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3話,山奥エルフ、ハマる

 ナモが目を覚ました時には既に赤髪の少年の姿は無かった。時折パチパチと音がする焚き火の後だけがそこには残っていた。


「親は何をしてるんだろうな。いくらこの辺は魔物が少ないからと言ってもあんな若者が一人旅なんて」


 この辺りはそれほど凶暴な魔物がいる訳では無い。小型のスライムに群れを成さない狼などはいるものの、滅多に人を襲うコトは無く大抵は相手から逃げる。

 どちらかと賊の方が危険であるが、この山の中腹にある森に賊が陣取っている様子は無かった。


「それほどにまで面白いものなのか、このタブレットの動画とやらは」


 外を確認した後、再び部屋に戻ったナモは机に置かれた魔法具『タブレット』を手に取る。


「確かふぁんちゅーぶと店員は言っていたが、最初からあぷり? とやらに入ってるから誰でもすぐに見れると話していたな」


 慣れない操作のためか、ぎこちない指捌きで画面を開きゆっくりと画面をスライドする。


「あった。ふぁんちゅーぶ」


 そしてふぁんちゅーぶと書かれたアプリをタップした。






「なんというか、しまらないなぁ」


 場面は戻りナモがふぁんちゅーぶを開いた中で初めて試聴した動画が、勇者と魔王の生配信であった。タブレットに映し出された動画には勇者と魔王が互いに剣と魔法を駆使して闘っている。

 本来なら死力を尽くし、生き死にの存亡ををかけた死闘いだなのだが。


「あー魔王様。50ランドコイン入りましたぞ」

「おぉ! 感謝感謝。勇者よ我が魔法を喰らえ」


 側近の声に火の魔法で応戦しながら大声を出す魔王。


「勇者様! 100ランドコインのランチャきましたよ」

「うおっマジか。とんだ粋やろうじゃないか、ありがとうよ」


 こちらも大声を出して剣で火の魔法を切り裂く。締まらないとは言うが確かに見事な剣捌きは流石に勇者を名乗るコトだけはあった。


「やるなぁ勇者よ」

「そちらもな! そんなでかい炎今まで使うやつはいなかったぞ」


「画面から途切れてちゃってるし……」


 戦闘中のため画面映りを意識するというのは当然難しく遠くに二人が映ったり、完全に姿が映らなかったりのアクシデントは当然つきものだろう。


【うおっすげぇ】

【戦いが早すぎて見えねぇ】

【感じるのだ、みるではなく】


「何が見えてるのよ……」


 誰に聴こえもしないツッコミをナモは口にする。

 画面右に流れる文字はコメントである。生配信に限り視聴者はリアルタイムでコメントを打てる。

 ふぁんちゅーぶが人を魅了する機能の一つだ。


【どっちが勝つだろうな】

【俺は魔王様を推すな】

【魔王様のチャンネルなんだから魔王様を推すに決まってるだろ、お前敵なんか?】

【(50LC)四天王ジファー:魔王様ー俺だー結婚してくれぇ】

【いや草】

【ジファーさんなにやってんすか】

【身内からのランチャは草】

【ジファーさん勇者に負けてから何やってたんだよ】

【四天王ジファー:村娘に飯食わせてもらってた】

【ヒモかな羨ましい】


「ジファーのやつ、生きてたなら連絡せんかい!」

「まぁまぁ良いでは無いか、他の四天王も多分どっかでよろしくやってるだろうし」


 側近の呆れた声に魔王はブレずに凛と発する。


「ちゃんと結婚式には私も呼ぶんだぞ」


【四天王ジファー:いやいや、気が早いですって】


「ジファー生きてたんですね。てっきりゼニステー橋で落ちた時倒したかと思ってたのに」

「魔族は丈夫なんだ。そう簡単には死なんよ」

「確かにあんたも強いがジファーも強かった」


 剣を交えて鋼の擦れる音を立て二人は語る。まだ体力が有り余ってると言わんばかりに息も荒げず、魔王は下からの斬撃を入れようとするがそれを勇者は防ぎ逸らす。また勇者も逸らしたまま剣を構え上から斬撃を加えようとする。


「やりおる」

「そっちこそ」


 魔王も即座に対応している。


「そう言えばこの二人はなんで闘っているんだ?」


 タブレット越しにハーブティーを飲みながらナモはふと思った。決して険悪そうには見えないし魔王と勇者こそガチガチに闘っているが、それ以外の人物が何かをしている様子はない。

 いや、一応何もしていない訳では無いが強いて言えばコメントを変わりに読み上げている。


「試しに聞いてみるか」


【うおー俺も戦いてー】

【ナモ:初見です。なんで二人は闘っているのですか。あまり仲が悪そうには見えませんが】

【俺、この戦いが終わったら半年分の未納を収めるんだ】

【おっ、初見さんおっすおっす】

【初見が最終決戦なのは草 てかはよ納税しろ動画見てないで】


「おっ初見さんいらっしゃい。ではお嬢様、いや魔王様に変わって執事であるロンメルが話しましょう。ズバリエンタメというやつですかな。相手側の王様には事前に魔王様の軍が戦闘をする事を伝えておりまして、そこに王様が勇者を向かわせたわけです」


【えっ、そうなの?】

【うっそ知らんかった】

【じゃあ、魔王様も勇者も戦う理由なくない?】

【確かに勇者サイドも魔族を◯した話は聞かなかったな】

【四天王ジファー:これマジ?】

【はぇーじゃあ魔王ちゃんが相手になぐさされる展開は無いんですか】

【ロンメルさん最終回だからってぶっちゃけすぎでは?】

【服を着ました】

【いやジファーさんも知らんのかよ】

【でも楽しかっただろ?】


「そうだったのか……魔王」

「いや知らん、何それ」


 魔王と勇者の手が止まる。


「てかお前女なのか、確かに髪綺麗だと思ったけど」

「そうじゃろそうじゃろ。毎晩手入れは欠かさんぞ」

「後で私にも教えてくださいよー魔王の人」

「おいおい、アニータ。まだ一応戦闘中だぞあとにしてくれ」


【バリバリ王:ロンメルさん、ちょっとネタバレ早すぎませんか」

【王様キター!】

【よかった。不幸になった方は居なかったんですね】

【じゃあもしかして他の四天王も】

【四天王アナ:はい】

【四天王ドラゴ:はい】

【はいじゃないが】

【はいじゃないが】



「ありゃ、うっかり。以前話していたかと思ってましたが。歳はとりたくないですな」




「なにやら色々とごちゃごちゃしてきたな」


 まさかの出来レースである。いや国を挙げての企画といった方がいいのだろうか。どうやらお互いに被害はほとんど無かったようである。

 まさかの事実にコメントも撮影サイドも大いに盛り上がっている。


【まぁ犠牲者がいないなら良かった】

【冷静に考えたら犠牲者なんかいたら放送なんてできないもんなぁ】

【初見さんのおかげでまさかこんな情報を知れるとは、サンキュー初見の人】

【魔王も勇者もこのことは知らなかったみたいだし、リアリティあって良かった】

【バリバリ王:いやー良かった】

【王様ー俺だー免税してくれー】

【お前ははよ納税しにいけ】


「でも、なんか楽しそうだな」


 そこでナモは一度タブレットを閉じた。


 そして一度外に出ると近くに自生する木の実を機のザルにのせる。そして近くを流れる川で木の実を洗う。山の水だけあって非常に透き通っており魚の泳ぐ姿もはっきりと水面にうつる。

 そして洗い終えると再び家に戻る。


「さて、せっかくだから他の動画も見ようかな」


 そして木の実を齧りながら、次の動画をタップした。


「吸血鬼の俺が一番うまかった血液3選。第三位オークの娘。オークは一見ゴツくてアレな印象を受けるだろう。だがオークの娘の血は大変オーガニックで飲みやすくサラサラしている。何より意外と可愛い。やはり普段から植物を食べているからだろう。しかし最近は雑食化が進みちょいと血液が濃くなっているので注意」


「いや誰に向けて発信してるのよこれ」


 トップにある動画を片っ端から視聴するナモ。山奥で静かに暮らしていたナモにとってその板には刺激があった。自分の知らない情報が次から次へと無尽蔵に展開されてそれを無我夢中で貪るようにみていく。

 そして気がつけば辺りは薄暗くなっている事にナモは気がつく。


「しまった、もう日が暮れかけてる」


 その日一人のエルフが動画サイトにハマったのである。


おはなしのメモ

 魔王軍は基本ある程度ダメージを受けたら撤退していた。勇者の移動する場所に合わせて戦いを展開していた。基本的に四天王が指揮しておりゼファー以外は事情を知っていた。ゼファーは話を聞いていなかったが正々堂々戦っており特に人への被害も無かった。

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