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雨使い

訓練室にはワラの人形や木剣や木刀、木槍が置いてあった。

「あんたのステータスを調べさせてもらうよ」

「どうぞ」

エクレアは指で望遠鏡を作る。

「ピープ」

あたちは秘密を覗かれてる気がしてそわそわする。

「職業・カサの勇者。どんなカサでも聖なるカサに変える。使える魔法はハネカエル。アメダマ。ジウ。ハネカエルは敵の物理攻撃、魔法攻撃、呪い、すべて跳ね返します。敵意を持った攻撃しか跳ね返しません。パワースピードは100億倍!?」

エクレアの目が飛び出しそうになる。

「破格の性能だよ。手元になくても聖なるカサは念じるだけで飛んできます。主人が危ない時は自分の意思で飛んできて敵の攻撃を自動で防御し跳ね返します。絶対間に合います。不慮の事故からも守ってくれますが、敵意がないので跳ね返ることはありません。こんなの無敵じゃないか。カサを剣として使った場合、受けた攻撃を内部に貯めるので、開けば敵に跳ね返ります。アメダマはカサの先から飴玉のような弾丸が飛び出します。雨天でなければ使えません。自動照準。無限に連射可能。地の果てまで届きます。善なる心を持つ者はすり抜けます。ジウは踊りと歌で雨雲を呼び寄せ慈雨を降らせます。雨に濡れると致命傷でも回復します。踊りと歌を続ける限り雨雲は広がり続けます。最高3日は降り続きます。カサは広げると飛行可能」

あたちは首をひねる。

「もしかしてぶっ壊れ武器?」

「もしかしなくてもぶっ壊れ武器だよ。これは敵にバレたらまずいね。あんたのステータスを覗きから保護する魔法をかけておくよ」

「お願いしゃす!」

エクレアさんの手に魔法の杖が現れる。

「スペシャルカーテン!」

杖の先についてるハート型のピンクの宝石が光った。

「これで敵はあんたのステータスを確認できない。あんたはちびっ子だし、弱っちぃふりをしな。敵の攻撃を誘うんだ。魔族は弱者をいたぶるのが好きだから、小動物を見るとそそられるのさ」

「うん。弱者のふりする」

「いまからあんたは外に出て世界中に慈雨を降らせな。わたしは世界中の国に伝書鳩を飛ばしてくるよ。絶対死なないから老若男女関わらず武器を手に戦うように命じる」

「りょーかい」

あたちは城のお庭に出た。芝生が広がってる。おしゃれな外灯と噴水もある。手入れが行き届いててすごいきれい。

それだけでも気分は上々なのにあたちの大好きなアジサイがいっぱい咲いてるから、自然に体が踊っちゃう。あたちはスキップしながらくるりとまわる。

雨の日にいつもやってるように歌ったり踊ったりするとさっきまで雲ひとつなかった空に雨雲が広がってきた。すぐにザーザー降りになる。

雨の中を閉じたカサを肩に乗せて軽快に歩いたり、くるくる回して見せたり、外灯に飛び乗って手を広げたり、両手を広げて雨を全身で浴びたりもした。

ステップを踏んで水たまりにジャンプしたり、水たまりを蹴っ飛ばしたり好き放題しちゃう。

楽しすぎて永遠に踊れちゃう。歌は自作で楽しい曲も切ない曲も歌いまくる。

何時かぐらい歌って踊り続けたのかわからないけど、エクレアさんが声をかけてきた。

「ストップ。もういいよ。世界中が水浸しだ。このままじゃ沈没しちまう。生き残ってる世界中のみ

んな立ち上がって慈雨を浴びながら戦ってるよ。不死身の戦士さ」

「役立ててよかったぁ♩」

「次は四天王を倒しに行く。ついてきな」

「あい」

エクレアはほうきで空を飛ぶ。あたちはカサを広げてジャンプした。

飛べるって聞いたけど、ほんとうに飛べた。

すごい高い。

エクレアはあたちの移動速度に合わせてくれた。

「スピードはぜんぜんでないね。手のしびれはない?」

「だいじょうぶだよ。このカサおり紙みたいに軽いの」

「なら安心だよ」

足元に見える森の奥の広場にテントがいっぱい立ってる。

「魔王軍の野営地だ。東軍を率いてるのは四天王の1人ドラゴン将軍だ。炎の魔法を得意としている。わたしが陣幕テントを焼き払う。でてきたところを退治しな」

「OK」

あたちはうなづく。

あたちたちは地面に降りて抜き足差し足忍足で中央の大きなテントに近づいた。

大雨だから見張はいない。人間が弱すぎて油断してるね。

人間界の侵略は赤子の手をひねるようなもんだったろうし。

エクレアは魔法の杖を召喚して「ファイヤ!」を唱える。

陣幕は燃え上がってキャンプファイアーみたいになった。

「なにごとだ?」

外に出てきたのは黄金の鎧を着た体躯の大きい龍の顔をしたおじさんだ。龍の尻尾も生えてる。

あたちは怯えた表情でガタガタ震えて見せた。

「火遊びしたのはきさまか。火あぶりにしてやる」

おじさんの目がギラリと光る。

「ドラゴンブレスッ!」

龍のおじさんの口から強烈な炎が吹き出した。あたちは冷静に片膝をついてカサで防ぐ。

炎はおじさんに跳ね返った。100億倍のスピードと威力で。

「なっ!?」

おじさんは炎に包まれて消滅した。後ろの森も盛大に燃えてあたり一面黒焦げになっている。

瞬殺だ。近くのテントの影に隠れていたエクレアが出てくる。

「よくやった雨音。あとはザコそうじだ。1人も生かして返すんじゃないよ。あんたの情報が漏れるからね」

「うん」

野営地が騒がしくなる。あたちとエクレアは敵軍に取り囲まれた。

「きさまらのしわざか?人間ごときが調子に乗りよって。生かしておけん」

犬の顔の兵士たちが剣を振り上げて襲ってくる。あたちはカサを閉じて剣にして受けた。自動防御だから勝手にチャンバラしてくれる。

「くしざしにしてくれるわッ!」

槍を持った兵士がついてくるけど、これもカサではじく。弓矢が飛んできてカサで振り落とした。

反撃せず敵のあらゆる物理攻撃をぜんぶカサの剣で防いだ。

そろそろいいかな。

「ハネカエルっ!」

あたちはスキをついてカサをバッと広げた。

あたちに攻撃した兵士たちは見えない斬撃に切り裂かれたり、見えない槍にくしざしにされたり、見えない弓矢に射られた。100億倍の威力だから貫通して周囲の兵士たちも大量に巻き添えになる。

「悪魔の子か!?」

あたちに恐れをなした敵兵は逃げ出す。

「逃がさないよ。エクレア様特製の結界を張ったからね」

エクレアはほうきにまたがり空を飛んでいる。あっかんべえをしていた。

すぐにどこかへ飛んで逃げる。弓矢を避けるためだ。

結界は外に指定の種族を出さないバリアを張るみたい。

術者の頭にはマップが出て結界内の生物の位置や生死がわかるんだって。

結界はエクレアの魔力が尽きるが死ぬと解ける仕組み。

「もっとあそんで♩」

あたちは無邪気な笑顔を浮かべた。敵兵たちは後退りする。

そのあと、襲ってきた兵士たちはハネカエルでみんな倒した。

逃げた兵士たちもアメダマで撃つ。

アメダマは貫通力あるから何100本も大木を貫く。かくれんぼしても無駄だからね。

エクレアが結界内の生き残ってる敵の数を把握して教えてくれるから残らず殲滅できた。

エクレアが命乞いも無視しろと言ったので命令にしたがってる。

魔王軍は人間の命乞いを一切許さなかったから、同じことしたほうがいいんだって。

侵略して来てる魔族は民間人ではなく軍人だし。

狩は終わった。エクレアに聞いたけど犬の兵士はコボルトっていうみたい。

「次はドーナツ塔をすみかにしてる西軍のパンサー将軍を倒すよ」

「あい」

海を超えてドーナッツが重なったような形の塔に到着する。

塔の屋上から潜入して階段を降りたらすぐ玉座の間にたどりつく。

黒豹みたいな顔の青年が座っていた。

玉座の横の台座にかっこいい剣を置いている。

「ねずみか。こどもとはいえ、それがしは手加減せぬ」

パンサーは剣を抜くと獣じみた速さで襲ってきた。

「五芒星斬!」

あたちの目に五芒星が映る。パンサーの剣が生んだ軌跡だ。

あたちはまったく反応できないけどカサの剣がぜんぶはじく。

「ほう?やるな。あなどっておったわ」

パンサーはニヤリと笑う。好敵手を見つけた顔だ。どっちが勝つかわからないぎりぎりの命のやり取りがはじまると思ってるね?

「ざんねん。あたちの勝ち」

あたちはニヤ〜ッて笑ってカサを広げた。

パンサーの目に五芒星が映ったはず。それが彼の見た人生最後の景色に違いない。

100億倍返しだ。パンサーは細切れになっちゃった。

後ろの壁も五芒星の形で切り抜かれてる。

こっそり柱に隠れて様子を見ていたエクレアが駆け寄って来る。頭をなでてくれた。

「よくやったね。ザコも片付けるよ」

「ん」

あたちはうなづく。

前回と同じくエクレアが結界で兵士たちを塔に閉じ込めて一層づつお掃除して行った。

「よしよし。次はライオン将軍だ。武闘家だよ。鋭い爪と牙が武器さ。巨体に似合わず動きも素早い」

あたちたちは南軍を率いるライオン将軍のところに向かった。

草原にテントを張ってる。陣幕ね。

ここも大雨だから見張はゼロ。油断しすぎ。

中央の大きなテントに侵入する。

ライオンは昼寝しているようだ。カサの先でつつくと起き上がった。

「ふわぁ。ん?おまえうまそうだな。ひと口ちょうだい」

笑顔のライオンはペロッと舌なめずりして何気なく爪を振るう。

完全に寝ぼけてる。

あたちはカキン!と剣で防いだ。

「あばよ」

カサを開く。100億倍の威力の見えない爪で切り裂かれたライオンは夢見たまま死んだ。

ワンパターンだけど仕方ない。

エクレアさんにいい子いい子してもらう。

ザコそうじもし忘れずにたよ。

「最後はコウモリ将軍だよ。催眠が得意だ。目を見ちゃダメだよ」

「どうやって戦うのさ?」

「手足だけを見て戦ったり、目を閉じて心の眼でとらえるんだよ」

「ムリゲー。素直にカサに頼るよ」

「そうだね。そうするのが正解さ」

洞窟を根城にする北軍を率いるコウモリ将軍。

もともと人間が管理していた洞窟だから洞窟内の地図がある。

ザコ戦回避のために最奥に続く隠し通路を使った。

エクレアにライトの魔法をかけてもらったからあたちの周囲は明るい。

それでも、あたちは恐る恐る洞窟内を進んだ。暗闇はなにが潜んでるからわからないから怖い。

カサをさしたまま洞窟を進むのは、はたからみたらけっこう面白いんじゃないかな?

そんなことを考えながら進んでいくと玉座の間にたどり着いた。

吸血鬼が玉座に座ってる。

「がきんちょか。おもしろい。オレ様のおもちゃにしてやろう」

ヴァンパイアの赤い目が怪しく輝く。緑の超音波みたいなのが見える。

あたちはカサをスッと向けた。

超音波は100億倍の威力で跳ね返る。

「仲間に催眠をかけて同士討ちして」

「かしこまりました」

コウモリはあたちの言うとおりにしてくれたからザコそうじの手間が省けた。

「あんたはなんてかしこいんだ」

エクレアに絶賛される。

四天王は2日で倒した。

異世界召喚されて3日目、ついに大魔王の居城に乗り込む。

3階のバルコニーの窓から単身で潜入する。

体が小さいから隠密行動には向いてる。

だれにも見つからず玉座の間にたどり着く。

「よく来たな。小さき勇者よ」

宝石じゃらじゃらのネックレスを首にかけ黒いローブをまとった青白い肌の耳のとんがった銀髪碧眼長髪の美男子が玉座に座っていた。

「あたちが勇者だってなんで知ってるの?」

「太古の昔から魔王城にたどり着けるのは勇者に決まっておる」

「そうなんだ?知らなかった」

「さあ。戦いをはじめよう」

「うん!」

あたちはカサを剣のように構える。いよいよラスボス戦だ。

チート武器持ってるから不安も緊張もない。

でもわざと震えて見せる。怯えてるふりで攻撃を誘う芝居だ。

あたちは額から汗も流して見せる。演技派でしょ?

戦いをはじめようって言ったクセに魔王は足を組んで座ったままだ。

はやくかかってきて。瞬殺してあげる。

魔王はあごに手を乗せて目を細めた。

「そなたは危険な香りがするの。地雷のような匂いじゃ」

「山椒は小粒でピリリと辛いからね」

ギクっ!こいつ初見殺しのカサの性能を看破してる?

魔王はやっぱりただものじゃなさそう。

見た目若いのに老人口調だし10万63才だったりして。

「ステータスを隠しておるのも怪しいのぉ。なにか奥の手を隠しておるな」

魔王は指で望遠鏡を作る。

「そりゃ奥の手は隠すでしょ?ジャイアントキリングなんだからさ」

必中必殺の反射攻撃だけど、攻撃してくれなきゃ反射できないのが弱点だ。

奥の手が見破られませんように。

「そのカサは攻撃を防ぐ防具じゃろうな。しかし、単身で攻め込んできておる。攻撃ができないのに不思議じゃ。そなたはいかにも弱そうで加虐心を大いにそそられる。魔族の残虐な性格を利用して攻撃を誘っているように見えるんじゃが、どうじゃろう?」

正確に分析されてる。やばいな。黙秘する。魔王は推理を続ける。

「ずばりそのカサの能力は反射なんじゃないかの?それもかなりの倍返しじゃ。一撃で強敵をほふるほどの」

見破られた!

「どうかなぁ。試してみれば?それとも怖い?」

あたちは挑発する。魔王は立ち上がり、ゆっくりと歩み寄ってきた。

優雅だ。まるで殺気を感じない。友だちに近づくような邪気のなさだ。

「魔剣は使わないの?」

「みたいかね?」

「ちょっとね」

「今回は使わんよ。使うべきじゃないと考えておる」

「なんで?」

「吾輩の読みではそのカサは悪意のない攻撃は防げんし反射できん。魔剣は悪意の塊じゃ」

魔王はあたちにひざまづくとカサをスッとつかんだ。

引き戻そうとするけどすごい力でぜんぜん動かん!

「うーっ、離して」

魔王はあたちの手からカサをやさしくもぎ取る。

「吾輩はいま善意で客人からカサを預かった。室内でカサは邪魔になるからの」

魔王は貴公子の微笑みを浮かべる。

こっちを傷つける意図がまったくないから何も反射できない。

打つてなしだ。魔王はパチンと指を鳴らす。

ガラガラガシャーン!って轟音が響き渡った。

「うわっ!」

トラップだ。天井から鉄格子の牢屋が降って来る。

あたち簡単に捕まっちゃった。カサに向けて手を伸ばす。

「カサよ来い!」

シーンとする。カサは魔王の手の中でギチギチもがいていた。

魔王は上品に微笑んだ。

「ふっふっふっ。むりじゃよ。吾輩の握力は100万キロじゃ」

ゲッ。魔族は人間を超越してるね。はったりかもしれないけど、カサを拘束するだけの握力はある。

「カサのないそなたなど瞬殺じゃが、多くの同族の仇じゃ。なるべく長く苦しめてやりたい。このまま飢え殺してやろう」

残酷な言葉を口にする。あたちは鉄格子を握りしめた。

「だして!守ろう子どもの人権ッ!」

「魔族の子なら大事にするが、人間の子どもなら人権無視じゃ」

「差別反対ッ!l」

「人間も魔族を差別するじゃろう。さて、吾輩はごちそうを食べよう」

「やなやつやなやつやなやつ!慈悲心の欠片もない!」

「魔王じゃからな」

あたちの罵倒もどこ吹く風だ。

魔王はメイドにごちそうを用意させてあたちの目の前でディナーをはじめる。

美味しそうに食べやがってぇ。よだれがでちゃう。

わけてもらえるはずもなくあたちは空腹の一夜を過ごした。

ううっ、ひもじい。お腹すいたよぉ。

パンの頭のヒーローに助けに来て欲ちい。

神様に願いは届かなかった。あたちは渇きと飢えで動けなくなり牢獄で倒れる。

次の日の夜、食事を終えた魔王は玉座でニコニコしていた。

カサの柄をしっかり握りしめている。

「どうじゃ苦しかろう?吾輩は楽しくてたまらん」

「み・・・みず」

あたちはのどがカラカラだ。もうすぐ干物になっちゃうよ。

「吾輩は飢え殺しが好きでのぉ。魔王になるために魔界で暴れ回っておったときは敵軍を城に押し込めて兵糧攻めで何百万人も飢え殺したわい。やつらは空腹に耐えかねて共食いまでしておった。ふっひょっひょっひょっひょっ」

不気味な笑い声は空腹に響く。気持ち悪さで目まいがする。

「わざと取り囲んだ城の外で宴会を始めてうまいもんを食べておるところをたっぷりと見せつけてやったりしてな。我ながら敵の心を削る天才じゃ」

悪趣味な魔王は自画自賛して上機嫌だ。

「兵糧攻めは兵の損失をおさえるためにも有効なんじゃぞ?堅固な城に攻め込むと甚大な被害をこうむることもあるからの。敵はしぬものぐるいじゃし」

魔王が城攻めについて講釈を垂れるてけど、そんなのどうでもいい。

もう限界だ。

あたちはグーの右手を突き出してパーにする。

「ひらけカサ・・・」

「むっ!?」

魔王の持つカサがバッと開く。

「遠隔操作か。じゃが、これがなんじゃ?痛うもかゆうもないわ」

魔王は余裕の笑みを広げた。だけど、すぐに顔色が変わる。

「うっ・・・はっ、腹が・・・減るッ!」

魔王はお腹をおさえて玉座から転げ落ちた。のども渇いていると思う。

いま魔王にはすさまじい飢えが襲ってるはずだ。

あたちが味わった100億倍の飢えだ。魔族の王とはいえ耐えられないでしょ?

思った通り飢え殺しは悪意を持った攻撃としてカサに蓄えられてた。

カサは開いた状態じゃないとダメージを反射しない。

閉じた状態で受けた物理攻撃は開くまで跳ね返らなかった。

見えない悪意のある攻撃もカサを閉じてる状態ならカサに蓄えられてる。

そう踏んで賭けてみた。

1日待ったのは誰も味わったことのない最大限の飢えを与えるため。

賭けはあたちの勝ちだ。

「こしゃくな真似を・・・許さぬ」

血走った目でにらみつけてくる。許さんって言っても何もできないでしょ?

なん100万人も飢え殺ししといて自分が飢え殺しされたら怒るってへんなのぉ。

人にしたことはいいことも悪いこともぜんぶ跳ねかえるんだよ。

いい勉強になったでしょ。来世で生かして欲しい。

「・・・バイバイ魔王」

「来世にわたって呪ってやるぞッ!」

「・・・また跳ね返すだけ」

「くそぉおおおおおおッ!」

断末魔の声が魔王城に響き渡る。

見た目は若者だった魔王はおいさらばえた老人と化し干からびて骨だけになった。

100億年分の飢えを味わったのにけっこうしゃべってたなぁ。

そのタフさだけはほめてあげるよ。

あたちももう限界。骨と皮だけになっちゃうよ。

「雨音。いま助けるよッ!」

エクレアが忽然と姿を現す。気配消しの魔法で隠れてたんだ。

魔法の杖で疾風を起こし鉄格子を斬ってくれる。

「水とコーンスープだ。ゆっくり飲みな」

エクレアは2つの水筒を持っていた。あたちはエクレアに抱き抱えられて水分と栄養補給する。

ぷは〜。おいちい。1日ぶりの食事はごぞうろっぷに染み渡る。

「こんなところからはさっさとおさらばだよ」

気配消しの魔法をかけてもらいエクレアと2人で魔王城を脱出した。

最初に召喚されたお城に帰還する。

凍らせていたごちそうを炎の魔法で溶かしていっぱい食べる。丸1日休んだら体力は全回復した。

朝起きて城の庭に出る。ジウの効果が切れて空は晴れていた。虹も見えた。希望の朝だ!

いつのまにかエクレアが後ろに立ってた。

「魔王城の書庫から盗んだ禁断の魔術書を読んでわかったけど、魔王の見た目が若かったのは若い魔族の肉体を乗っ取ってたみたいだね」

「そうなんだ。ほんとに悪いやつだったね」

「あとは魔王軍のザコそうじだね。世界中に潜んでるから大仕事だよ」

魔王が死んでから魔王軍は動きをとめている。

四天王もみんな死んだし魔族は大騒ぎなんだろう。

魔王の後継者や四天王の後釜を会議して決めてそう。

「あたちに任せて。龍神結界ッ!」

あたちは開いたカサを天に突き上げる。

世界を包む結界が生まれた。

「魔王を倒してレベルが99になったから龍神の加護が付いたの。龍神は水の神様だから雨使いのあたちと相性いいみたい。おかげで龍神結界っていう結界術が使えるようになったよ。世界を包む結界を張って敵を閉じ込めて位置を把握できるから、残党は簡単に駆除できる」

「わたしの結界の上位互換だね。範囲広すぎ」

「ジウ使ってアメダマでここから撃ち抜くね?」

「頼む」

アメダマを連射して残党狩は終わった。

悪は滅んだ。

その夜、生き残った人類で盛大な宴が開催された。

飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎだ。

翌朝、あたちの銅像を建ててくれるっていうから絵のモデルになった。

すごくかわいく描いてくれた。

用事はぜんぶすませたからエクレアにお別れのあいさつする。

「龍神の加護がついたから、この世界に昔から隠れ住んでる水龍と心がつながったの。水龍の背中に乗れば時空を超えてもとの世界に戻れるみたいだから、あたちおうちに帰るね」

エウレカはびっくりした顔のあと眉間に皺を寄せる。

「ごめんよ。わたしはあんたを帰す方法を用意してなかったんだ。異世界召喚は一方通行だからね。

「気にしてないよ。帰れなくてもしょうがないって思ってたよ」

あたちは心の中で友達の水龍を呼んだ。噴水から小さなサイズの水龍が姿を現す。

姿を消してるけど水龍は川や海、水の近くに必ずいる。

噴水をザバザバ吸って大きなサイズになった水龍の背中に乗る。

「また遊びに来るね♩」

「恋人連れて来なよ!」

「がんばる♩」

水龍は出発する。地上の人たちが驚いてこっちを見上げてる。手を振ってあげる。

道中、雨が降ってきたからカサをさした。

異世界の境界を超えて10分ぐらいでもとの世界に到着する。まだ雨が降ってた。

校舎の時計はあたちが消えてからほとんど動いてない。

向こうの世界とは動いてる時間の流れがちがったのかな。

小学校のグラウンドで降ろしてもらう。水龍にお礼を言ったら微笑んで帰って行った。

ふと気づく。

遠くで河童のカッパを着た少年がキミドリのカサをさして踊ってる。

カサはきゅうりの柄も入ってる。

カッパとカサの色に合わせて長靴もキミドリだ。

センスのいいおしゃれさん。同族の匂いを感じたあたちは負けずと踊る。

少年はあたちの存在に気づく。踊りながら近づいてきた。

「ボクは雨雲雨太!きみは?」

「あたちは雨空雨音だよ」

「ボクも雨が大好きなんだ。いっしょに踊ろう♩」

「うん♩」

しばらくして踊りつかれたので大樹の陰に座って雨宿りする。

「あたちカサの勇者なんだよ?異世界を救ったの」

「へーっおもしろい話だね。聞かせて!」

「え〜とね、グラウンドに魔法陣が現れて・・・」

あたちは雨太と親友になった。

雨が大好きなあたちたちは雨が降るたびにいっしょに踊った。

2人で水龍の背に乗ってあたちの銅像を観に行くのはまた別のおはなし。

ちゃんちゃん♩



参考文献 映画「雨に唄えば」

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