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悪役王女のわたくしが、自給自足したヤンデレたちから逃亡するまで。  作者: 陽海
ヤンデレ育成編

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03 地雷原その2 母親重ね阻止

 ノクス兄様の件が落ち着いてから、わたくしは2つ目の地雷原の対処にあたりました。それは、メレディス兄様のお母様、ネリナ様にありました。


 ネリナ様はゲーム本編が始まる前に、病死していました。ゲームでのメレディス兄様はこのお母様の死をかなり引き摺っていて、行動原理が全てお母様に由来していました。もちろん、メレディス兄様がヒロインへのめり込む理由もお母様に由来していました。

 ヒロインを気にかけ、ヒロインに執着する様は、それはもう、ときめきましたわ。けれど、その執着の発端がヒロインのお顔や雰囲気がお母様に似ていたから、というのが、こう、母親がちらつくようで嫌なんですの、分かっていただけるかしら。


 ネリナ様にはちょくちょく会いにいっていました。ネリナ様はおそらくわたくしの出自を知っているのでしょう、ネリナ様ご自身の境遇と重ねられて、非常に可愛がってくださいました。わたくしとしても、そのネリナ様が亡くなるのは避けたかったのです。

 しかしながら、日に日に衰弱しているようで、いよいよ立ち上がることが難しくなってきました。メレディス兄様もふさぎ込むことが増えて、以前のような快活さが見えなくなってきました。


 お母様をどのように救えばいいのか、救ってメレディス兄様はどのように変わってしまうのか、ヒロインへの執着が無くなってしまわないか。悩みに悩んだ末、わたくしは、とある行動に出ました。


「し、失礼します……」


 ネリナ様の寝室に入ってきたのは、このゲームのヒロイン、クレア・グローイとクレアの所属する神殿の職員であるアルベール・アストルム様です。アルベール様はヒロインのお相手の1人ですわ。この時からアルベール様はゲームと変わらず、整った童顔で、くりくりした目も健在でした。


 わたくしは神殿に足を運び、ゲーム同様、「依頼」をしました。

 この乙女ゲームは神殿に勤める聖女、ヒロインのクレアが人々の「依頼」を解決し、時に恋愛をしながら、大聖女として認められるお話です。なので、わたくしもそれに則って依頼をしました。もちろん、クレアとアルベール様を選んだのは理由があります。


「来てくださってありがとうございます。依頼した通りですが、クレアさんとアルベール様にはネリナ様の治療にあたっていただきたいのです。クレアさんは、お話した通り、メレディス兄様にも気を配ってもらえると嬉しいですわ」


 アルベール様が治癒魔法を使えることはもちろん知っていました。クレアは治癒魔法を使うことはこの時点ではできなかったのですが、膨大な魔力量を持ち、ゲーム本編を通して様々な魔法を使うことができるようになっていたのを見越して、役に立つのではないかと思いました。メレディス兄様に「聖女としてネリナ様の治療にあたった」「精神が不安定な時に支えてくれた」という点で印象に残ることを期待した、というのが本音ですが。


 メレディス兄様は部屋に入ってくると、わたくしとクレア、アルベール様を一瞥しました。


「彼らがヴェロニカが言っていた人たちか。来てくださってありがとう」

「はっ……いえ! お母様を救ってみせます!」


 クレアに目で合図をすると、慌てたようにクレアが言いました。未熟な感じは否めませんが、可愛らしいし愛嬌もありますし、まあ、なんとかなるでしょう。メレディス兄様の見ている前でクレアはせっせと働いています。治癒には主にアルベール様があたっているので、クレアはその補助をしてくれています。

 メレディス兄様には事前に、彼らがくることを話していました。あくまでも、聖女のクレアが危機を察知して訪ねてくれたという設定にしていました。メレディス兄様にはできるだけ、クレアに恩義を感じてもらいたかったのですわ。


 明確にネリナ様が亡くなった時期は開示されていなかったのですが、治療を初めたちょうどその頃、その状態はまさしく危篤という様子でした。状態は良くなっても良いはずですが、悪くなる一方です。アルベール様もそれを疑問に思っていましたが、考えても分からず、代わる代わる治療にあたりました。わたくしも一緒に看病にあたっていて、メレディス兄様のことはクレアに丸投げしていました。時折、様子を見て、メレディス兄様が少し笑顔を見せたりしていると、クレアに感謝していました。


「ヴェロニカ様、それは……もしかして、浄化の作用がありますか?」


 アルベール様が見ていたのはわたくしが持っている水差しでした。汲みに行くのが面倒で、わたくしの水魔法で生成した水が入っています。そう伝えると、アルベール様は驚きました。


「いつから飲ませています?」

「ついさっきですわ。わざわざメイドを呼ぶのも治療の邪魔になると思いまして。よくありませんでしたか?」


 飲み水としてはおいしいと評判ですのに。下げようとすると、アルベール様は慌ててそれを制止しました。アルベール様は神殿の職員で、聖女たちの魔法に詳しいのですが、どうやらわたくしの水魔法には浄化作用が伴っていて、おそらくそれがネリナ様に効いているのだと言います。


「なぜ効いているのかは分かりませんが、思い当たることがあります。できる限り、水を飲ませてあげてください」


 アルベール様の気迫に押されて、わたくしは頷きました。


 治療が始まって数日、緊迫した状況は続いていました。

 ネリナ様は食事が喉を通らなくなり、水だけの状態が続きました。かえって、その方が容態が落ち着いたように見えました。


「アルベール様、わたくし、ネリナ様はどう見ても腹痛や嘔吐、下痢に悩まされているような気がしますわ」

「どうしてそのように?」


 つい、そのように口走りました。お医者様は原因が分からないと首をひねっていましたが、どう見ても前世の自分がウイルスや食あたりに悩まされたことが頭をよぎります。専門知識も何もないので、疲れから出た仕様もない考えでしたが、それとなく説明すると、アルベール様ははっとしたような顔をして、なぜかメイドにネリナ様用の食事を持ってこさせました。ネリナ様についていた侍女が食事を運んできて、ポタージュが載っていました。メイドを下がらせると、アルベール様はクレアを呼びました。どうやら、クレアにそのポタージュを神殿に持って帰るよう指示しているようでした。数時間後、血相を変えてクレアが戻ってきました。


「アルベール様の言った通り、本当にポタージュから毒が出てきました……!」


 毒、と言う言葉に驚きました。アルベール様が言うには、神殿で毒鑑定ができる聖女にポタージュを見てもらったのだと言います。わたくしの水魔法の浄化が効いていたのはそのためだそうで。側妃であるネリナ様に毒が盛られているというのは、とんでもない一大事です。ゲームではただの病死と言われていたので、予想外の展開に目を丸くしました。

 これ以上、メレディス兄様に負担を強いるわけにはいかないと思い、わたくしはゼノンを呼びつけました。ゼノンに洗いざらい説明すると、ゼノンは何か考えに至ったようでした。


「姉様、少し時間をくれませんか。探ってきます」


 食事に盛られている毒物の内容が分かってからは、解毒剤が効いてきて、徐々に容態も落ち着いてきました。翌日にはすっかり規則正しい寝息に戻り、数日後には簡単な食事がとれるまでに回復したのです。


 ゼノンはというと、翌日には顔を出して、事の顛末を説明してくれました。


「姉様が言っていたネリナ様付の侍女を問い詰めました。そうしたら、あっさり間者であることを吐きました。父様にも話をしたところ、僕の派閥の過激派が独断でしたことだったことが分かりました」


 その侍女は多額のお金をもらって日々少量の毒を食事に盛り、病死に見せかけようと画策していたとのことでした。すでにその侍女と侍女の背後にいた過激派は処罰されたらしく、ゼノンの行動の早さにびっくりしてしまいました。


「すごいですわ、さすがゼノン」

「やめてください、姉様。このくらいできて当然ですから」


 照れたようにそっぽを向いて、それでも大人しく褒められるゼノンが可愛らしかったです。

 ネリナ様が起き上がれるようになって、メレディス兄様もようやく元気を取り戻しました。頼れる兄様がネリナ様に抱き着いて泣いている様子を見て、心の底から安堵しました。わたくしも気を張りつめていたようで、アルベール様やクレアも疲れ切っていて、しばらくは3人で気絶したように眠っていたらしいです。


「ありがとう、ヴェロニカ。ヴェロニカのおかげで母さんが助かった」


 目を覚まして改まってメレディス兄様にお礼を言われました。ネリナ様も頭を下げます。一旦そのままそのお礼を受け取ってしまったのですが、すぐに本来の目的を思い出し、クレアとアルベール様を突き出しました。


「わたくしはほとんど何もしていませんわ。彼らが一切合切やってくださって、わたくしは見てただけですのよ、本当に」


 何か言いたげなクレアとアルベール様を目で黙らせ、わたくしがクレアを売り込んでいる最中、クレアはずっと困ったように愛想笑いを浮かべていました。後々、クレアには「一番働いていたのはヴェロニカ様でした」と言われましたが、そんなことはどうでもよく、わたくしはメレディス兄様とネリナ様がクレアにお礼を言い、メレディス兄様がクレアを城の入り口まで見送ってくれたことの方がよっぽど価値のある収穫に思えましたわ。


 クレアが帰った後、メレディス兄様とクレアの話をしました。


「クレアさん、ネリナ様にお顔が似てましたわね」

「そうか? 雰囲気はまあ似てなくもないけどな。なあ、ヴェロニカ、本当に」

「あら、でも素敵な女の子でしたわよね」


 メレディス兄様が何か言いかけたのを遮ってすかさず売り込みました。わたくしとしては、似てるという返事が返ってくると思っていたのですが。やはり、シナリオ改変は何かしら影響が出るのでしょうか。亡くなった母親に重ねてヒロインを好きになるという執着の要因は無くなりましたが、このままクレアと距離を縮めてくれたら、本来の執着を発揮してくれる、はずですわ。

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