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第9章:生きるということ

「動機はこれで間違いないと思うわ」

彩音はやや興奮気味に言った。

悠紀からの話を聞いた後、3人は崇史の部屋に集まって話をしていた。

「だって、その交通事故に関わっている4人のうち、2人が殺されたんだもん。絶対偶然じゃない」

「まあな。俺もそう思うよ。でも、その場合まだあと2人殺されるってことだよな」

「柏崎さんと落合さん・・・・だね」

「2人とも妙に怯えてたもんな。柏崎さんなんか須賀さんの死体を一心不乱に調べてたし。あれはちょっと異常だったよな」

「ああゆうのを狂気っていうんでしょ」

彩音が吐き捨てるように言った。

悠紀に告げられた4人の本性に、相当な嫌悪感を感じているようだった。

「死体をあのまま放置しておくのはかわいそうかもって思ったけど、当然の報いよね!」

どうやら彩音は本気で腹を立てているようだった。

自室でいまだ死体のまま転がっている明澄と美咲のことをかわいそうだと思っていたらしいが、彼女の中でそんな同情心は消え去ってしまったようだ。

そう、部屋にはまだ彼女たちの死体が残されたままだ。

警察が来たときのために現場はそのままにしておいたほうがいい、と指示を出したのはたしか比呂だったような気がする。今思い返せば、ずいぶん冷静な対応だった。

警察にも連絡を試みたが、電話線は見事に切断されており、携帯はすべて圏外。

完全に孤立してしまっているのだ。

しかし、そんな状況にもかかわらず、思い返してみれば比較的冷静なものが多かった。

「でも、みんな結構冷静だったよね」

絶妙のタイミングで優が話題を振る。

それでこそわが親友、と心の中で褒め称えながら、崇史もその話題に乗る。

「確かに。春日部さんとかはみんなに指示出したり、結構仕切ってたもんな」

「小宮さんなんかまったく動じてなかったんじゃない?」

「僕は・・・・落合さんや柏崎さんも少しおかしかったと思うよ」

「え? 何で? あの2人は結構怖がってたじゃん」

「うん。でも、普通電話もできずに、外がひどい吹雪で完全に外界と隔離されちゃったりしたら、もっと違う反応を起こすんじゃないかと思うんだけど・・・・」

「もっと違う反応?」

「うーん、ちょっと言葉にしにくいんだけど・・・。部屋にこもるって選択肢を自然に選んじゃってるって感じがする。普通こんな状況なら、みんなで固まっていようとすると思う。でも、すぐに部屋に閉じこもっちゃったし・・・・」

「信用してないんだろ。というか怖がってるんだ」

崇史が天井に目を向けながら答える。

「あの4人が、交通事故をもみ消したことを笑ってたって小宮さんは言ってたけど、多分怯えのほうが強かったんだ。それを紛らわすため、ごまかすために笑い話にしてたんだろ。でも仲間がどんどん殺されていって、笑ってなんていられなくなった。あの人たちは思った。『誰も信じられない』ってな」

崇史は「もちろん俺の想像だけど」と付け加えた。

「殺人鬼のそばにいるよりかは、自分の部屋にこもっていたほうがましって思ったわけね」

「自分の命は自分で守るしかないって事だよね。・・・・なんか、悲しい」

「でも、同情する必要なんてないわよ!」

彩音が熱っぽく言う。

「あの人たちはそれだけのことをしたんでしょ!?」

どうやら彼女の怒りはまださめていないらしい。いや、このままずっとさめないのかもしれない。

「でもさ」と崇史は声を発した。

「ちょっとした不注意やら怠慢でどん底に突き落とされたあの人たちの気持ちも分からなくはない。もちろん飲酒運転なんてしていたあの人たちに一方的に非があるんだろうし、事故をもみ消したことだって許されることじゃない。でも、そうしたくなる気持ちは、なんとなく理解できるような気がする」

「理解できないわよ、あたしは。死んで当然だと思う!」

「・・・・でも、死んでもいい人間なんて、きっとこの世にはいないんだよね。たとえそれがどんなに罪深い人だったとしても」

優がどこか遠くを見るような目で呟いた。

彩音は黙り込んだ。

外はまだ、吹雪が吹き荒れていた。


「なんだ、こんなところにいたのか。てっきり部屋にこもっているかと思ってたぞ」

「ええ、なんとなく・・・・ね」

深森ことりは大広間のソファに座りながら小さな声で答える。

春日部比呂は冷蔵庫の中からビールを取り出した。

「どうだい? 1杯」

「いらないわ」

「そうか・・・・」

比呂は残念そうに呟いた。

その直後、何の前触れもなく座っていることりを後ろから抱きしめた。

しかしことりは特に何も反応しなかった。

「怖いか?」

「・・・・怖い」

ことりの声は小さく震えていた。

「もう少しだけ・・・・このままでいていいか?」

「もう少しだけ・・・・ね」


誰も信じられない。

死にたくない。

殺されたくない。

落合英明は部屋の隅で震えていた。

思い出すことといえば自分が殺してしまったあの女のことだ。

事故がおきたとき、車を運転していたのは当然のことながら車の所有者であった英明だった。

つまり、実質女を殺したのは英明なのだ。

あの場から逃げあと、父親に事故をもみ消してくれるよう頼み込んだ。父親しか頼れない、頼るものはいなかったから。

父は言った。

「お前は何をやらせてもだめな能無しだな。何でお前なんかが息子なんだろう」

反論できるはずもなかった。何も、言えなかった。


小宮悠紀は本を読んでいた。

昔から本は好きだった。ずっと読んでいるせいで暗いとか言われることもよくあったが、それを悠紀が気にすることはなかった。

今彼が呼んでいる本は洋書だ。

翻訳家の彼が今度訳すことになっているアメリカの本である。

甘酸っぱい青春のラブストーリー。

「・・・くだらない」

悠紀は本を閉じた。

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