なんで生きているんだろう
あなたはなぜ生きているのですか?
よくある質問だと思います。
しかし、こんなシンプルな問いでも答えられる人は少ないと思います。
かくいう僕もなんとなくで生きています。
でもその質問に完璧に答えられたとしたら。
その人生は今までと比べ物にならないほど色づくはずです。
あの日の僕みたいに。
◇ ◇ ◇
「以上で講義を終了します。今回のレポートを前に提出できた人から退出可とします」
講義室の前で教授が話す。
正直、レポートは何にもかけていない。
去年と全く同じ内容の講義で全く面白くない。
というか、こんなことしても何もならない気がする。
仕方なくそれっぽいことを書いて前に提出しよう。
「あ、乙月くん。少しいいかな?」
「え?はい。なんですか?」
レポートを提出しようとした時、教授から呼び止められた。
「あなた、そろそろ自分が置かれた立場をわかった方がいいよ。なんですか、先週のレポートは。本当にちゃんと講義を聞いて書いたとは思えないですが…」
「あ…えっと…すみません…」
「謝罪を求めてるわけではありません。私はあなたのことを心配しているんですよ?あなた、一度留年してるんですよ?本当なら今頃、就活の準備をしていかなければいけない時期です。それなのに、1、2年生と同じ講義をいまだに受けているって…恥ずかしくはないんですか?」
「…」
「今回のレポートはちゃんと書いたんですか?どれどれ…はぁ…もういい加減にしてください。来週の講義までにちゃんと真面目にレポートを書いて提出してください。もしできないのなら本講義の成績は与えません。いいですね?」
「はい…」
長々と説教じみた話を聞いてようやく解放された。
僕の心配だなんて…余計なお世話だ。
僕が頑張ったところで世界は何も変わらない。
誰かの助けになることもない。
なら何したって関係ないのに…
「はぁ…さっさと帰ろう…」
僕は自分の車に乗り込み、帰路についた。
乙月 凱(21歳)
普段は私立八雲大学に通っている。
ただ今は留年して未だ2年生のままだ。
私立八雲大学は大学のレベルとしてはそこまで高くはない。
だが学園の高等科のレベルが高いせいで在籍している生徒のレベルはそこそこ高い。
そんな大学だが、僕がここを選んだ理由は特にない。
友達が行くから僕もついでにみたいな感じで受験し合格した感じだ。
しかしとりあえずで入った僕と高等科からの生徒では、レベルは雲泥の差だった。
友達は高いレベルに順応し成績を伸ばしていったが、その一方で僕は逆に成績を落としていた。
授業は完全に成績優秀者に合わせて進み、テストも難問ばかり、課題の内容まで難解だった。
1年生の頃はなんとか成績ギリギリで進級できたものの、2年生の履修登録で特にやりたいこともなかった僕は科目を適当に選んだ結果、本気で学びを深めたい人に次々に置いてかれついに挫折、最終的に成績が足りず留年となった。
「はぁ…僕って一体なんのために生きているんだろう…」
帰宅途中、ふとそんなことを呟く。
いつしかそれが口癖になっていた。
◇ ◇ ◇
「君、何回言ったらわかるんだ…これは向こうの棚の上にって何度も言ったじゃないか…」
「はい…すみません…」
「次からは気をつけるんだよ」
「はい…」
職場の歳上のおじさんにまた怒られた。
僕は今、バイトをしている。
一人暮らしで家賃も自分で払わなきゃいけないためバイトをしなきゃいけないのだ。
一応親からの仕送りもあるが、親に負担をかけないよう働いている。
「乙月くん?手空いてる?」
「はい!今行きます!」
今働いているバイトは倉庫内の荷物の仕分けや移動を行う仕事だ。
「乙月くん、これもいいかな?」
「はい!ただいま!」
しかし仕事内容はとにかくハードで体力の無い僕にとっては地獄だった。
「はぁ…はぁ…」
「おい!サボってないで手を動かさんかい!!」
かなり歳が上のおじさんにキツく注意される。
「はい!すみません!」
「この荷物は今日中に届けきらなきゃいけないんだ!休んでる時間はない!」
目の前には山のように積み上がった段ボールが棚の上に置いてある。
「はぁ…はい…」
仕事を始めてまだ2週間ほどだが、ずっとこの調子だ。
僕1人では到底運びきれないような仕事を押し付けられる。
他の人は別の場所で作業しているので、ほとんど他人との関わりがない。
「はい、22時になりました。22時退勤の方は作業を終えてください」
作業終了の放送が流れた。
ようやく帰れる…
とりあえずキリのいいところで作業を終わって…
「おい!まだ終わってないやろ!!」
さっきのおじさんに呼び止められた。
「え…でももう22時なので終了の時刻なんで…」
「チッ…んだよ…わかった、早よいけ」
おじさんは気に食わなそうな顔でこっちを睨んだ。
なんだよ…退勤時刻になったから終わろうとしたのに…
溢れる怒りを抑えつつ、事務所へ戻り退勤の手続きを終わらせた。
その時に事務の方から長期雇用の誘いも受けたが、正直乗り気になれなかった。
さっきの出来事のせいで完全に仕事に対する熱量が冷めてしまった。
僕は次の日、バイトを辞めた。
◇ ◇ ◇
「凱…またバイト辞めたのか…」
「うん…」
僕は父さんと電話をしている。
「凱、今自分が置かれてる状況を理解してるか?」
「うん…わかってるよ…」
「わかってるよって…これで何回この話をしたかわかるか?」
父さんの口調が強くなる。
「とりあえずでその辺の大学に行って、レベル高かったから留年しました。バイトも自分に合わないので辞めました。そんなのでこの先、生きていけるとでも思ってるのか?」
「そんなふうには…」
「じゃあ今何やりたいか言ってみろ」
「それは…」
考えても出なかった。
「何もないんじゃないか。お前そろそろいい加減にしろよ。俺も母さんも暇じゃない、あんたのために時間をかけていられないんだよ。大学行くのもタダじゃないんだ。わかってるのか?」
「はい…」
「いい加減そろそろ自分が何をしたいのか、きちんと考えろ。いいな?」
「はい…」
父さんはそう言うと電話を切った。
何をやりたいのかとか言われても…
正直、僕には夢がない。
なりたい職業もやってみたい仕事も興味のある活動だって何にもない。
ただダラダラと今を生きるだけの人生だ。
「次のバイト先、探さなきゃ…」
◇ ◇ ◇
「乙月くん、そろそろいい加減にしてください」
開口一番で僕は教授から怒られた。
「もう何回言えば真面目に授業を受けてくれるんですか?あなたは成績が欲しくないんですか?」
「…」
「黙ってないでなんか言ったらどうなんですか!!」
教授は今まで見たことないくらい怒った。
「あなたはいい加減に自分の立たされてる状況を理解しなさいとどれだけ言ったと思ってるんですか!!」
「…」
「私もあなただけに時間を割いてる暇はないんです!!わかってるんですか!!」
「…」
その後、教授の説教はしばらく続いた。
30分くらい?覚えてない。
どんだけ話を聞いても心に響いてこなかった。
(僕が頑張ったって何も変わらないのに…)
その後、僕は授業があるにも関わらずこっそり、家に帰った。
◇ ◇ ◇
家に帰って携帯を見てみたら、大学から大量の不在着信が来ていた。
その中に紛れて親からも電話が来てきた。
その画面を見た瞬間、僕の心の中の糸がプツンと切れた気がした。
「もうどうでもいいや」
僕はスマホの電源を落とし、その辺へポイっと置いた。
そしてついに僕は誰とも関わりたくなくなった。




