08 目が肥えすぎて婚約なんか無理ですわ
そうこうしているうちに、わたくしは15歳の成人を迎えていました。
メレディス兄様の時よりは、幾分か規模の小さい成人の儀とパーティーでしたが、それでもどっと疲れましたわ。けれど、それらよりも遥かにわたくしの体力を奪ったのは婚約話でした。
わたくしの元には山のような釣書が届いており、当然ではありますが、国の中の優良物件というような殿方たちばかりでした。仮にも第一王女ですから、選り取り見取り、一番良いお相手を選ぶ権利があります。ゲームのヴェロニカにも婚約者がいたような、と思い、面倒なのでそれでいいわ、と思ったのですが、あまりにも印象が無さすぎて思い出せませんでした。諦めて目につく釣書を見ていきます。
「ヴェロニカのお眼鏡にかなう男はいそうか? 気になるのがいれば俺が見定めてやるからな」
メレディス兄様が釣書を覗き込みます。いっそのこと、選んで頂こうかしら。
メレディス兄様は公爵令息に同じ年頃の男がいたような、伯爵は割と顔が良いが年の差があるか、などと唸っています。
「姉様は普段から、僕たちに囲まれているし、その辺の男なんて物足りないでしょう? だって、みんな冴えない顔してますし」
「そうですが、そういうことは言ってはいけませんよ」
ゼノンを叱りますが、その通りなので、強く嗜めませんでしたわ。3兄弟も自分の顔も美しいので、目が肥えてしまったようです。ノクス兄様は引いた目でわたくしと釣書の山を見ます。
「こんなにいるのに選べないとか贅沢すぎないか……そんなに嫌なら、隣国とか。フィルマン公国。公家は綺麗な人が多いって、聞くし」
「それは、ちょっと、難しいと思いますわ」
わたくしがそのフィルマン公国の公女ですから……ややこしくなることこの上ないですわね。理想のヤンデレ世界創りが婚約ごときでお陀仏になっては困りますの。
「確かに、戦争が終わったのがちょうどヴェロニカが生まれた年だからな、隣国との婚約話が持ち上がってもおかしくはないな」
「それはないですわね」
強く否定しましたが、メレディス兄様は交易とか外交とか考えるとさ、などと続けます。ですが、戦後わたくしという人質がいることで、両国が保っていますから。わたくしの存在は秘匿されていますが、両国の戦争の歴史は開示されていますわ。兄様、きちんと勉強していらっしゃるのかしら。
そもそもフィルマン公国はティタニア王国から独立した公爵家です。独立自体は大分前にしていましたが、それを恨めしく思っていたティタニア王国の先王が戦争を嗾けたのが、発端でした。最終的に他国まで巻き込み、フィルマン公国は領土の3分の1を明け渡して終戦しました。その時、残りの領土を奪わないこと、フィルマン公国に不可侵であること(交易や出入りは許可されていますが)の代わりの人質がわたくしなのです。
「じゃあ、姉様はどんな人と結婚したいんですか? 好きな男性の傾向とか、顔とか、体格とか。そういうお話聞いたこと無いので気になります」
ゼノンはこてん、とあざとく首を傾げて、聞く姿勢に入りました。
好きな男性……ヤンデレが好きですが、それ以外考えたことがありませんわね。ヤンデレも空想、二次元の産物だから楽しいのであって、それがわたくしに向けられるのは面倒そうなので嫌ですし。わたくしは自由でいたいので、束縛なんかも困ります。添い遂げるなら、それは、まあ顔が良い方が良いにきまっていますが。強いてタイプ、と言うならマッチョでしょうか。体格の良い殿方は目で追いがちですわね。
回答する前に、しびれをきらしたゼノンが別の質問を投げかけてきました。
「僕たち3人の中なら誰が好みに近いですか?」
急に三択になってしまいました。ゼノンはもちろん僕ですよね、とわたくしの返答を急かしました。早くも排除型思考の片鱗が見えて、内心でほくそ笑みます。自信たっぷりなのは花丸ですが、ゼノンが好みかと言われると微妙なところですわね。
ゼノンは金髪碧眼、ドールフェイスです。王妃様の意向で、色白肌に合うようなふりふりのフリルたっぷりのお洋服を着ていることが多いです。ゼノンは自分の容姿に合うから良いんだ、と好んで着ていますが。最近はわたくしの後をついてまわる雛鳥のように見えてしまいます。ちょっと、可愛らしすぎますのよね。弟なので、可愛く見えてしまいますし、そもそも好みという話に持っていくのが難しいですわね。
メレディス兄様は快活な、元気な肌色の爽やか青年です。最近は身長がぐんと伸びて、体格も良くなってきたので、もう数年もしたら逞しい身体に爽やかな顔が載っているような状態になるのでしょうか。真面目で頼れるお兄様ですが、甘えてわたくしが駄目人間になってしまいそうですわね。
ノクス兄様は、暗い雰囲気ですが、線が細くて綺麗なのですわよね。金目もわたくしは素敵に見えますわ。メンヘラもいくらかマシになりましたが、ぼそぼそと会話されるのは結構、神経を使うといいますか、もう少し快活になってくださると嬉しいですわね。
よって、3兄弟は絶妙に好みからズレるのですが。
「その選択肢でしたら、メレディス兄様ですわね」
反応は三者三様でした。メレディス兄様は照れたように喜び、ノクス兄様は分かり切っていたような、興味なさげな様子です。ゼノンはというと、呆気に取られたようにわたくしを見ています。それからメレディス兄様の方を恨めしそうに見ています。姉でこの反応なら、ヒロインの好きな方相手なら物理で消してしまいそうですね。良い傾向ですわ。
「あ、でもメレディス兄様はたまに訓練終わりとか汗臭いことがあるので、それは直してくださいませね」
喜びから一転、羞恥と驚きの顔をして、慌てて自分の匂いを嗅いでいました。わたくし、汗臭いマッチョは嫌いですの。このまま兄様がゲームのような体格になるのは喜ばしいですが、細かいところまで気を遣えてこそ、マッチョは光るのですわ……わたくしは一体何を熱弁しているのでしょうか。
結局、わがまま演技を発動して、婚約話は先送りになりました。
とはいえ、王女の婚約ですから、話自体は出ていたらしいです。話が出るたび婚約話が兄弟たちによって取り潰されていただけで。




