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第16章:ずれた結び目

トイレにいた優を彩音が無理やり引っ張ってきて、崇史の部屋にはいつもの3人が集合した。

はじめは状況をつかめていないようだった優だが、彩音と崇史で優に説明すると、納得したような表情をしてくれた。

「うん、僕も確かにちょっと不自然だと思ってたし。もう1回考えてみるのもいいと思うよ」

優がそう言ってくれたので、3人は再びこの事件の真相について考えることとなった。

吹雪はもうかなり弱まってきているので、止むのは時間の問題だ。吹雪が止み、全員が下山する準備ができたら、即下山だ。残された時間は少ない。まあ、真相が分からなかったとしても、一応無事に山を降りられるのだから感謝するべきなのかもしれない。

とにかく、下山までに真相をつかむために最善を尽くす、と彩音と約束したのだ。約束は守らなければならない。

考えなければならない謎は2つに絞られる。

明澄のダイイングメッセージと、英明が殺されたときの密室。

あの部屋は完全に密室だった。

英明が本当に殺されたのならば、これは密室殺人である。

そしてずっと考えているというのに、まったく意味が分からないままのダイイングメッセージ。

この2つの謎を解き明かさない限り、事件の真相は見えてこない。

「で、ダイイングメッセージと、密室とどっちを先に考える?」

彩音が言った。

確かに、2つ同時に考えたりすれば、効率が悪くなってしまう。先にどちらかの謎を解いてから次の謎に取り組んだほうが効率がいいだろう。

「密室のほうを先にしねえか? ダイイングメッセージについてはかなり長い時間考えたし。密室についてはまだ情報不足な面もあるしな。そういうのは先にやっといたほうがいいと思う」

崇史の言葉に、彩音は数秒何かを考えるように視線を泳がせた後、「あたしはそれでいい」と言った。

優も頷いてくれたので、先に密室のほうを片付けることにした。

「で、どうする?」

「やっぱり、現場を見ときたいよな」

「じゃあ・・・行っちゃう? 落合さんの部屋」

「行っちゃおうか?」

「よし! 行こうぜ!」

こうしてものの数秒で現場へ行くことが決定したのだった。


英明の部屋へ行く途中の大広間で、ことりに会った。

もう体調のほうはずいぶんよくなったようだ。

彩音が安心したように笑いながら、「よかった」を繰り返していた。

「そういえば深森さん何してるんですか? こんなところで1人きりで」

ふと不思議に思った崇史がそう聞いた。

「別に理由なんてなんだけど・・・。まあ、気分かな」

4人の間に沈黙が流れる。

話題が途切れてしまった。

「・・・・そういえば昨日はもう眠くて眠くて。今までは怖くてあまり眠れなかったのに、もうぐっすり眠っちゃったわ」

沈黙に耐え切れなくなったことりがようやく声を出す。

「あ、ことり先輩もなんですか? あたしも昨日は凄く眠かったんですよ」

「僕もです」

「・・・・俺も、だ」

何なのだろう? この奇妙な偶然は。

ここにいる4人が全員、昨日急に眠くなってしまっていたなんて。

崇史はとある可能性に行き着き、目を見開く。

「どーしたの?」

彩音が不思議そうに顔を覗いてきたが、耳にも入らなかった。

「・・・・深森さん。昨日急に眠くなったって言ってましたけど、それっていつからですか?」

「えーと、夕食を食べてる途中からかな。何だか食べていたら急に眠くなってしまって」

ことりの言葉に、崇史、彩音、優の3人がぴくっと反応した。

「俺もちょうど夕食のときからだ・・・」

「あたしも。食べてたら急に・・・」

「そんな偶然って・・・」

3人は顔を見合わせた。

そして口には出さなかったが共通のことを考えただろう。

昨晩自分たちが食べたあの夕食の中には、睡眠薬が入っていたのではないか、と。

もしも本当にそれが入っていたなら、英明が自殺である可能性はかなり低くなる。

犯人が自分以外の全員を眠らせた後、英明の部屋へ行って彼を殺害した。そんな考えが自然と浮かび上がってくる。

大広間を出た3人は廊下で出るとすぐに話し合った。

「やっぱり落合さんを殺した真犯人がいるのよ。間違いないわ」

「うん、その可能性は結構高くなってきたよね。多分あの夕食の中に睡眠薬が仕込まれていたのはほぼ確実だろうから」

「俺もそう思う。・・・・でも、何でここで急に睡眠薬なんだろうな。今までの殺人ではつかってなかっただろ?」

「あー、そうよね、確かに。でも須賀さんと柏崎さんは毒殺だったからわざわざみんなを眠らせる必要はなかったんじゃない?」

「清城さんのときはまだ誰も殺されてなかったわけだし、睡眠薬なんて入れなくてもあっちは無警戒だろうから大丈夫だって思ったんじゃないかな。睡眠薬って結局殺そうとしている人が叫んで助けを求めたりしても誰も助けに来れないようにするために使っているんだろうし」

「あ、なるほど。殺そうとしてる人の叫び声を聞きつけて誰かがやってきたらその時点で正体バレちゃうもんな」

「睡眠薬で眠らせとけば遠くから聞こえる叫び声くらいじゃ誰も起きないってことね」

「本人に飲ませることはできなかったわけだしね。毒薬と違って飲食物に混入したとしても都合のいいタイミングで飲んでくれるとは限らないから」

「言われてみればそうだよなぁ。・・・・あ、着いたぞ」

着いた、とはもちろん英明の部屋のことである。

と、その英明の部屋で何か物音が聞こえる。

部屋を覗いてみると、誰かが部屋の中央で何かをしている。

その誰か、とは多分春日部比呂で間違いないと思う。

ことりにはさっき大広間であったから、その人物は悠紀か比呂ということになる。こちら側に背を向けているため顔は見えないが、その背中は広く、遠目からでも筋肉質なのが見て取れる。悠紀はどちらかというと細身なので、あの人物は高校時代スポーツマンだったという比呂であるはずだ。

崇史は一瞬迷ったが、声をかけてみることにした。

「何やってるんすか? 春日部さん」

その声にびくっと肩を震わせ、比呂が振り返る。

「・・・・何だ、お前らか。脅かすなよ」

比呂は額を拭う仕草をした。

「もしかしてずっとこの部屋に?」

「ああ。荷物は昨日のうちに片付けてあったしな」

「へー、さすが・・・・」

崇史は感心したように呟いた。

「ところで、何でこんなに長い時間こんなところに? 死体とずっと一緒だなんて嫌じゃないんですか?」

「ちょっと気になることがあって、な」

「気になること?」

比呂は頷きながら3人にあるものを見せた。

それはこの部屋の中で見つかった合鍵の束だった。

「見てみろ。ここにくくりつけられてる鍵。縄の汚れがちょっとずれてるんだ」

「あ、本当だ」

あの合鍵の束と鍵は白い縄でくくりつけられている。鍵に穴が開いており、そこに白い縄が通してあって、金属製の輪に直接結び付けられている。長年そのままだったせいか、白い縄は汚れが目立ち、やや黒ずんでいた。

しかし、それに真っ白な部分が混じっている。

長い間外の空気に触れていたはずの縄なのに、結び目に近い所だけ、真っ白い部分が覗いているのだ。それもすべての鍵が。

「この山荘に来たとき、まだ盗まれる前に合鍵を見せてもらったが・・・こんな白いあと、無かったぞ」

長い時間をかけて白かった縄は黒ずんでいった。空気中の埃などで汚れてしまったのだろう。そんな縄の中で、唯一いまだ真っ白なのを保ち続けている部分といったら、1箇所しかない。

「結び目・・・か」

そう、この白いあとは、結び目が少しずれてできたものなのだ。

結び目の部分は外の空気にさらされていない。だから真っ白なままなのだ。

しかし、なぜすべての鍵の結び目がずれている?

これではまるで、1度ほどいてまた結びなおしたみたいだ。それならば、多少結び目がずれていても納得できる。


・・・・・え?

1度、ほどいて、結びなおした?


「そうか! そうだったんだ!」

「え? 何?」

いきなり叫びだした崇史に、3人は驚いたような視線を送った。

「彩音! 優! すぐ部屋に戻るぞ! あとはあのダイイングメッセージだ!」

「え? 密室の謎が解けたの?」

「ああ! 分かったよ。だからあとはダイイングメッセージだけなんだ。時間が無い。急ごう!」

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

「崇史ー!」

急いで自分の部屋に向かって走り出した崇史を、彩音と優が必死で追いかける。

そんな3人の背中を、比呂は無言で見つめていた。

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