1話,山奥エルフ、釘付けになる
初投稿になります。
よろしくお願いします。
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森キャンプ日和♯13
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「はーこりゃすごい情報量だ」
森の中に佇む一軒の家。その家に一人の女性が住んでいた。
肩まで伸びたブロンズ色の髪、淡白で透き通った肌、吊り上がった耳の特徴からファンタジー御用達の人なら間違いなくその姿はエルフであると気づく筈だ。
そんな彼女であるが今、一枚の板に目が釘付けであった。それは今ランド王国、いやその周辺の国々にも普及に至った魔道具『タブレット』と呼ばれるものであった。
そして今、彼女がみているのは動画サイトふぁんちゅーぶである。
「こんなに動画があるなら何を見ればいいのやら……とりあえずこの緊急配信、ってやつを押してみるか」
タブレットに映る一番上の項目をタッチする。
『えーまさか我がここまで追い込まれるとは思いもしませんでした。あー、そのなんていうか勇者は私が想像していた数倍強い奴で正々堂々した奴でして……舐めてかかったわけじゃないのですが……あっユーシャ@さん100ランドコインありがとうございます』
『魔王様。勇者が大広間まで迫っておりますぞ武器を構えてください』
『あっ、もうきたのか。しょうがないにゃあ今から勇者と戦います。配信はこのままにしておくので皆さん最後まで応援よろしくお願いします』
『魔王! そこにいるのか』
『きたな勇者よ! フハハ我は逃げも隠れもせんぞ全身全霊でかかってくるがいい!』
『みんないくぞー! これが最後の戦いだぁ!』
「今時の魔王はこんな感じなのかぁ」
動画に映る魔王と勇者の姿を見て視聴者の一人となった彼女はそう呟く。
「なんていうか、しまらないな」
わけあってこのエルフは五十年以上森で一人暮らしをしていた。
食事は専ら山菜や木の実といった自然の恵みのみであったが彼女にとって特に不自由感じる事は無かった。
しかしある時家の老朽化で壁の一部が破損する出来事があった。自分以外直せる人間はいないため直そうとしたが材料である釘が底を尽きてしまった。
ならばと致し方無く黒いローブに身を包み森を出た。そこまでは良かったのだが森を抜けたその先で景色は一変する。
「なんだこれは。前までここには小さな村があった筈なんだけど……」
久々に降りた里は既に里では無かった。二階建て以上の建物がズラッと立ち並んでおり道綺麗に舗装された灰色と白の石道。その中央に人が二十人は並列で歩けそうな大通りがある。
かつて凸凹の道で歩くだけでも靴が砂まみれか雨が降れば泥まみれになるような道はもうそこには無かった。
更に驚くべきはその大通りの先には村には不似合いだったであろう石畳の巨塔がある。それは鐘を鳴らす為のものでも時計が嵌め込まれたものでも無かった。
液晶が嵌め込まれており映像が映し出されていたのである。
「まさか二十軒ほどしか無かったあの村がこれほど……いやもしかしたら来る街を間違えたか」
一度来た道を戻り再度町の入り口の看板を確認する。確かに看板にはアモレと書いてあった。ただし当時と比べて一部箇所が違っていた。
「アモレ市、あの時はアモレ村だったが間違いない。ここはアモレだ」
二十軒ほどの村なら雑貨屋なんて直ぐに見つけることができた。だが今や発展したその元村で目当ての雑貨屋を探すのは非常に困難であるをエルフは思い知る。
本人としては十年ぐらい森で暮らしていた感覚であったが森にて篭ったその日から、世の中の流れとは大きな歪みが生まれてしまったのだ。それは浮世から離れて暮らす事の代償であった。
「どうしよう……人もすごい数だぞ誰に話しかければいいんだ」
町の拡大で人の行き来も盛んであった。甲冑を着た兵士や商売をしている人、ガラス越しに服を見ている女性達やそれを陰から見ている男に声をかける兵士。そんな姿はお構い無しに人が行き交う。
種族も人間以外にゴブリンやドワーフにワーウルフに妖精とファンタジーのごった煮と化したその群れにエルフは酔いそうになる。
「あのーすいません、そこの人」
とにかく慌てているだけでは解決しないと踏んだ黒いローブのエルフは甲冑を着た兵士に声をかけた。兵隊ならこの町についても詳しいと睨んだ。
「むっ、いかがなされた」
「この村……いや町には釘を売っている雑貨屋みたいなのは無いだろうか。ちょっと修理するのに必要なんだ」
「雑貨屋ですか。そうですね……ここから二軒隣にある。あの赤煉瓦の建物がありますでしょう。『フンボルト商店』て書いてあるんですがそこには色々売っていますよ」
「フンボルト商店ですか! ありがとうございます」
一礼すると駆け足でその建物に向かう。フンボルトという名前には聞き覚えがあった。以前小さな雑貨屋を営んでいた男の名前がフンボルトであったからだ。
だがその小さな雑貨屋は3階建ての赤煉瓦の店へと変貌していた。
このファンタジー世界に浦島太郎は存在しないがそのエルフはまさに浦島状態であった。
「すいませんー」
「はいはい。どうしましたか」
店に入るなりちょび髭の生えた短髪の店員に声をかける。
「ここに釘は売っているだろうか。5.6本は欲しい」
「おや、釘ですか。少しお待ちください」
店員の男がカウンターを出ると釘を取りに行く。男が釘を取りに行った最中、エルフはカウンターに置かれたある物に目が行く。
それは魔法具『タブレット』であった。
エルフにとってその謎の板は奇妙であり興味の対象であった。まじまじとその銀色に輝く板を見つめると周囲のランプに反射されて光る。
「なんだこれ。みた事ないぞ。どうやって使うんだろう」
「釘取ってきましたよ。おやお客さんそれ気になりますかい」
「う、うん。初めてみたんだけどこれなんですか」
「え、お客さん知らないのかい?」
店員は目を点にした。しかし直ぐに表情を戻すと優しくタブレットを手に取りみせる。
「こいつはタブレットって言って魔法具の一種なんだ。この板は魔力を流す事でほらっ」
無機質な木の板がパァァと光る。エルフは少し眩しそうにするが直ぐに目が慣れる。
「うわ光った」
「ただ光るだけじゃないんですよコレ。なんとこれ一台あれば調べ物から映写に会計まで出来ちゃうんですよ。すごいでしょう」
「調べ物? どうやって調べるの?」
「マギネットていうのを経由するんでさぁ。今や全世界がこのマギネットで繋がっておりまして最初に検索を入れればこの通りほら」
店員が『オーク ふぁんちゅーぶ』と調べるとオークの大男が巨大な肉を齧り付く画像やそれについての情報が一気に出てくる。
「なにやら美味しそうに食べるオークだね」
「ええ、大食いふぁんちゅーばーオークのロレンスさ。彼の食べ方は綺麗でね。つい見てしまうんだ」
「へぇー」
オークのロレンスについてはともかく彼女はその板に釘付けだった。
「これも売ってたりする?」
「売ってるけど500ランドコインしますぜ。どうします?」
「500ランドコイン……」
ランドコインという通貨にエルフは眉をしかめる。五十年前にはランドコインという通貨は無く金貨銀貨での取引が為されていた。故に彼女の布袋には1枚の金貨と3枚の銀貨しかなかった。
「なぁ、この金貨とそのタブレット交換してくれないか?」
「お客さん……」
店員はじっと客を見る。
「お客さん……あんた何もんだい。こりゃすごい価値だタブレット1枚じゃあとても足りませんぜ」
「構いません。私はあまりお金の価値に関心はありませんので」
「いや、しかしこれでは……ならせめて使い方を洗いざらい教えましょう。お客さんこの町にも疎そうだし何でも聞いてくださいよ」
「そうですか、ではお言葉に甘えて」
こうしてタブレットと多岐にわたる情報と今やついでと化した釘と引き換えにエルフは店主に金貨を支払った。
「それじゃあ今日は助かりました。また困ったことがありましたらここを頼りにさせてもらいますね」
「ははは、それは願ってもない事です。またお待ちしておりますよ」
店員は深くお辞儀をして見送る。そしてその客が群衆に隠れて消えるとふと口を開く。
「結局どんな顔してるか分からなかったな。なんか訳ありっぽいけど……まぁいいか。悪い人じゃなさそうだし」
おはなしのメモ
魔法具タブレットはスマホタイプとタブレットタイプがあり基本はスマホタイプが主流である。今回エルフさんが買ったのはタブレットタイプになる。




