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悪役王女のわたくしが、自給自足したヤンデレたちから逃亡するまで。  作者: 陽海
ヤンデレ育成編

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10/12

10 魔法だってご都合主義

 タオルのおかげか、その次の日の朝にはほとんど平熱に戻っていました。

 はっと思い出して、サイドテーブルに置かれたパン粥を見ます。食べようと手に取ると、侍女が新しいのを持ってくる、と言って下げられてしまいました。新しいものが出てきましたが、兄様の作ったものかは分かりませんでした。その日は一日部屋で休みました。兄様が来るかと思っていたのですが、忙しかったのか、兄様はやってきませんでした。


 その日のうちにゼノンが見舞いに来てくれたので、メレディス兄様は忙しくしているのかしら、と尋ねるとゼノンは不機嫌そうな顔をしました。


「……先ほどこちらに来る前に会いましたが、別に用事は無いんじゃないでしょうか。姉様が回復しました、とお伝えしたのですが、治って良かったと伝えておいてくれと言われました。兄様は薄情ですよね」


 翌日になってもメレディス兄様は現れず、わたくしはすっかり動けるようになってしまいました。何かもやもやとしたものを抱えていたところに、クレアが訪れてきました。 


 魔法暴走というものを患っている。


 クレアは改めて、わたくしに謝罪にきました。ベージュブラウンの肩ほどの長さの髪がわたくしの目の前で幕のように下がっています。

 部屋の隅ではわたくしの侍女たちがこちらを注視していました。クレアを貫くような目です。わたくしに忠実なのは結構ですが、あからさますぎますわね。ですが、メレディス兄様に言われてクレアをわたくしの前に通したのは彼女たちでしょう。


「顔をあげてちょうだい」


 クレアはわたくしにそう言われた後も、少しの間頭をあげませんでしたが、このままでは拉致があきません。溜息をつくと、おそるおそるクレアは顔を上げました。クレアはただ眉を下げて、ぐっと堪えた顔でわたくしの言葉を待っていました。ここで、「私の魔法暴走のせいで」などと悲劇のヒロインぶらないのはだいぶ好感が持てる、と言うべきですわね。


「わたくしは、あなたが魔法暴走を発症することを知っていましたわ」


 クレアが驚いたようにわたくしを見ました。嘘はついていません。現に、わたくしはゲームの知識で彼女が魔法暴走を引き起こし、それで悩んでいるということを知っていました。加えて、彼女がお人よしの正義感が強いヒロインだということも。


「知っていたのに、わたくしはあなたをあの場から引き離さず、一緒に残ることを選んだ。あれはわたくしの判断ミスです。あなたの魔法暴走がどのようなものか見てみたかったのもありますし、あれくらいの魔獣なら倒せるかもと力を見誤りました。だから、クレアがわたくしに後ろめたく思う必要はありません」


「それは、」と言いかけるクレアを制します。わざとらしく大きな声で自分の過ちを声に出したおかげで、部屋に控えていた者たちが静かにどよめきました。


「私の魔法暴走を知っていた、んですか」

「ええ。いつからそれが起きているのかも、解決方法がまだ無いことも知っています」


 クレアの魔法暴走は10歳の頃に始めておきました。

 国境付近の町、小さな神殿で過ごしていたクレアでしたが、いじめられていました。そのいじめっ子たちに抵抗しようとしたところ、自身の魔法を暴走させてしまいます。怪我を負わせ、その子供の親たちから責められ、クレアはそれがトラウマになってしまう。小さな町では彼女の魔法暴走は手に負えず、城下の大きな神殿に世話になっている。それがシナリオでクレアの口から語られる過去でした。


 なので、クレアにとって、自身の魔法暴走でまた、人を傷つけたというのは想像以上の苦痛だったはずです。


「でも、そのせいで目が見えなくなって、熱も出たと聞いて……!」

「誤解される言い方はやめてくださいな。目が見えなくなったのはほんの数時間。今もはっきり見えてますし、視力にも目にも問題は無いですわ。目をつぶっていればよかっただけのこと。それに、熱はぬかるみに身体が浸かって冷えたからで、あなたには関係ありませんわ。すべての事象が自分と関係があると考えるなんて、自意識過剰でしてよ」


 クレアは納得いかない様子でわたくしを見ています。確かに熱は辛かったけれど、クレアのせいではありません。熱を出したという出来事の以前に魔法暴走の光を浴びて目が見えなくなるという出来事があると、それが原因だと結びつけたくなる気持ちは分かりますけれどね。


「原因が分からないのは辛いでしょうが、結局は使いようですわよ。だって、あれは魔獣を一瞬で消し炭にしていましたわ。しかも、目くらましの効果があるなんて。上手く使えるようになれば、大聖女も夢ではないと思うけれど?」

「え……」

「だから、いつまでもくよくよめそめそするのはおやめなさい。時間がもったいないでしょう」


 クレアの目にはうっすらと涙が溜まっていました。こぼすまいと必死に宙を見上げています。ヒロインというのも大変ですわよね、悪役王女ではなくてお相手の誰かだったら、素直に泣けていたのかしら。


「ヴェロニカ様。私、頑張ります。これからも、よろしくお願いします!」


 深々と頭を下げて、勢いよく上げるとクレアは晴れやかな顔でわたくしの部屋から出ていきました。

 ヒロインらしい猪突猛進さで良いですわ。ゲームでは、魔法暴走は恋愛や相手を思う気持ち、相手から思われることという抽象的な解決方法だったけれど、クレアが魔法暴走を解決できると良いのですけれど。


 この話を部屋で聞いていた者たちが、わたくしは未来が見える、予知ができる、人の過去を知ることができる、というあらぬ噂が立ちました。真偽を尋ねられたわたくしは、そうしておいた方が後々便利かもしれないと思い、「そういう魔法が使える」とでっち上げましたわ。星読みの魔法、わたくしのもう一つの魔法ですわ。

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