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悪役王女のわたくしが、自給自足したヤンデレたちから逃亡するまで。  作者: 陽海
ヤンデレ育成編

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02 地雷原その1 メンヘラは環境から

 わたくしの地雷原は大きく2つありました。

 その2つのうち、手始めに取り掛かったのはわたくしのもう一人の兄のことでした。


「メレディス兄様、ゼノン、朝食を取り終わったら離宮に探検に行きませんか?」


 国王夫妻が食事を取り終えて出ていったのを見計らい、わたくしはそのように持ちかけました。2人は昨晩のわたくしの体調を気にしていたようですが、案外元気そうなわたくしを見て心配も引っ込んだようでした。


「離宮には近寄ってはいけないと、母様も父様も言っていますよね?」

「俺の母さんもそう言ってるな。だいぶボロいし、誰も手入れしてないから危ないって」


 2人の様子を見て、やはり、離宮に何がいるのか、知らないのだと思いました。例の通り、わたくしは隣国の人質娘、言わばよそ者です。国王夫妻が王子2人には事実を告げている場合もあると考慮して、鎌をかけてみたのですが、この様子では、問題ありませんわね。


「お願い。行ってみたいんです。付き合ってくれませんか?」


 ゼノンは1つ下だというのに、この頃は真面目だったので、わたくしは妹に甘いメレディス兄様に向けて目をキラキラさせて見せました。メレディス兄様は仕方ないなあ、と可愛らしい妹に手を焼いたように嬉しそうに言って、そのまま何食わぬ顔でメイドたちに3人でお庭に遊びに行ってきます、と告げました。さらっと嘘をついて、離宮へと駆けていく兄様を追って、納得いかない様子のゼノンを引っ張っていきました。


 さて、離宮に兄弟2人を連れて行ったのには、もちろん理由があります。


 離宮にいるのは、秘匿されている第一王子ノクス・ティタニアでした。

 ティタニア王家はメレディス兄様が第一王子、ゼノンが第二王子、わたくしが第一王女の3人兄弟というように公表していますが、実際はノクス兄様がいました。なぜ、彼が離宮に住んでいるのかと言いますと、それは彼の容姿と持っている魔法にありました。


 ノクス兄様は正真正銘、国王夫妻の子供です。余談ですが、国王夫妻お2人の実子はノクス兄様とゼノンだけです。わたくしは言わずもがなですが、メレディス兄様はお母様が側妃ネリナ様です。複雑な王家ですわね。

 というわけで、ノクス兄様は待望の第一子だったのですが、かなりの難産だったそうで、かつその子供が自分たちとかけ離れた容姿に、不気味な金目だと王妃様は混乱したそうです。メイドたちに世話をさせていましたが、半ばネグレクト気味だったようです。そうして、ノクス兄様が魔法を発現させると、その不気味な魔法に騒然となったそうですが、国王はその魔法の有用性に気が付いて、彼を離宮に住まわせていました。


「あれ、全然綺麗だ、ボロくなんてないんだな」


 メレディス兄様の言う通り、離宮は思ったよりも綺麗でした。蔦植物が覆っていて、ボロそうな演出がされているようですが、離宮は国王が整備しており、なんなら地下があるほどの立派な住まいになっていました。それもそのはずで、ノクス兄様はここをほぼ自分の城のようにして引き篭もり、魔法や魔獣の研究に明け暮れていたのですわ。


「なんだかわくわくしますわ。入ってみましょう!」

「ええ、姉様、本当に入るんですか……?」


 あなたたち2人に入ってもらわないと困りますわ。

 わたくしはにっこりと笑って2人を先頭に離宮に入りました。離宮は全体的に昼間だというのに薄暗く、黒く濃い影を落としていました。入口付近は少し散らかっていましたが、奥の部屋に行くにつれて綺麗で真新しい研究道具が増えていきました。メレディス兄様は不思議そうに歩いていきます。そうして進むにつれて、息を吞むような、人の気配がありました。


「だ、誰かいるのか」


 一早く察知したメレディス兄様が警戒し、その手には自身の水魔法を発動させていました。絶対に近くにいるのに、なかなか現れないノクス兄様にしびれを切らしたわたくしは、少しずつメレディス兄様の前に歩み出ました。


「誰かいるなら、出てきて。怖くありませんわ」


 などと、まるで赤子をあやすような声をかけながら、進んでいくと、突然顔すれすれに黒い影が飛び掛かってきました。あら、やはりシナリオ通り臨戦態勢ですのね。

 わたくしが変に感心していると、わたくしが攻撃されたため、メレディス兄様が一早く水魔法を放っていました。それは、どうやら研究道具にも当たったようで、奥からはぶつぶつと文句が聞こえてきました。


「姉様、僕、誰か人を呼んできます」


 ゼノンがくるりと玄関に向かって駆け出しました。確かに正しい判断ですが、2人以上の目撃者がいると話がややこしくなりそうですわね。咄嗟にわたくしは離宮の入り口に生えていた蔦植物を魔法で操作して、ドアの錠前をガチガチに固定しました。これでしばらく時間は稼げるでしょう。そのままわたくしは部屋を見回して同じように蔦植物が生えているのを確認すると、それをワキワキと動かして、部屋奥に向かって伸ばしました。


「なんだ、これ、絡みつくな、最悪、もう、なんだよ」


 単語単語の文句が聞こえてきて、メレディス兄様とそちらへ駆けていくと、びしょぬれで蔦に絡みつかれ、尻もちをついていたノクス兄様がわたくしたちを睨むような、怯えるような目で見上げていました。

 錠前を解くのを諦めたゼノンもこちらに駆けてきて、転がっているノクス兄様を見つめて驚いていました。


「男の子……?」


 なんでこんなところに、一体誰の子だ? と慌てる2人に、わたくしはなんともわざとらしく、言いました。


「彼、なんだか2人に似てるような……」



 結論から言えば、わたくしの誘導は大成功でした。


 ノクス兄様はメレディス兄様とゼノンのような金髪碧眼ではなく、くすんだグレーの長髪で、前髪で顔も隠れていて、ガリ細でしたが、やはりどこか兄弟と似た雰囲気のお顔でした。

 わたくしが思い描いていた通り、正義感の強いメレディス兄様と直感が鋭く、頭が切れるゼノンはすぐにノクス兄様を離宮から連れ出して、国王夫妻の元へ直接問いただしに行きました。


「このことはお前たち3人しか知らないんだな?」


 国王は予想通りのことを尋ねました。当然と言えば当然ですが、彼のことは一部の人間しか知らないので、それがその辺のメイドたちに知られては困ります。それに、わたくしだけで離宮に突撃しても、のらりくらりと明言を避けるに決まっています。ノクス兄様が第一王子として認められ、離宮以外の場所でも過ごせるようにするには、わたくし以上に強固な証人が必要でした。


 自分たち以外に兄弟がいることに驚くメレディス兄様とゼノン、顔だけは驚いているわたくしに向かって国王はノクス兄様の出自と魔法を説明しています。わたくしは部屋の隅でこちらを睨んだまま縮こまっている5つ上の兄を眺めていました。

 18歳だというのに、不健康な体で、髪もぼさぼさでキューティクルが死んでいました。彼の魔法などを考慮しても仕方のないことかもしれませんが、離宮からほとんど出ていないであろうその肌は色白を通り越して死人のような青白さでした。これは、自己卑下の酷いメンヘラ状態になってしまうのも仕方ないかもしれませんわ。

 意識を国王の会話に引き戻すと、認めはするが、現状維持のままで、というように話を締めようとしていました。ですので、わたくしは、わがままっぷりを発揮することにしました。


「駄目ですわ、だって彼、こんなに痩せてますし、あんなところにずっといたらご病気になってしまいますわ。もっとおいしいものを食べて、お外に出ないと!」

「い、いいです、あそこで十分なので……」


 一刻も早く帰りたい、というのが滲み出るノクス兄様に国王は「彼も良いと言っているし」などと援護射撃をします。わたくしはもう一演技することにしました。


「それに、彼、なんだかくさいですわ! あんな不衛生なところにいたら良くありません! ノクス兄様にもお部屋をあげて、毎日お身体を洗う環境を作って差し上げて!」


 渾身のわがままぶりっ子です。年頃の少女にくさいと言われて、ノクス兄様は少しショックを受けているようでした。くさいものはくさいので、ヒロインと会う前にとっととその身体を健康体にしてくださいませ。ああ、ダウナー属性はそのままで結構ですわ。見た目が暗くダウナーなのと、不潔なのは全くの別物ですからね。


 国王は根負けした様子で溜息をつくと、わたくしの要求をのみ、ノクス兄様を第一王子として扱うことを認めました。しかし、やはり条件はつき、限られた人間と選んだメイドたちのみにその事実を明かし、世話も彼らがするということでした。国王はそのまま控えていたメイドや執事に指示し、ノクス兄様は彼らに連れられていきました。困惑してぎりぎりまで拒否しようとしていたノクス兄様を見送りながら、その性根も叩きなおして差し上げたいわ、と思いました。けれど、そこまでわたくしがしてしまっては、ヒロインの意味が無くなってしまいますわね。


 それからしばらくは、健気で可愛らしいぶりっ子妹という様子で、ノクス兄様にちょっかいをかけに行きました。すぐ引き篭もろうとするノクス兄様を外に連れ出して、メレディス兄様やゼノンと遊ばせたり、食生活や風呂事情を定期的に探りました。離宮のお掃除をしたり、お洋服を見繕ったり。メンタルの崩れは生活環境にありますわ。出自由来のメンヘラや自己卑下はヒロインに何とかしてもらえば良いので、わたくしはメンヘラを少しでも排除する環境づくりを徹底しました。


 次第に、ノクス兄様もそれを受け入れ始め、なんなら、少し潔癖になっていました。

 とある日に、ノクス兄様に、


「もうくさく、ない?」


 と、聞かれたので、わたくしはノクス兄様をじろじろと眺めまわし、匂いを嗅ぎました。


「はい。だいぶ良くなったと思います。すっかり健康体ですわね」


 よほど堪えていたのでしょうか、合格を出しますと、ノクス兄様はほっと胸を撫でおろしていました。

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