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悪役王女のわたくしが、自給自足したヤンデレたちから逃亡するまで。  作者: 陽海
ヤンデレ育成編

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05 わたくしが美しいばかりに

 怒涛の日々から少し落ち着いて、わたくしはそろそろ14歳になろうとしていました。

 3兄弟たちともすっかり仲良くなっていましたし、クレアとメレディス兄様の交流も続いていました。そのおかげで、クレアはゼノンとも関わるようになっていました。


 いつものようにクレアがやってきたかと思ったら、その日はアルベール様が付いてきていました。

 何かご用事かしら、とうかがうと、わたくしに神殿に来てほしいと言います。今思えば、完全に聖女の打診です。これを受けなければ、もう少しマシなシナリオになっていたかもしれない、と猛省するばかりですわ。


 とにかく、その時のわたくしは深く考えず、アルベール様が「神殿で話したいことがあるのですが」と言うので、てっきりネリナ様の依頼の件だと思い込んで了承してしまいました。


 神殿と言うと、やはり清廉潔白なイメージです。クレアもいつも薄い水色のシスター服のような服を着ていました。しかし、わたくしは悪役王女、そんな純真なお洋服は持っていません。というか、わたくし自身が派手なお洋服を好んで着ていました。まだ14歳にもならないというのに、発育が非常によく、前世のわたくしが羨むほどのナイスバディでしたわ。そのため、部屋はセクシーなお洋服で溢れていました。

 ただの依頼人としてうかがうのと、アルベール様に連れられた客人としてうかがうのは別物です。考えあぐねて、仕方なく露出が無い白いドレスを着ました。露出が無いだけで、体のラインを全部拾う代物ですが。無いものは無いので、仕方ありませんわね。


「とってもお綺麗ですね」

「ありがとうございます」


 流れるように褒めるアルベール様に、同い年のくせして、もうロマンチストなところがありますのね、と思いながら馬車に乗り込みました。ゲームのアルベール様は綺麗なものや芸術が好きなロマンチストな一面があったので、わたくしを綺麗と思うのは当然ですわ。


 馬車でのクレアとアルベール様の見惚れるような凝視に耐えきって、ようやく神殿に着きました。

 大理石でできた荘厳な神殿です。建物内には女神ガイアの像がそびえ立ち、クレアと同じような水色の服の聖女たちが受付で出迎えてくれました。

 受付でアルベール様が聖女たちと話し、部屋の手配やら何やらをしているのをぼうっと眺めていたら、突然聖女たちが一斉に沸き立ち、入り口に向かって挨拶をしました。アルベール様も話すのをやめてそちらを注視しました。


 入ってきたのは褐色肌の色気のある、しかもなぜかほろ酔いの青年でした。見覚えがあると顔を見ていますと、それがヒロインのお相手の一人、ブラッド・ルナシーであると気が付きました。ゲームよりも気持ち若く、神殿の職員服を着ているので気が付きませんでした。


「お疲れ様です、主任」


 アルベール様が挨拶をしました。主任? とわたくしはブラッドを見上げます。彼は劇作家ではなかったかしら。劇場に聞き込みにやってきたヒロインに「実は一目見た時から好きだった、神殿で会ったことがある、覚えていないか?」と初っ端で告白をかますのですが。クレアを見ると、どうやら初対面らしく、クレアは委縮していました。それなら、これがそのセリフにあった一目惚れの場面なのでしょう。わたくしは一人納得していました。


 ブラッドは声を掛けられてアルベール様を見ました。「ああ、お疲れ」と端的な返事をして受付に向き直る――と思ったら、わたくしを見て目を止めました。嫌な予感です。


「こんな綺麗な子初めて見た、名前は? ここの聖女? いや、服が違うな、今日から? 俺、一目惚れしちゃったなあ」


 的中です。一気に捲し立て、ドン引いているわたくしの手を構わずとって、わたくしをじろじろと眺めます。


「いやあ、今日辞めるつもりできたんだけど、こんな子がいるなら、辞めるのやめようかなあ」

「は、主任、辞めるってどういうことですか」


 アルベール様が驚き、釣られるように周囲もどよめきます。ブラッドはそれらを一切スルーして、受付に淡々と要件を話します。流れ作業のように、受付の方を向きながら、


「いやあ、辞めて好きなことしようと思って。主任の引継ぎは済んでるし、書類届けに来ただけ。頼れるブラッドさんがいなくなって寂しいだろうが、アルベールもがんばれよ」


 と、へらへらと笑っていました。そのうちに、新しい主任だという人物が現れて、場を収めました。ブラッドはへらへらしたまま、おもむろに職員服を脱ぎ始め、それをアルベール様に押し付けました。中には黒いスーツを着込んでいます。

 アルベール様は慌てて問い詰め続けていますが、のらりくらりと明言を避け、懲りずにわたくしの手を取りました。ヒロインのクレアはすぐそこにいるというのに、なぜ悪役王女のわたくし? ブラッドの性格もヤンデレの素質ありで好ましかったですが、一目惚れの真相がこれでは、がっかりですわ。


「わたくし、まだ未成年ですの。分かっていただけまして?」


 目で威圧すると、ブラッドはあちゃー、というような表情をしました。どうやら、20歳は超えているようで、「7つ下かあ」とこぼしました。


「俺は気にしないんだけど、じゃあ、また、会えることを願っております」


 手の甲にキスをしてブラッドは去って行きました。わたくしはハンカチでさっと手を拭い、盛大に溜息をつきました。


 呆れました。ただただ惚れっぽいだけですのね。

 敗因はわたくしが純真なお洋服を着ていた美しい少女だったことでしょうか。

 とはいえ、わたくしがクレアとブラッドの一目惚れイベントを奪ってしまったことに変わりはありません。ちらりとクレアの方をうかがうと、けろっとした顔をしていました。どちらかというと、アルベール様の方がダメージを受けているようでした。


「あの、アルベール様、今の方とは一体どのようなご関係で?」


 ゲームでは2人の関係性はあまり描かれていませんでした。アルベール様がブラッドのことをあまりよく思っていないような描かれ方はしていましたが。


「彼は私の上司で、勤めだした頃からお世話になっていました。彼は神殿を取りまとめているハギアの主任なんです」


 アルベール様によると、ブラッドは思っていたよりもすごい人物でした。

 ハギアというのは聖女たちの勤めている各神殿を総括する機関です。王家とは協力関係にありますが、ハギアは王家の依頼を拒否する権利を有しています。ブラッドはそのハギアのトップだったというのです。なかなかの実力者です。アルベール様が勤めているこの神殿は城下街にある一番大きな神殿で、ハギアの直轄神殿だといいます。

 ゲーム本編ではアルベール様がハギアの副主任、ナンバー2ですわね、になっていましたし、彼のお家、アストルム侯爵家は代々ハギアに勤めている優秀な家系です。アルベール様が働きだした頃には、もうブラッドが主任についていたそうです。


「いつか、彼を追い抜いて主任になりたかったのですが……」


 なるほど。それも叶わなくなってしまった、というわけですね。2人の関係性がなんとなく掴めましたわ。納得するわたくしをアルベールが見つめていました。不思議に思って、何かありましたか、と尋ねましたが、「なんでもないです」と言われてしまいました。


 嵐のような人です。ブラッドがなぜハギアを辞めて劇作家になったのかは不思議ですが。

 ヒロインとのきっかけが無くなってしまって、どうしたらいいのでしょうか。ブラッドの真意が読めないところやヒロインを翻弄して、着実にヒロインの心を掴んでいくスタイルは育て甲斐があると思っていましたのに。


 考えをまとめきらないうちに、部屋に通されて、アルベール様が本題に入ってしまいました。

 簡潔に言えば、わたくしの水魔法の浄化作用が聖女にふさわしく、活躍の場があること。推薦はクレアによるもの、ということでした。


「ヴェロニカ様に浄化魔法を教わりたいんです。それに、その」


 クレアは言い淀み、口をつぐみました。わたくしはクレアが言いたいことが分かっていました。

 ヒロインのクレアには固有の魔法がありません。膨大な魔力量があり、上手く使いこなせないでいて、かつ彼女は魔法暴走という彼女特有の悩みがあります。結局ゲーム最後まで魔法暴走の原因は分からないのですが、彼女としてはそれを食い止めたいのでしょう。


「私としても、ヴェロニカ様が聖女になってくれるなら嬉しいです。クレアのためにもなりますし、何より、ネリナ様の命を救った、あの時の行動力と魔法に、私も惹かれてしまったのです」


 アルベール様の言葉を受けてしばらく考えました。

 悪役王女が聖女だなんて、と思いますが、聖女としてクレアの傍にいる方がヤンデレ育成がしやすいかもしれません。アルベール様とは関わりがほとんど無いのが困り物でしたが、聖女としてであれば否が応でも関わることになります。クレアとアルベール様の様子を見られるのならメリットはあるかもしれませんわね。それに、ブラッドのことも気になりますし、神殿に勤めるなら何か分かるかもしれません。


「分かりましたわ。聖女になりましょう」


 それからは、最初から了承する前提だったと言わんばかりの早さで手続きが進んでいきました。アルベール様に「わたくしが断るとは思いませんでしたの?」と尋ねたら、「あなたは心が綺麗な方なので、受けてくださるとばかり。断られるなど考えもしませんでした」と言われました。半ば強制的に聖女になることが決まっていたようで、わたくしも観念して手続きに応じました。


 気が付けば、わたくしにぴったりサイズの聖女服を手に、帰路についていました。

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