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沈んだ太鼓。音のない夏。  作者: エルギ ハングラ
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第五話 終わらされた夏、そして終わらぬ夏

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「よく考えてみると…君の言うことにも一理あるな」と、ハクボは周囲を見回しながら言った。


「最初からそう言ってたろ」とコウタがすぐに返す。声は低く、「この村…静かすぎる。ただの心地よい静けさじゃない。」


「本当に怖いな…今も誰かに見られてる気がする」とハクボは苦笑いしようとしたが、うまく笑えなかった。


コウタは唾を飲み込むだけだった。「それがただの気のせいだといいんだけど…」


けれど体は、確かにぞわりと震えた。



---


もう少し進むと、村の幹線道路を繋ぐ大きな橋にたどり着いた。橋の下には、どこまでも広がる水面——穏やかな海が、灰色がかった夏の空と一体になっていた。


「うわぁ…海だ」とハクボが感嘆の声を上げる。


「本当だ…」


海風がかすかに塩の香りを運び、柔らかな風が髪を撫でた。


しかし、彼らが橋の端に座り景色を楽しんでいると——


「おいっ!お前ら、ここで何してるんだ!」


突然の大声が空気を切り裂いた。村の警備員らしき男が古びた自転車をこぎながら近づいてくる。顔は険しいが、その目は警戒心に満ちている。


「うわっ…警備の人か?」とハクボが少し安堵の声を漏らす。


「警備の人だと?ふざけんな!お前ら、あそこの警告見えなかったのか!?」


彼は苔で半ば覆われた古い木の看板を指さした。


> ⚠ この場所で遊んだり、水辺に近づいたりしないこと。危険!




「お、おお…」とコウタがつぶやく。


「こういうことが起きると、本当に迷惑なんだよ!」警備員は鼻を鳴らす。「これ以上、よそ者が行方不明にでもなったら…俺たちは終わりだ。あ、悪かったな…」


彼は二人を見つめる。


「…お前ら、村の人間じゃないな?」


「ええ、親戚の家に休暇で来てるんです」とコウタが丁寧に答える。


「なるほどな…まぁいい。だが気をつけろよ!水の近くには絶対近づくな!」


彼は再び自転車に乗ろうとする。


だが——


「ま、待ってください!」コウタが一歩踏み出す。


「ん?」


「聞きたいことがあるんです。この村のこと…それに、ちょっと変なことについても。」


「ぼ、僕もです」とハクボが声を震わせながら付け加える。


警備員はしばらく彼らを見つめ、そして真剣な表情になった。


「じゃあ、詰所まで来い。こういう話をする場所じゃない。」



---


彼らは古びた地図や古文書の詰まった小さな部屋に通された。壁には昔の村の写真が飾られている。


「で…この村では一体何が起きたんですか?」とコウタが尋ねる。


警備員は彼らをじっと見つめた。


「本当に知りたいなら話すが…後悔しても知らんぞ。」


彼は茶を注ぎ、話し始めた。


「すべては…2年前に始まった。最後の夏祭りのときだ。」


「夏祭り?」とハクボが繰り返す。


「そうだ。海辺での音楽と灯籠の祭りだ。いつもは賑やかで楽しいんだが…その年は——忘れられない出来事が起きた。」


警備員は深く息を吸い込む。


「その時、4人の子供たちが大きな橋で遊んでいた…まさにお前たちがさっきいた場所だ。彼らは橋の欄干に登り、ふざけあっていた。誰も悲劇が起こるとは思わなかった。」


「そのうちの1人がバランスを崩した。落ちそうになって…仲間が手を掴み、必死で引っ張っていた。」


「みんながその様子を見ていた——音楽も止まった。でも…」


彼は目を伏せ、湯飲みを握りしめた。


「酔っ払った男が…群衆から現れた。誰もが彼が助けに来たと思った。」


「だが…そいつは、子供たちを蹴り飛ばしたんだ。」


「な、なんだって!?」


「4人の子供たちは海へと落ちた。誰も助けられなかった。彼らの遺体も…ついに見つからなかった。」


部屋の空気が一変した。


「そして、あの男は…その場で死んだ。まるで…誰かに操られるように、自分の首を絞めて。」


沈黙が流れた。


「その後、祭りは中止された。そして…おかしな現象が起こり始めた。夜中の足音。どこからともなく聞こえるガムランの音。独り言をつぶやく子供。消える住人たち。」


彼は彼らをじっと見つめる。


「この村は、もはやかつての村じゃない。まるで…あの夏が終わっていないかのように。あの子たちは…まだ、ここにいる。」



---


夜。


コウタとハクボは重たい気持ちで家に戻った。


「マジで…今日は眠れそうにない」とハクボがささやく。


「昨日もそう言ってただろう…」とコウタが応じる。疲れた声で。


二人は部屋に戻り、目を閉じる。


だがその夜は…いつもと違っていた。


静寂。鈴虫の声すら消えた。


そして、遠くから——


カン…カン…カン…


かすかに聞こえるガムランの音。だんだんとはっきりと。まるで遠くで祭りが開かれているように。


「ギィイイ…」


コウタの部屋の木製のクローゼットが、少しだけ開いた。


コウタが目を覚ます。


扉の隙間から、何かが見ている。黒い目。丸く。瞬きをしない。


「カ…ケ…ル…」


壊れた録音のような声が部屋に響く。


「カ…ケ…ル…」


床には壊れた人形が転がっていた。


その口元は…笑っていた。



---

---


お読みいただき、ありがとうございました。

この夏は、まだ終わっていません。

あの子供たちの声も…今、やっと聞こえ始めたところです。


次のエピソードでお会いしましょう。

もし真夜中にガムランの音が聞こえたら——

窓は、決して開けないでください。


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