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悪役王女のわたくしが、自給自足したヤンデレたちから逃亡するまで。  作者: 陽海
ヤンデレ育成編

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06 魔獣コレクターな悪役王女

 聖女として神殿に通うことが増え、自分が悪役王女だということを失念していた頃、それを思い出させるような出来事がありました。


「これって、ゲームに出てくるラスボスの魔獣、ですわよね……」


 王宮内だというのに、とぐろを巻いて黒い蛇が眠っていました。

 この黒い蛇はゲームでの事実上のラスボスで、悪役王女ヴェロニカの手駒であったメライナという魔獣です。ティタニア王国には魔獣というものがいて、大抵は悪いことをして人々を困らせています。ヒロインも依頼を受けて魔獣を倒すことが多いのですが、その魔獣を操っているのは、ヴェロニカでした。といっても、ヴェロニカはヒロインへの嫌がらせがしたいだけで、人々への被害など微塵も考えてはいませんでしたが。


 メライナはよく見ると、怪我をしているようでした。サイズもわたくしが知っているものよりも小さく、抱えることができそうです。放置して暴れられても困りますし、王宮内で魔獣がいる場所など限られていますわ。


「ノクス兄様、いらっしゃいます?」

「わっ!! 急に、こないで、よ」

「離宮の入り口で声はかけましたわ。兄様が出てきてくださらなかったから、ここまで来たんですのよ」


 ノクス兄様は相変わらず離宮の研究室がお好きでした。急に声を掛けられて変な体制になっているノクス兄様を見ながら、わたくしは座れそうなソファに腰を下ろしました。まったく、椅子とお茶くらい用意しておいてほしいですわ。

 ノクス兄様は怪訝な顔でわたくしを見て、また作業に戻ろうとしましたが、わたくしの腕の中にいる蛇に目を止めました。


「それ、魔獣だよね、どうしたの」

「あら? 兄様の魔獣じゃないんですの? てっきりここから逃げ出してきたのだとばかり」


 ノクス兄様が見せて、というように手を差し出したのでわたくしはメライナを手渡しました。机の上にメライナを寝かせて、ノクス兄様はぶつぶつと何かを言っています。頑張って解読したところ、「なぜこんな強い魔獣が王宮に?」ということでした。わたくしもそれが聞きたかったのですが、知見は得られなさそうですわね。


「とりあえず、怪我もしてますし、兄様のところで見ていてくださらない?」


 いいけど、とノクス兄様が言いかけたところで、メライナの姿が蛇から人型に変化しました。5,6歳ほどの小さな少女の姿です。ノクス兄様も驚いてメライナを見つめます。メライナは目を覚ますと、わたくしたちの視線に気が付いて、暴れようとしました。牙をむいて、目をぎらつかせてわたくしたちに威嚇します。未来のわたくしの手駒のはずですが、ヴェロニカはどうやって躾けたのでしょうか。

 襲いかかろうとするメライナを眺めます。メライナの体はノクス兄様の魔法で作られた影によって、押さえつけられていました。


「ヴェロニカ、ぼけっとしてないで、くれるかな」

「ああ、ごめんなさい。ノクス兄様がなんとかしてくださると思って」


 実際、わたくしが何か言う前に、兄様は魔法を発動させていました。ノクス兄様は呆れたように溜息を吐きながら、改めて拘束危惧をメライナに取り付けると、黒い影を退かしました。黒い影は凶暴な狼のような姿をしていて、こちらもわたくしに威嚇しています。


「はあ、躾のなってない動物たちは嫌いです。兄様も自分の使役している影くらい、ちゃんと躾けてくださいまし」


 ノクス兄様はポリポリと困ったように頭をかきながら「こういうかんじ、とか」と呟くと、威嚇していた影の狼が大型犬のような見た目に変わりました。歯や爪の鋭さはそのままですが、見た目は凛々しくて好みです。わたくしは満足げに頷いてみせました。


「メライナも可愛くできないのでしょうか」

「うーん、やってみても、いいけど」


 ノクス兄様の言葉にわたくしは喜びました。それならメライナもわたくしが躾けられるかもしれませんわね。「いつの間に名前決めたの」と言うノクス兄様に「今決めたんですわ」と適当なことを返しておきました。


「今更だけど、どうして僕のことを助けようと思ったの」


 ノクス兄様は少し可愛らしくなった自分の黒い影を見たまま尋ねました。わたくしの返答を待っているのでしょう、こちらを見てくださればいいのに。さて、なんと答えるべきでしょうか。わたくしは地雷原を無くすためにノクス兄様を引っ張り出しただけであって、微塵も助けようなどとは思っていませんでした。ノクス兄様の認識が「助けられた」になっているのも驚きです。


「兄様はあそこにいたかったのかも、と思っていましたわ。しばらくは引き篭もろうとしていらっしゃったし」


 そうだけど、とぼやいています。やはり、自身の生活に何かしら思うことがあったのでしょう。とはいえ、わたくしはヒロインのように兄様のメンタルを救えるような、良い言葉を知りません。


「わたくしは、1人にあんな生活を強いるのはおかしいと思っただけですわ。ノクス兄様だって、まだ19歳ですし、もっと大人や周りの助けが必要なはずですから」


 ノクス兄様はちらりとわたくしに目を向けました。黙って見つめ返しましたが、ノクス兄様は何も言わず、黒い影に目線を戻し、影をしまいました。


「大層なオヒメサマだ、はは」


 嘲るように笑って、ノクス兄様はそのまま自分の作業に戻ってしまいました。

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