第12章:晩餐会
昼食の後、崇史の部屋に戻ってきた3人は少し疲れたようにため息をついた。
「ことり先輩、もう部屋に戻ったのかなあ?」
彩音がぽつりと呟く。
あのあと結局「まだもう少し片づけが残っているから」と言ってことりはキッチンのほうへ戻ってしまったので、3人はことりを1人置いて部屋に戻ることとなったのだった。
「ことり先輩、精神的に相当参ってたし・・・・。大丈夫かな?」
彩音は相当ことりのことを心配しているようだった。
今までの彩音の態度を見ていればよくわかる。
彩音はことりのことを実の姉のように慕っているのだ。
「夕飯のときは、ちょっと手伝おうか?」
優の提案に、彩音は顔を輝かせた。
「そう! そうだよね! 私もそうしようと思ってたの!」
何度もうんうんと頷く彩音。
これで崇史も夕飯の支度を手伝う羽目になりそうだったが、今まではすべてことり1人にその役目を担ってもらっていたので、それもいいかもしれないと思った。
「それはそれとして、とりあえず問題はこれじゃないか?」
ことりのほうに話が傾いていたので、崇史はテーブルの上においてある紙切れを手に取った。
「あ、そうだった! 暗号解読、しなくっちゃね」
彩音は張り切った様子で崇史からその紙切れをひったくった。
その紙切れとは当然、明澄の残したダイイングメッセージのことだ。
これからまた長時間にわたる頭脳労働が始まる。
崇史は自分の頬を叩いて、気合を入れなおした。
春日部比呂はタバコを吸いながら、天井を見つめていた。
ゆらゆらとタバコの煙は立ち上っては消えていた。
比呂はその様子をしばらくぼうっと眺めた後、胸のポケットから1枚の写真を取り出した。
4年前の同窓会のときに取った写真だ。
写真の中の比呂は笑顔だった。
比呂だけではない。みんな、みんな笑顔だった。
比呂は無言のままその写真をポケットに戻すと、タバコを灰皿に捨てる。
彼はそのまま目を閉じ、じっと何かを考えていた。
小宮悠紀はその本を閉じると、テーブルの上においた。
今度彼が訳すこととなっているアメリカの本。向こうでは相当な人気らしいが、悠紀にはその本のどこが面白いのかわからなかった。
「愛」だの「友情」だのといった言葉が頻繁に使われている。
この本の作者はただ言葉を使えばいいと思っているのだろうか。
悠紀は忌々しげにテーブルの上の本をひと睨みしたあと、ベッドにダイブした。
深森ことりは外を眺めていた。
外は相変わらずの吹雪で、勢いはほぼ衰えていない。
激しく、強く、狂おしいほどに雪が舞っている。
窓に手のひらを当ててみる。ひんやりと冷たい感触がした。
ことりは手のひらを窓ガラスからゆっくりと離した。
心地よかった冷たさは、すぐに失われた。
「あ、深森さん! 手伝います!」
結局明澄の残したダイイングメッセージの解読は、まったくといっていいほど進展しなかった。
長時間の頭脳労働で崇史の頭はつかれきっていたが、ことりの手伝いをすると3人で決めた以上、守るべきだと思った。
キッチンで料理をしていることりに、真っ先に優が駆け寄って行く。
そのときちょうどことりはスープを作っているところだった。
「あら、如月くん。それに彩音ちゃんに緒方くんも。本当に手伝ってくれるの?」
「勿論です!」
彩音と崇史もすぐにことりの元へと走っていった。
「じゃあ、まず皿を用意してくれる? 彩音ちゃんはそっちの野菜を切っておいて」
「はい!」
3人は声をそろえて返事をした。
1時間もかからないうちに料理は完成し、テーブルに並べられることになった。
「ありがとう。こんなに早くできたの、あなたたちのおかげよ」
ことりはにっこりと笑ってそう言った。
そのあと悠紀と比呂を呼び、昼食のときと同じように6人での夕食となった。
「健介と英明、大丈夫かしら? おなか減ってないかな?」
「放っておけ。どうせ料理を出したところであいつらは食べやしねぇよ」
健介と英明を心配することりに、比呂は食べながらそう言った。
ことりは少し悲しそうに顔をうつむかせながら「そうね」と答えた。
その後も変わったところは特になかった。
真っ先に食べ終わった悠紀が席を立ち、次に比呂が部屋へと戻る。
昼食のとき同じパターンだった。
大体そのころには崇史や彩音も食べ終わっており、まだ食べているのは優とことりだけだった。
「ふぁぁ〜。何か眠い・・・」
2人が食べるのを眺めながら、彩音が大きく欠伸をかいた。
その様子に優は苦笑すると「先に部屋に戻って寝ちゃってもいいよ」といった。
「昨日もあまり眠れなかったんじゃない? 僕のこと待ってないでいいから部屋に帰って寝ちゃっていいよ」
「え・・・でも・・・・」
彩音は反論しようとしたが、明らかに眠そうだ。
実はそれは崇史も同じで、瞼が重くて仕方がなかった。
「崇史も、早く部屋に帰って寝なよ。・・・・何だか僕も眠くなってきちゃったし・・・・」
結局優の言葉に甘えることにした崇史と彩音は、そのまま部屋に戻った。
何だか異常に眠たかった。
「何だろ・・・・これ・・・」
崇史はそのまま深い眠りについた。