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第17章:氷解

崇史の部屋に戻ってきた3人は、今度はダイイングメッセージの解読に取り掛かっていた。

3人で紙切れを眺めてみたり、いろいろと意見を交わしたりしてみたが、答えはいまだ出ない。

「あー、後はこの暗号が解ければ、犯人が分かるのに!」

「ねぇ崇史。暗号も大切だけど、本当にあの密室の謎、解けたわけ?」

「ん? ああ、分かったよ。俺が考えてるので間違いないと思う。それから犯人がどんな感じで動いていたのかも大体分かってきた」

「え、本当!?」

「ああ。でも、犯人の正体だけがまだまったく分からないんだ。そこだけ靄が掛かったみたいに」

「手がかりはこのダイイングメッセージだけ、か」

優はそう呟くと、小さくため息をついた。

そう。犯人につながる唯一の手がかりがこのダイイングメッセージなのだ。

だからこそ崇史たちはそれが発見された日からずっとそれを解こうと奮闘していた。

しかし、長い時間かけて考えているのにもかかわらず、答えがまったく見えてこない。解き方すらも分からないのだ。

「あーあ、清城さんももうちょっと簡単な暗号にしてくれりゃよかったのに」

「だよね。あたしじゃ解けなさそう。せめて少しでもヒントがほしいなぁ」

「ヒント・・・か。この暗号を作った本人はもう死んでしまっているんだし・・・。それは到底望めないよね」

3人のため息が重なる。

『Jam Jam DJ Son』

清城明澄が残したダイイングメッセージ。

明澄が殺されてから、そしてこのダイイングメッセージが発見されてからもうかなりの時間が経った。

崇史たちだけでなく、他の人たちも少なからずこの暗号について考えたはずだ。

この暗号が解ければ、誰が犯人だかすぐに分かる。

しかし、この暗号はいまだ誰にも解けていないようだった。

「ジャム、DJ、息子・・・か。さっぱりだな」

「こういう暗号は日本語に直さないほうがいいんじゃない? 大抵はこういう暗号において、単語の意味なんて役に立たないよ」

「分かってるけどさ・・・・。でも何したらいいのかぜんぜんさっぱりなんだ」

「気持ちは分かるわよ。あたしももう頭がやばくなってきた」

「ちゃんと考えろよ。謎解きを俺に押し付けたのはお前なんだからな」

「分かってるわよ。うるさいな」

「うるさい? ずいぶんな態度をとってくれるじゃねぇか」

「あたしは事実を言っただけ。うるさいからうるさいって言って何が悪いわけ?」

「何だとこのバカ女!」

「失礼ね! あんたに比べればあたしのほうが100倍頭いいわよ!」

イライラが頂点に達したのか、お決まりの口喧嘩がまた始まっていた。

「あー、もうやめてよ2人とも。喧嘩してる場合じゃないでしょ?」

「ぐっ! そ、そうだった」

「ごめん、優」

「・・・俺には謝らないのかよ?」

「は? 何であたしがあんたに謝らなきゃいけないわけ?」

「おまえなぁ―――!」

「もう! 喧嘩してる場合じゃないってば!」

再び喧嘩に発展しそうな雰囲気の2人の間に、優が割って入る。

「とにかく、今は暗号の解読が先でしょう!」

2人ははっとした表情になり、しぶしぶお互い身を引いた。

「あー、俺疲れてるのかも」

「そうかもね。あたしもそのせいですぐカッとなっちゃったんだと思う」

「じゃあ、1回休む?」

疲れた頭を休ませるのも大切だ、と優は言った。

そこで崇史たちは10分間だけ休憩をとることにした。

その10分間、崇史は出来るだけ事件について、ダイイングメッセージについて考えないようにしながら、彩音や優と雑談を交わした。

学校の話、テレビの話、部活の話。

何かを忘れるように、3人は話し続けていた。

が、やがて話題も尽いてしまった。

3人は黙りながら、一様に床を見つめていた。

崇史はちらりと横を見た。その視線の先には、彩音と優がいる。

彩音は、優は、今何を考えているのだろう?

いきなりこんな理不尽な事件に巻き込まれて、2人は今、何を?

「・・・どうしてこんなことになっちゃったんだろう」

彩音が呟いた。

いつもの明るい彩音に似合わない、沈んだ声だった。

「どうしてあたしたち、こんな殺人事件なんかに巻き込まれなきゃいけなかったんだろう。あたし、もう、こんなの、いや」

「彩音・・・・」

「こんな・・・こんな事件を起こした犯人が許せない。あたし、許せない。どうしてあたしたちが巻き込まれなきゃいけなかったの? 人殺しなら、あたしたちのいないところでやってくれればよかったんだ!」

殺人犯が自分のすぐ近くにいるのかもしれないという恐怖。

彩音も普通の女子高生なのだ。それを感じないはずがなかった。

ただ気の強い彼女のこと、決して他人に弱みを見せたくなかったのだ。だから必死でそれを隠してきた。

「事件が起こる前の日までは、みんな仲良さそうだったのに。自己紹介とかしたりして。あたしたちが遭難しかけて帰ってきたとき、ことり先輩はココア出してくれた。清城さんはあたしたちに声をかけてくれた。あのときはまだ、こんなことになるなんて思っても無かったのに」

そう、あのときのことはよく覚えている。

ことりがマグカップに注いだ暖かいココアを崇史たちに出してくれた。

明澄は「あら? おかえりなさい。遅かったのね」とはじめにそう言ったはずだ。

しかしその明澄はもう、この世にはいない。

その動機なのであろう事件の話を聞く限り、それも自業自得なのかもしれない。しかし、それでも何も感じないわけにはいかなかった。

明澄だけではない。

美咲も、健介も、そして恐らく英明も、みんな殺されたのだ。

英明を犯人にしたて、罪を着せて殺した恐るべき真犯人に。

崇史はテーブルの上に置かれた紙切れに視線を移した。

犯人に殺された明澄が、死ぬ間際に書き残したもの。恐らく、犯人の正体を指し示すのであろうもの。

これを必死で書き記していたとき、明澄はどんな気持ちだったのだろうか?

崇史は明澄が言った一つ一つの言葉を思い出していた。

ことりが出してくれたココアを飲んでいるとき。

夕食のときの、自己紹介。

明澄と接したのは、それだけだった。

翌朝には、彼女は死体となっていたのだから。

「・・・・・え?」

ふと崇史の頭に大きな電流が走ったような感覚がした。

今までつながらなかった何かが、突然、何の前触れも無く、つながった。

明澄が言った、ひとつひとつの、言葉。

彼女の言葉の中に、既にヒントは隠されていたのだ。

閃いてくる。次から次へと。

そう、確かにあのとき、彼女は、清城明澄は言った。

あの言葉は、そういうことなのか?

「優! 確かお前、電子辞書持ってきてたよな!」

突然大声で名前を呼ばれた優は少し戸惑っていたが、それでも小さく頷いた。

「それ、貸してくれ!」

崇史は優の手からひったくるようにして電子辞書を奪うと、そのままなにやら操作し始めた。

彩音と優は呆然とした様子でそれを見守っている。

2人の目にも明らかだっただろう。

このとき、崇史が何かを閃いたのだ、と。

切羽詰った様子で電子辞書を操作していた崇史だったが、数分後、静かなため息とともにゆっくりと電子辞書を閉じていた。

「・・・崇史?」

崇史は顔を上げ、視線を2人のほうへと向けた。

「みんなを、大広間に集めてきてくれないか?」

「え?」

「それって・・・・」

「犯人が分かった。あとは俺の推理を、みんなに聞かせるだけだ」


崇史はこのとき、確かに宣言したのだ。

解答編の、始まりを。

次回からは解答編となります。

犯人、トリック等次々と明らかにされていくので、まだ自分で考えていたい、という人はご注意ください。

そしてもう少しでこの小説も完結です。

この小説を読んでくださっている皆さん、あともう少しだけ、お付き合いください。よろしくお願いします。

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