような明るい顔に戻した。

「じゃ、次はお前たちの番だな」

比呂の言葉に、崇史はゆっくりと立ち上がり、自己紹介を始めた。

何が胸に引っかかっているような、そんな気がした。

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