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日輪の勇者、異世界にて二十三年目に神の声を聞き、神より授けられし死の名簿に記された最初の犠牲者を討つ

「我がために、人を殺せ。」


「この名簿に記された十人を殺せば、お前を元の世界へ帰してやろう。異世界へ渡る以前の時へと遡り、お前の望むすべてを与えよう。もちろん、時が巻き戻るゆえ、お前に殺された者たちもまた蘇る。」


その日、陽太は神の啓示を受けた。

異世界に召喚され、日輪の勇者となってから二十三年目のことであった。


神は彼の耳元で囁いた。十人を殺せば、元の世界へ帰ることができる。さらには異世界へ渡る前の時へと戻り、幸福な大学生活をもう一度やり直すこともできるという。


空は彼の傍にいるだろう。

美波も、今のように寝宮に閉じこもり、誰とも会おうとしないことはない。

凛と凪もまた、生きているはずだ。


悪くない啓示ではないか。たった十人を犠牲にすれば、陽太は幸福な人生を取り戻せるのだ。この世界のために数多の命を救い、数え切れぬほどの魔物を討ち滅ぼしてきた彼にとって、それは当然の報酬ではないのか。これまで彼が救ってきた人々は、十人どころではないはずだった。


啓示を受けた翌日、陽太は名簿に記された最初の一人を殺した。


その時、彼はディマン王国王室からの命を受け、軍を率いて山間の城塞都市へ向かっていた。街道周辺に潜み、住民を搾取して生計を立てる犯罪組織を討伐するためである。


彼らは高額な保護費を強要し、住民の財産を略奪するだけでなく、若い女性を次々と攫っていた。

最も幸運な者でさえ、山の麓で遺体となって発見されるに過ぎない。ある者は人身売買業者の船や馬車に乗せられ、その後の行方を知る者はいなかった。


さらに彼らは、国境の外から昏睡状態にされた人間を運び込み、輸送車で未知の地へと送り出していた。


一か月前、ディマン王国は隣国リタール王国への配慮として、奴隷制度の段階的廃止を定めた法律を可決した。これを契機に、王室はこの犯罪組織を最優先殲滅対象に指定し、陽太に討伐を命じたのである。


戦闘の最中、陽太は彼らの首領が名簿に記された最初の人物――

ヴァンサン・ルノーであることに気づいた。


陽太の部隊は野獣討伐や攻城戦の経験を持ち、遠距離攻撃で敵を消耗させる術を熟知している。数日の包囲の末、犯罪組織はあっけなく壊滅した。


その容易すぎる敗北は、陽太に疑念を抱かせた。

―ディマン王国に、彼らを滅ぼす力が本当になかったのだろうか。


彼は名簿に記された最初の「任務」を即座に遂行したかったが、長年王国と渡り合う中で培われた慎重さがそれを制した。首領を捕縛し、臨時の屋敷の地下牢へと収監する。

彼は屋敷の警備をあえて緩め、「誰でも侵入可能である」という印象を人々に植え付けた。さらに犯罪者たちの罪状を公にし、私刑の噂が群衆の間に広がるよう仕向けた。

幹部たちは目立つ牢に収容し、民衆が怒りをぶつけられるようにしたが、魔法で強化された鉄格子と兵士によって、殺害には至らないよう周到に計画した。


一方、首領ヴァンサンは密室に隠し、彼の死を被害者あるいは遺族の復讐に見せかけるつもりであった。


やがて、陽太はヴァンサンの前に姿を現した。

六十を過ぎたヴァンサンはなお屈強で、現役のラグビー選手にも匹敵する体格を誇っていた。その風貌だけで、人々は恐怖に駆られて距離を取った。傷跡に刻まれた顔は年齢以上の老いを感じさせた。

陽太が部屋に入ると、ヴァンサンはすぐに目的を察し、命乞いを始めた。


「攫われた娘たちの行方を知りたくはないか? 私を生かせば、知っていることをすべて話そう。」


「お前の部下はすでに捕らえている。情報はいくらでも手に入る。社会を害し、女性を苦しめた屑に生きる価値はない。」


「はは……日輪の勇者よ。外見は成長しても、中身はこの世界に来たばかりの子供のままだ。私の“商品”の半分以上は海外ではなく内陸へ流れていたのだ。」


「黙れ。」


「お前はどこの出身だ? その顔立ち……日本人か、それとも韓国人か。大学時代に友人と日本を旅したことがある。美しい国だった。」


つい先ほどまで毒を塗った剣で兵士を刺し殺し、素手で人を殴り殺していた男が、今は懐かしむような口調で過去を語っていた。


「フランス・アルプスの六人の大学生失踪事件を知っているか?」


「……聞いたことがある。映画になった事件だろう? 『魔山事件』と『血色の山』。」


陽太の親友―野口空。

温和な外見に反して、彼は恐怖映画を愛していた。二人は何度も映画館へ足を運び、上映されていない作品は家で鑑賞した。


皮肉なことに、彼ら自身がその恐怖映画の登場人物のように、異世界へと転移し、二度と故郷へ戻れなくなったのである。


やがてヴァンサンは、自らの過去を語り始めた。アルプスから召喚された六人の若者。そのうち一人の少女は強大な水魔法を持ち、水の聖女として王太子と結婚した。

残る者たちは裏切られ、奴隷として売られ、人体実験に利用された。

仲間は次々と命を落とし、生き延びたのはヴァンサンただ一人だった。


「これが、私が今も生きている理由だ。」


彼は王に忠誠を誓い、王国のために暗躍してきたという。


「人体実験だと?」


「知らないのか? いや……気づいていながら目を背けているのだろう。」


「何を語ろうと、お前の罪は消えない。」


「だが、我々に違いはあるのか? お前は正義のために殺し、私は生きるために殺した。それだけだ。」


彼は嘲るように笑った。


「それでも私は、美しい娘たちや豪奢な部屋、珍しい美食を手にした。お前はどうだ? 今もなお孤独なまま、隣に立つ者すらいないではないか。」


次の瞬間、ヴァンサンの胸を剣が貫いた。

鮮血が床を染め、彼の体は崩れ落ちた。


陽太は無言でそれを見下ろした。


彼にとって初めての殺人ではない。だが、同じ故郷を持つ転移者を手にかけたのは、これが初めてだった。


―王国の実験室。


その言葉が、彼の脳裏に焼き付いた。かつて空が語ろうとした真実。陽太はそれを拒み、戦いに身を投じた。


そして今、彼は名簿に記された最初の人物―

元高校生にして偽りの勇者、ヴァンサン・ルノーを討ったのである。


彼は最後まで知ることはなかった。

八十を超えた両親が今も帰りを待ち続けていることを。

そして妹が、兄を失った悲しみを胸に、新たな家庭を築いていることを。



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