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悪役王女のわたくしが、自給自足したヤンデレたちから逃亡するまで。  作者: 陽海
Chapter1 炎の獅子

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20 セッティングをしましょう

「……というわけで、サラマンダー退治に同行してほしいんですの、メレディス兄様」


 朝食の席でわたくしはメレディス兄様に例のサラマンダーの話をしました。

 内容を知っているわたくしが同行するのであれば、楽をしたいものです。サラマンダーですので、当然水に弱いのですわ。それに、乙女ゲームらしく殿方をヒロインの傍につけるべきだと思って、水魔法を使うメレディス兄様に声をお掛けした次第です。


「ああ、もちろん構わない。ちょうど暇をしていたところだ」


 メレディス兄様がぱっと笑います。さっそく段取りなどを話し合います。その後ろで、ゼノンとノクス兄様がぶつぶつと、


「メレディス兄様嘘は良くないです、仕事終わってないでしょう。姉様、その退治には僕は同行できないんですか?」

「メレディスサン必死すぎでしょ。2人きりじゃないのにさ」


 だのと、何か言っています。ゼノンの天候操作で雨を降らしてもいいですが、それだと広範囲すぎますし、何よりヒロインと一緒に同行する必要が無くなってしまうのでナシですわね。ノクス兄様のおっしゃる通り、悪役王女は頃合いを見てさくっといなくなりましょう。現状、アルベール様の次にクレアと関わっているのはメレディス兄様ですから、とっとと2人が良い雰囲気になればいいのに、と思っていますわ。


「それで、兄様にもう一つお願いがあって、聞いていただけるかしら」

「ああ、何でも聞こう」

「まあ、嬉しいですわ! クレアは知っての通り、魔法を上手く使えませんの。ですから、討伐前に水魔法の使い方を兄様から教えてさしあげてくださらない?」


 メレディス兄様は少しだけ困ったように眉を下げます。


「うーん……ヴェロニカも一緒に教えてあげた方がクレア嬢も喜ぶんじゃないか? あまりこう、未婚の男女が一緒にいるべきではないだろう?」


 あら、思ったより慎重派ですわね。見られて万が一騒ぐような者がいるなら、わたくしが処理するまでですが、そのような既成事実も恋愛要素のうまみみたいなところはありますからね。


「見張りの者でも立たせておけばよろしいでしょう。わたくしもやることがありますので」


 では、とわたくしは席を立ちます。兄様が苦笑しながら頭をぽりぽりかいているのを横目に部屋から出ました。クレアとメレディス兄様がよろしくやっている間に、わたくしは下準備でも済ませておきましょうかしらね。


 わたくしは流行に敏感な侍女たちの情報とゲーム内で見たなんとなくの雰囲気を元に、城下街へとやってきていました。聖女服を着ていると、仕事中だと認識してもらえるので、出歩きやすいんですわよね。

 辺りを見回していると、こぢんまりとした劇場が見えてきました。思っていたよりも盛況しているようですわね。

 演目のポスターのようなものが貼ってあります。どうやら、行方不明になってしまったお姫様を婚約者が探すという物語のようですわね。ヒロインを助けに行くヒーローとは、なんとも王道ですわ。


「見たくなった?」


 声をした方を向くと、ブラッドが立っていました。にやにやとこちらを探るような目は相変わらずですわね。


「まあまあですわね。あなたの書いたお話なんですの?」

「そんなところかな?」

「あなたならもう少し面白いものを書きそうですけれど」

「あはは、まあ、百パーセント俺の創造力で出来上がったものじゃないからね」


 盗作ではないでしょうね、と睨むと「いやだなあ、ノンフィクションってことだよ」とこれまたへらへらと笑います。よく見ると、その手にはワインボトルが握られています。


「まあ、昼間から酒盛りを?」

「まあね。酔ってた方が人生楽しそうだし」


 ブラッドはおもむろにわたくしについてくるように、と促しました。やはり、わたくしがブラッドに会いに来たこと、分かってらしたのね。


 ブラッドは不思議な魔法を使う方でした。魅了魔法というのでしょうか、精神に作用するタイプの魔法はかなり珍しい魔法です。彼の魅了魔法は、人をめろめろにするというよりかは、酩酊・錯乱状態にするようなものでした。ブラッド自身もいつも酒瓶を手にして、自らの魔法に加えて酒で物理的に酔っている、という駄目男まっしぐらみたいな設定がありましたわ。


 改めて考えてみますと、なんてヤンデレ向きの魔法なのでしょう! たしか、ゲーム内でも、クレアを魔法にかけて酔わせたり、周囲の人に魔法をかけて楽しんだり、というようなエピソードがありましたわ。


「楽しそうににこにこしてるねえ」


 案内された劇団員の控室のようなところで、ブラッドが椅子を引きました。わたくしがそれに座るところをじっと見つめてきます。

 この世界を生きるからこそ気が付いたことですが、魔法の発動の仕方が人によって異なるのですわよね。ゼノンのように見るだけで発動できる人もいれば、わたくしやメレディス兄様のように手や指をかざす人もいます。ゲームだとその辺は曖昧ですし、王位継承の不凍港作りの時のように、パフォーマンスでモーションを追加することもありますからね。酩酊、となるとやはり目を見るのが十八番な気がしますが。

 わたくしは視線から逃れるように本題を切り出しました。


「以前お話した、情報には敏感でいて、というお約束覚えていまして?」

「ああ、それね。うん、覚えてるよ。何かほしい情報があってきたんだね」

「そうですの。最近街を騒がせている、サラマンダーについてなのですけれど」


 このチャプターでは、必ずブラッドの元へ出向いてサラマンダーの情報をもらわねばなりませんでした。まあ、彼がサポート役であるというチュートリアルも兼ねていたのでしょう。シナリオを知っているとはいえ、どこに出没したかまでは覚えていませんからね。


「さすが、ヴェロニカ嬢、もう噂の怪物がサラマンダーだということまで知っているんだね」

「まあ、そんなところでしてよ。わたくしの魔法、便利でしょう」

「うん、そうだね。便利な魔法だ。魔法も身分も容姿も申し分ない、どの国も欲しがる魔法だ。ティタニア王国が手放さないわけだ」


 うふふ、と持っていた扇子で口を覆い隠しました。この嘘っぱち魔法はかなり便利ですわね。どんなに変なことを言い出しても、前世の知識を言っても、不思議がられませんから。


「そのサラマンダーだけどね、街中に2回、街外れの森付近に3回出没しているみたい。いつも夜間に現れるみたいだ。きっと昼間はどこかで眠っているんだろう」

「奇襲をかけるなら昼間ですわね。そのどこかが分かればもっと嬉しいのですけれど」

「お礼をはずんでくれるならいいよ。ヴェロニカ嬢からのキスとか?」

「それでしたら結構ですわ」


 ガタリと立ち上がり、情報に見合ったチップを置いて出ていこうとすると、「冗談冗談」と引き留められました。わたくしは怪訝な表情を扇子越しに作ったままブラッドを見ました。


「街中には食べ物を取りに来ていたみたいだ。そのまま森の方に戻っていったという話だから、おそらく住処は森の中なんだろうね。森付近で襲われた人の証言だと、そのまま街の方へ逃げたらそれ以上襲ってこなかったというし」

「縄張りでしょうか、人里に下りてくるクマみたいですわね」


 炎のたてがみとやらが消えにくい、湿った空気や雨風をしのげる場所と言えば、森の中にある、やたらと大きな洞穴くらいでしょうか。聖女の依頼で森の中にはよく出向きましたが、通るたびに「何か出るのでしょうね」と思っていたところですわ。


「ありがとうございます。見当もつきました。キスはあげられませんが」

「ちぇ」


 わたくしは色を付けたチップを追加しました。場所も分かりましたし、対価はお金でよさそうですわね。今度からはクレアに来てもらいましょう。


「また来てね。せっかくだから、今度は劇も見て行って」

「ええ、ぜひ。そうしますわ」


 演劇系は寝てしまうので、最後まで見られるか分かりませんが……ブラッドに頼めばヤンデレストーリーを書いてくれるかしら。いえ駄目ね、わたくしの性癖が攻略対象の殿方に知られるわけにはまいりませんものね。残念だわ。

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