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悪役王女のわたくしが、自給自足したヤンデレたちから逃亡するまで。  作者: 陽海
ヤンデレ育成編

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13 王位継承権

 ゼノンが15歳の成人を迎え、王宮は継承権遷移の発表に、パーティーに、と準備で大忙しでした。


 予定通り、午前のうちにゼノンが王位継承権第一位であることが発表されました。

 ネリナ様とメレディス兄様はようやく肩の荷が下りたような安堵の表情を浮かべていました。ゲームではメレディス兄様の王位継承権は一位のままでしたが、ゼノンが次期国王として持ち上げられていて、メレディス兄様はそれに苦悩していました。

 シナリオどころか、人生をまるごと変えてしまったようですが。まあ、クレアともちょくちょく会わせてますし、婚約話も避けていると聞きました。それがクレアを想ってでしたら、キュンキュンしますわね。


 とはいえ、メレディス兄様派閥を落ち着かせなくてはなりません。ゼノンが国王としてふさわしいと思わせつつ、ゼノンとメレディス兄様のどちらもが王族としての権威を見せつけ、順当な采配かつ有益さを証明せねばなりません。


「姉様的にはどう思う? 僕の魔法と兄様の魔法を見せて納得してもらうのが一番手っ取り早いと思うんだけど」


 少し前、ゼノンとメレディス兄様に相談を持ち掛けられました。ゼノンは天候を操る魔法で支持が厚い。メレディス兄様は大規模な水魔法操作が可能です。国民のシンボルとしてはゼノンの方がふさわしいですわね。けれど、メレディス兄様の派閥はメレディス兄様の純粋な強さや安定感、伝統を支持しています。国益に繋がるような何かがあれば、と考えて1つ思い当たりました。


「北側の寒冷地の港を不凍港にするのは?」


 ティタニア王国は海洋に面していますが、北側は寒く冬場は冷え切り、海が凍ってしまいます。そのため、貿易や輸出が思うように上手くいかず、国益を損なっていると勉強したことがありました。

 幸い、成人の儀はちょうど冬ど真ん中です。ゼノンの魔法で雪を溶かし、海が液体状態に戻ったところで、メレディス兄様がその海を鎮めます。ゼノンがなるほど、と思案します。


「ただ、当日だけではさすがに時間がかかりすぎますし、魔力の消費も多いはずですわ。簡単そうに言いましたが、数か月に一回はゼノンが見ないといけませんし、メレディス兄様にいたっては魔法を常時発動するような状態になってしまいますが……」


 地域をまるごと変えてしまうようなものですから、もろもろの影響やお金の管理も見直した方がいいでしょう。


「いや、それ以上の案はないだろ。少し前から魔法をかけておいて、当日にはほとんど完成寸前の状態にしておこう。そうすれば俺たちの魔法も規格違いだと印象付けられるしな」


 メレディス兄様はわたくしの頭をぽんぽんと撫でて「すごいなあ、ヴェロニカは」と褒めちぎりました。少しうざったいですが、嫌ではないので甘んじて撫でられていると、ゼノンがその手を叩き落としました。


「それでもやはり遠隔の魔法操作は魔力消費もすごいですからね、兄様にはそちらに滞在してもらった方がいいのでは?」

「うーん、そうだなあ。じゃあ、騎士部隊から海部隊を新設で作るのはどうだ? 騎士部隊には簡単な水魔法を使える奴なら結構いるし、彼らにも手伝ってもらおう。時折俺が魔法をかけなおせば、少ない魔力消費で海を維持できる。だからこっちに基本いるな。ヴェロニカもいるし」


 メレディス兄様がにっこりと笑いました。残念です、とゼノンが笑います。なんとなく目が笑っていないように見えました。


 というのが数か月前の出来事で、今日がその不凍港のお披露目日です。

 港の周りには人が大勢集まっていて、かなりの注目度であることがうかがえます。わたくしは貴賓席に座って2人を眺めます。この日も例にもれず、雪が降っていて、皆凍えながら2人の動向を見つめていました。


 ゼノンがすっと手を掲げると光が集まり、魔法が発動されました。いつもは空をただ眺めるだけで天気を変えられますのに、パフォーマンスですわね。

 そういえば、小さい頃は感情に左右されて天気が変わっていましたね。ちょっと怒っていたりすると、雷が落ち始めますの。その雷にゼノン自身も驚いていて、とくすくすと笑います。

 集まった光が空に向かって伸びていき、雲の中に隠れます。すると、数秒後、雪が止みました。オーディエンスがどよめきます。事前工作のおかげで、海はだいぶ解け始めていました。とはいえ、それなりの大きさです。疲労が見えてもよさそうですが、美しく冷静な表情のまま、魔法を維持し続けます。数十分後には、港の氷は解け切っていました。


 おお、さすがゼノン様、ガイア女神の血を引く正当な王子だ、と称賛の声が飛び交います。ゼノンは人々に笑いかけて見せると、メレディス兄様に場所を譲り、うながすような仕草をします。

 それに応えるようにメレディス兄様が少し大げさな動作で魔法を発動させ、その手のひらを海面にかざしました。解けたばかりで荒く、高波があった港が、途端にしん、と鎮まりかえりました。


 これには、海が安定した、メレディス様もさすがのお力だという声が飛び交います。2人を崇めるような視線で見る者が多い中で、ゼノンが声を張り上げます。


「これよりこの港は冬の間でも凍りません。この海を守る騎士部隊、特設部隊を創設します。その部隊の隊長を彼、メレディスが務めます」

「このメレディスが命に代えて、皆さんの海の安全をお守りします」


 2人の挨拶に、人々が沸き立ちました。拍手喝采です。

 さっそく「じゃあ冬の間も仕事できるってこと?」「食料も豊かになるぞ」「海に出てもメレディス様がいらっしゃるなら安全だ」「ゼノン様が定期的に来て下さるならこの町も栄えるな」という声が上がっています。わたくしはそれを微笑ましく見つめながら、周りにわずかだけ聞こえるように、


「ゼノン様、メレディス様なら王家も安泰だわ」


 と、言いました。それから、万歳、と分かりやすく呟くと、だれかがその言葉を拾い上げて、一気に祝福ムードが広がりました。数十秒後には「ティタニア王家万歳、ゼノン様、メレディス様万歳!」というコールで埋め尽くされていたのでした。


 貴賓席から人々を眺めていると、1人だけゼノンとメレディス兄様にではなく、わたくしに視線を向けている人がいました。視線がかち合います。

 フードを深く被っていて、首から上少ししか見えませんが、褐色肌です。あ、と呟くとその視線の主――ブラッドのワインレッドの瞳が細められました。


「またあとで」


 ブラッドの口の形はそう動いていました。同じように返事しようとしましたが、ブラッドは人々に紛れていなくなってしまいました。

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