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第2章:平穏な時間

「帰りが遅いから心配してたのよ。ほんと無事でよかったわね」

そう言いながら、深森ことりは3人にマグカップを渡す。

吹雪の吹き荒れる外から奇跡的に生還を果たした勇者(自己評価)、緒方崇史はマグカップを受け取ると、中身を確認した。

暖かいマグカップの中に入っているのは茶色い液体。ほのかに甘い香りがする。

「うわあ、ココアですね!」

彩音が嬉しそうに言うと、ことりはにっこりと笑った。

マグカップ越しに伝わってくるココアの温もりは、先ほどまで吹雪に吹かれていた崇史の体に優しく伝わっていた。

「本当にすいません。ご迷惑をお掛けしたうえに、温かい飲み物まで用意していただいて」

礼儀正しく礼を言う優にも、ことりは笑顔で「いいのよ」と答えた。

遭難寸前のところから、ようやくこの金色荘にたどり着いた崇史たちを、心配してずっと待っていてくれたのがことりだった。まったく彼女には頭が上がらない。

そんなことりのことを、崇史は笑顔の似合う人だな、とココアを啜りながらぼんやり思った。まったく、こんな笑顔はあの凶暴な女には絶対にできないだろう。

「そういえば他の先輩たちは今どこにいるんですか?」

その『凶暴な女』の発した突然の言葉に、崇史は思わずココアをふきだしそうになった。

一瞬自分が今彩音のことを『凶暴な女』と評していたことを感づかれたのかと思ったが、今の彩音の言葉は明らかにことりに向けられたものである。

「まったく、一瞬心臓が止まったかと思った・・・・」

崇史は誰にも聞こえないよう、小さな声でつぶやいた。

「他のみんなは、たぶん自分の部屋にいると思うけど。私も詳しいことはわからないわ」

「ふ〜ん。そうなんですかー」

「それがどうかしたの?」

「いえ、あたしことり先輩以外の人たちとはあんまり面識ないんで。どうしてるのかなって」

彩音はどうやらことり以外の人物とはあまり縁がないようだ。

それでよく他のメンバーが彩音の参加に賛成したものだ、と崇史はちょっと呆れた。

外では、吹雪がさらに激しさを増していた。


「あら? おかえりなさい。遅かったのね」

崇史たち全員が、完全にココアを飲み干したころ、1人の女性が崇史たちのいる大広間に入ってきた。

彼女の名前は清城明澄せいじょう あずみ。ことりたちと共に今回の集まりに参加した元スキー部員である。

「本当に遅かったね。心配してたのよ・・・・なんてさっきまでグースカ寝てた人間が言う言葉じゃないか」

いたずらっぽく笑いながら明澄は楽しそうに言った。

「まあとにかく、無事で何より」

明澄は崇史たちと正面のソファに座る。

それから何か面白そうなものでも眺めるかのような目つきで、3人を見比べる。

「あー、えーと、何か?」

なんだか気まずい気持ちになった崇史は、明澄に質問をしてみた。

「んーん、なんでもないよ。ただ麻島さんが羨ましいなぁ、って」

「へ? あたし? 何でですか?」

「右に体育会系な感じの明るそうな男の子。左に文化部系な感じで優しそうな男の子。よりどりみどりじゃないのよ」

「え? へぇ!?」

「あははははは。冗談だってば。もう、可愛い娘!」

明澄は心の底からおかしそうに腹を抱えて笑い転げていた。

7つも年上の人のそんな姿を見る機会など滅多にない。

そう思えば今、崇史たちは非常に貴重な体験をしているのかもしれなかった。


「さて、そろそろ夕飯の支度でもしましょうか」

「夕飯の支度って表現、なんだかババくさくない?」

「あなたも失礼なことをずばずばと・・・。それならなんていえばいいの?」

「ディナーの用意を、とか」

「別にフランス料理を作るわけじゃないんだからいいじゃない」

そんなことを言いながら、ことりと明澄はキッチンのほうへと消えていった。

どうでもいいことだが、崇史は「夕飯の支度」派である。

「いや、本当にどうでもいいよな」

「え? 何か言った?」

「いや、何でもない。今の言葉は忘れてくれ、優」

「うん? ・・・・うん」

優はどこか釈然としないようだった。

しかし、今自分が何を考えていたのか知られた場合、呆れられる可能性が高い。だから言わない。

崇史はテーブルの上に置かれている鍵を手に取った。

「さ、部屋行こうぜ」

「あ、うん、そうだね」

夕飯までの間、優とトランプでもやってるか、などと考えながら、崇史は自分の部屋へと歩き出した。

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