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2話,山奥エルフ、配信者に遭遇する

 フンボルトの店員からタブレットについてのあれこれを聞いて帰宅したエルフはそのままベッドに横になる。


「あー疲れた。まさか村があんな事になってるなんて」


 約五十年という歳月は彼女にとってはあっという間だったかもしれない。しかし、アモレという一つの村が発展するには十分な時間であった。

 彼女はあまりに長く山奥に篭ってしまっていたのだ。


「あーそう言えばタブレット……だったけ。今はこれからいろんな情報が発信されてるんだって言ってたな」


 金の対価にタブレットの使い方を学んだ。眠気もありややウトウトもしたがここで寝ては操作を忘れる可能性もある。

 そう危惧した彼女は急ぎ魔力をタブレットに注ぐ。


「ついた、えーなになに初期設定? 名前を入力してくださいか」


 少し面倒臭さを感じながらもゆっくりとした指捌きで名前を入力する。

 『ナモ』と入力したその名前こそ彼女の本名。エルフのナモである。


「性別は……女性。年齢は……不詳、あと種族は」


 そこでふと指が止まる。


「別にこれはいいか。よく見たら任意って書いてあるし」


 ナモはそのまま次へをタップした。






「よーし設定完了! さー寝よ」


 そのまま意識を手放そうとした時である。ふと顔を横に向けると板の外れた壁が目に映る。


「あー……忘れてたわ」


 その時ナモは本来の目的である壁の修理を思い出した。このまま寝たらいくら長寿のエルフといえど風邪をひくかもしれない。

 そう思ったナモであったがふと動きを止めた。ナモの視線の先は外れた板のその先にあった。


「えーと今回。自分はここでキャンプをすることにします」


 人がいたのだ。しかも焚き火をしている。

 疲れのせいかナモは人の気配に気づかなかったのだ。

 ナモは息を殺しつつも板の間から外を覗き込んだ。そこには一人の男が居た。


「ここが何処かだって? それは教えられないかなぁ、ただ偶然広い場所に出てね。ここならキャンプするのに丁度良いと思ったわけだ」


 奇妙な事に男は独り言にしてはやや大きめな声を話している。

 そしてその手元には青色の板があった。


「あれってタブレットか」


 ナモが小声で言う。色違いではあるがその男の手にはタブレットが握られていた。しかも男は時々そのタブレットに向かって手を振る行動を取っている。 

 ふと昼間の店員が言っていた事を思い出した。

 タブレットはカメラという機能がある。それはタブレット内に撮影したものを一枚絵から動くものまで保存できるのだ。

 更に後々店員から聞いた事を思い出す。


「そう言えば最近ではこの映写機能を使ってそのままふぁんちゅーぶって所に動画を出す人が増えてるんだ。所謂配信者ってやつでな」

「配信者?」

「そう。彼らはいろんなジャンル問わず様々な配信をしているんだ。料理からダンジョン配信、ただ旅の様子を配信する人だっている。もちろん配信以外にも撮った動画を一度編集して上げる人だっている」

「変わった事をする人々ですね。なぜそのような事を」

「うーんそうだな。それも人によって様々だ。動画自体がお金に変わるからそれを狙う人もいるし、ただ趣味でやってる人もいる。中にはこれだけを生業にしてる人だっているんだ」

「これがお金になるんですか……」


 ますます訳がわからなくなったが浦島のナモにはとりあえずそう言うものだと頭にインプットした。これが金になる仕組みは正直今はあまり関心がなかった。




 さてそんな配信者であるが今ナモの家の外でキャンプをしている男。おそらく彼はその配信者である可能性が高いとみた。


「みてくれコレ。今日町のちょっとイカした雑貨店で買ってさ。実はランプって持ってなかったんだよな。これもみんなとふぁんちゅーぶのお陰さ。収益化様々だよ本当。あーそう言えばそのランプを買った時に店員さんと喋ってた人がいたんだけどさ」


 ナモはぴくりと身体が動いた。


「顔はローブで隠れてて見えなかったんだけど可愛い声がしたから多分女性かな。なんでも町のことも町のことも知らなかったらしいよ。しかも配信とかも全く知らなかったみたい。今時珍しいよね」

「あの男……あの店にいたのか」


 幸いこの建物自体にナモの魔法によって、ナモ自身の許可が無い限りは認識するどころか触れることすら出来なくなっている。

 なので男の視点では何も無い場所でキャンプをしている状態なのである。


「えーその人の匂い? あーなんか花の香りがしたかな。いい匂いがしたよ」

「こいつ……いらん事をペラペラと」


 配信者の男は本人に聞かれてるともしらず喋っている。ナモは少々顔を紅くするも下手に動いて相手に察知されても不味いので直ぐに表情を戻した。


「そうそう。今日の晩飯はなんと川で捕まえたコウテイマスをそのまま焼いちゃいました」


 串焼きにした魚を男はタブレット越しに見せている。焼き魚の香りは風向きの加減かナモの家にも少しずつではあるが入ってくる。


「うっ…美味しそう」


 結局あの後家に蜻蛉返りで戻ったナモは食事を一切摂っていない。普段ならそれでも良かったが久々の外歩きで疲れたからか、いつも以上に腹が減る感覚があった。

 ストックのドライフルーツもあったが魚の香ばしさにフルーツ負けておりナモの口は焼き魚を食べたいで満たされていた。


「くっそーあいつ……ちょっと魚置いて行ってくれないかな。あんだけでかいんだし……」


 コウテイマスは川魚の中でもかなり大ぶりで有名だった。今男が焼いているソレも軽く1mはありそうだった。仮に相手が成人男性だったとしても一度でその魚を平らげるとは考えにくい。ならば男が配信を終えて食事後休んだタイミングを見計らいコッソリとお溢れを頂こう。

 そうナモは考えた。






「それでさー三体のスライムが重なって襲ってきた時にさ」

「いやいつまで喋ってるのこの人」


 それから一時間ほど男は配信を続けた。結局日が変わる直前まで男の配信は終わることは無かった。






「それじゃあ今日の配信はここまで、あっ50ランドコインありがとうございます。ではではみなさんまたお会いしましょう」


 こうして男は配信を切る。そして半分以上身が残った焼き魚を見て苦笑いする。


「勢いで食べてしまったが流石に食い切れないな……葉っぱに包んで明日にでもまた食べるか」


 そう言って男は持参の布団に身体を包ませる。魔物が襲ってこないように火は焚いたままにしてある。

 そして男が寝静まり返った時、ナモはひっそりと行動した。


「悪く思わないでね……ちょっとかじるだけですから」


 寝ている男の隣まで移動すると懐にある焼き魚を取り出して一部をナイフで切る。もしこの場で男が目を覚ましたら寝首をかかれたと思われても文句は言えないだろう。

 そもそも魔法で姿を消しているため余程カンがよくかつ解除魔法を使われない限り相手がナモを認識する事はないだろう。


「そう言えばどんな顔をしてるんだろう」


 ずっと遠目で見ていたため相手の顔をちゃんと見る機会が無かった。せっかくなのでどんな顔か男を覗き見る。

 薄い赤色の髪をした男は以外にも小柄でナモの身長とあまり変わら無かった。ナモの身長は150センチほどであった。


「まさかだけど…君はまだ子供なのか」


 なぜ子供が夜な夜な一人でキャンプなんてしているのか、ナモには知る術は無い。だがすぅすぅと寝息を立てるその男は確かに少年にも見えた。


「まぁ私達みたいに見た目じゃわかりにくい人も沢山いるし、決めつけはよくないね、うん」


 ちゃんと寝ている事を確認してナモは家に戻った。


「あぁーおいしい」

 

 そして勝手に頂いたおこぼれを口に頬張った。

おはなしのメモ

場所にもよるが1ランドコインで野菜や果物が1つ買える

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