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悪役王女のわたくしが、自給自足したヤンデレたちから逃亡するまで。  作者: 陽海
ヤンデレ育成編

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4/12

04 ヤンデレクッキング:抑圧開放

 とはいえ、城内に裏切者が紛れ込んでいたことで、城内はしばらく不穏でギスギスした空気でした。

 わたくしたち兄弟は仲が良く、派閥争いなどはどうでも良いことなのですが、周囲の大人たちにとってはそうではないようでした。


 命を狙われたこともあり、ネリナ様とメレディス兄様はすぐに王位継承権を放棄する旨を国王に進言しました。結局、放棄には至らず、ゼノンが成人する15歳までは継承権第一位として扱い、ゼノン成人後は継承権第二位とするという方向で落ち着いたらしいです。しかしながら、人の口に戸は立てられないようですわね、城内ではまことしやかに、誇張されたお話が出回っていました。


 ゲームではゼノンが次期国王として扱われていたことに、特に疑問を抱きませんでしたが、勉強や立場を知るというのは大事なことですわね、ティタニア王国の歴史や土地柄、神話に絡んだ、納得できる理由がありました。


 ティタニア王国はその昔、干ばつや水害、大寒波など、それはもう、天候の落ち着きがなかったようで、それを女神ガイアが整えた、という神話があります。今でも王国には女神ガイアを主神として祀る神殿が多くあります。先日訪れた神殿にも、女神ガイアの像がありましたわ。当然、ティタニア王家はガイアの血筋を引いているということになっていて、王族は女神ガイアに由来した自然の魔法を持っています。全く血のつながりが無いわたくしも、一応植物操作と水魔法、それから星読みの魔法が使えますの。星読みはなんといいますか、まあ、こじつけなのですけれど。


 中でもゼノンは天候操作の魔法を持っていますから、国民がゼノンを支持するのは必然といえば必然ですわね。とはいえ、メレディス兄様は大規模な水魔法が使えます。わたくしのような些細なものではなく、それこそ海を操れる規模です。そのため、メレディス兄様の支持層も厚いのですわ。


 このような背景があり、貴族の間ではゼノン派かメレディス兄様派か、というのが常にありました。

 ところが、今回の一件は派閥争いがはじめて表沙汰になってしまったのですわ。そのため、城内から貴族へと波紋が広がり、貴族社会はプチパニック状態でした。


 わたくしが心配していたのは、ゼノンのことでした。


「ゼノン、入りますわ……ちゃんと休んでますか?」


 ゼノンはその対処に追われていました。ゼノン主導のメイド処罰はあまりにも人目につきすぎていました。国王も巻き込んでしまい、秘密裏に進められなかったことを咎められた故でした。

 部屋ではいつもよりも若干くたびれて、きらめきが半減したゼノンが机から顔を上げてわたくしを見ていました。


「ごめんなさい、わたくしがもう少し危機感を持ってお願いすれば、こんなことにはならなかったのに」

「姉様のせいではありません。僕の判断ミスですから」


 目を細めますが、やはり疲れが目に見えていました。わたくしは申し訳なく思い、定期的にお菓子や軽食を運んでいました。時折、休憩しているのか、ぼけーっと天井を見上げていたり、読書をして顔を綻ばせたり、ゼノンが飼っている鷲と戯れたりしているのですが、わたくしが入るときまってすまし顔になってしまいます。


「きちんとお休みして。わたくしがゼノンの行動を咎めるわけないでしょう」


 ゼノンはばつが悪そうに「そうですが」と言いかけます。思えば、ゼノンは昔から真面目で、年の割には大人びていました。さも当然のように、大人は彼に無理強いをしていますが、ゼノンはわたくしよりも1つ下、まだ12歳の少年なのです。

 改めて考えると、わたくしはゼノンが年相応に、子供らしく笑っているのを見たことがありませんでした。思い起こしても、感情の機微が表情に現れていることがほとんどなかったように思います。


「ねえ、ゼノン。姉様も手伝うわ。わたくしがやっておくから、休憩してきて?」

「そういうわけにはいきません、姉様の手を煩わせるわけには」

「大丈夫よ、元々わたくしがあなたにお願いしたからこうなっているの。何も悪く思う必要ないわ。ばれないし、上手くやりますわ」

「でも」


 なかなか渋ります。仕事を放棄するのに抵抗があるのでしょう。けれど、窓際の籠の中にいるペットの鷲に視線は自然と引き寄せられています。


 わたくしはゲームのゼノンを思い出していました。

 ゲームのゼノンもなかなかのヤンデレの素質がありました。それも、わたくしの好みの独占・排除型のヤンデレですわ。


 ある程度ヒロインとの仲が深まってくると、ヒロインに予定を聞いたり、一緒にいようと画策します。ヒロインは可愛らしいので、とってもモテていました。そうすると、ヒロインに好意を向ける相手を消したいという思いに駆られていましたわ。けれど、良心が邪魔をして行動には移しません。その葛藤が魅力的だと言えば、それもまた一興ではありますが。


 ですが、わたくしはそれでは満足いたしませんわ!! それを全力で表現し、ヒロインにぶつけていただかなくては!! 

 倫理には欠けますが、まあ、ヒロインに好意を向ける男を最悪消したって構いませんわ。それくらい、わたくしがどうにかしますし。


 とまあ、その抑圧がどこからくるのか、と考えると、やはり今の状況に思い当たる節があるわけです。大人びているのも、真面目なのも、感情を抑えているのも、わたくしには窮屈な思いで生きているように見えました。それを取り払ってあげたら、ゲームでの抑圧は見られなくなり、完璧なヤンデレが拝めるのでは……?


 渋るゼノンを無理矢理机から引きはがし、わたくしが机に向かいました。その時の書類たちはまあ、一目見てうんざりするような代物でしたが、背に腹は代えられません。わたくしは努めて余裕そうな、聖母の笑みを作りました。


「ほら、姉様にまかせて。あなたは王子、しかもまだ12歳。ただのヒヨッコですわ。好きなことをして、もっと自由に生きたっていいんです。もっとわがままにふざけて、素直に生きましょう?」


 ゼノンはそのばさばさのまつ毛が生えた目をぱちくりさせました。机から追い出されたゼノンはしばらく立ち尽くしていましたが、わたくしが構わず書類とにらめっこし始めたので、手持ち無沙汰になったようでした。おずおずと鷲の元へ向かってじゃれ始めました。わたくしが何も言わないのをいいことに、そのうちに鷲が部屋中飛び回って、わたくしの傍らに置いてあったお菓子をつついて、それをゼノンがきゃっきゃしながら追いかけていました。


 とっぷりと日が暮れた頃には、書類が粗方片付いていました。わたくしの目と腰はバキバキで、なんとなく前世の嫌な記憶が蘇りましたが、終わったのでよしとします。


「一応、確認して、あなたが判を押してちょうだい。自分がやったってお父様に提出するんですよ」


 ゼノンに声をかけると、たたたと駆けてきて、書類を覗き込みました。少し確認すると、「ありがとう」と書類を受け取りました。しかし、自分が半日ほど遊び惚けていたことに少し思うところがあったようで、不安げに顔を曇らせました。


「罰はあたりませんわ。それに、全部自分で抱え込むのは果たして良いことかしら? 自分の才能と相手のできることを理解して、相手を正しくこき使うのも、王子には必要な能力だと思うけれど」

「……ありがとう、姉様」

「いいんですよ、たまには姉様を頼ってちょうだいね」


 書類を抱きしめて、改めてゼノンはお礼を言ってくれました。わたくしは健気で色々と背負ってきたであろう弟を優しく抱きしめて、部屋から出ました。部屋の外に出てすぐに大きくのびと欠伸をして、一目散に自分の部屋のベッドに倒れ込みました。


 そのあと、すぐに派閥争いプチパニックは収束しました。ゼノンとメレディス兄様が変わらず仲良くしていたのもありますし、ネリナ様と王妃様がお茶会をしたというのもあると思います。聞いた話では、ゼノンが周囲に色々と指示をして、過激派を落ち着かせたのだとか。騒いでいたメレディス兄様派閥もゼノンの指導者的ふるまいに感銘を受けていた、というお話も聞きかじりましたわ。


 ゼノンはというと、以前よりも感情の発露が見られるようになりました。年相応で微笑ましく、姉様姉様、と後をついて回るのも、それはもう可愛らしかったのです。


 うーん、今思えばこのくらいがちょうどよかったですわね。どうやら、開放的な性格になりすぎてしまったみたいですわ。

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