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沈んだ太鼓。音のない夏。  作者: エルギ ハングラ
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第十四話 夏が終わる前に

---


夜はさらに深まり、湿った空気が肌に染み込んでくる。

まるで目に見えない何かを背負っているかのような重い空気だった。


「いつやるんだ?今か?」

コウタが不安な声で尋ねた。


「正しく行うには、十分な準備が必要だよ、コウタ君」

ハクヅキは静かに答える。

「だからこそ、全力でやろうじゃないか」


コウタの叔父・マサキがうつむきながら言った。

「ハクヅキさんの言う通りだ……俺も……もう誰も犠牲になってほしくない。あんなふうに……」


「実行は、夏が終わる前日だ」

ハクヅキが続ける。

「この村のかつての夏祭りのように。今回は——正しく、やるんだ」


「うーん……でも反対する人もいるかもしれんな」

近くにいた村人がぼそっと呟く。



---


「お前は先に帰れ。二人とも、もう目が覚めてると思う」

コウタの父が肩を叩きながら言った。


「しまった!本当だ!」

コウタが声を上げた。


「送ってやるよ」

警備員の草野ダイスケがそう言った。


いつものように、コウタはハクヅキさんのバイクに、ハクボはダイスケと一緒に乗った。



---


しばらくして、コウタの叔父の家に到着した。


「ここで何があった?」

ハクヅキが静かな庭を見渡しながら尋ねた。


「カゲグイの体の一部が動き出したとき……隠れてた男が出てきたんだ。たぶん、何か聞こえたんだと思う。……あいつに食われたよ。声ごと、ね」

コウタが静かに答える。


さっきまで降っていた雨の音も完全に消えていた。

空気には、ただただ静寂だけが残っていた。耳が痛くなるほどの沈黙。


「それについては……もうどうしようもないな」

ダイスケがぽつりと言った。


「それじゃあ、また会おう」

ハクヅキとダイスケは手を振り、エンジンをかけて、静寂の中に消えていった。



---


「急げ!まだ目覚めてないといいけど!」

コウタが家の扉を開けながら叫んだ。


二人は家の中に入る。

先ほどの混乱の痕跡がまだ残っていた——倒れた椅子、割れたガラス、舞い上がった埃。


きしむ床板を踏みしめながら、地下室の扉へと向かう。


古びた扉をゆっくりと開ける。


暗い空間が現れた。

中には二人の人影が壁にもたれ、手は縛られ、口にはテープが貼られていた。


「んんーっ!んぐっ……んーっ!な、なっぱ……っ!!」

「カイ……ムッ……グッ……!」


「目が覚めたようだな」

コウタが呟く。


彼はしゃがみこみ、母の口のテープを剥がす。

ハクボも同じようにコウタの叔母のテープを外した。


テープが剥がれると、鋭い声が静寂を破った。


「なんでこんなことしたのよっ!!」

母親が目を見開いて叫ぶ。


「仕方ないだろ?テープ貼らないと、『クキッ』ってやられるんだから、あいつに」

コウタが平然と答える。


「でも……無事でよかったわ……」

叔母が言い、うつむくハクボを見つめた。


「それより、あんたたちの父さんと叔父さんはどこ?」

母親が尋ねる。


「村の集会所で、みんなと相談してるよ」


叔母が天井を見上げて呟いた。

「でもさっきのは、本当に怖かったわね……」


「コウタ、ハクボ……もう自分の家に帰りなさい。よそ者をこれ以上巻き込むわけにはいかないわ」

叔母が優しく言った。


「そうよ、もう帰った方がいいわ」

母親もまだ怒りをにじませながら言う。


だが、コウタはゆっくり首を横に振った。

「無理だよ。僕も村の夏祭りの準備を手伝いたいんだ。少しでもいいから」


「夏祭り?そんなの、中止になったんじゃないの?」

叔母が驚いて問い返す。


「でも……それが唯一、カゲグイに対抗できる方法だと思うんだ」


叔母はしばらく黙ってから、コウタを見つめて言った。

「だったら、水灯籠みずとうろうを作る必要があるわね」


「灯籠か……」

ハクボが呟く。


「最後まで……やり遂げましょう」

叔母が続ける。その声は小さくても、確かな意志がこもっていた。


コウタの母が深いため息をついた。

「もう……ほんとに……」


そして、コウタが尋ねた。

「カゲグイのほんの一部でもあんなに強いんだ。本体って……一体どんな姿なんだろう?」


皆が顔を見合わせた。


「私たちも見たことはないの。でも……昔の言い伝えによると——」



---


影喰い...


深海の奥底に潜む、伝説の存在。

空を這う巨大な触手のような体を持ち、その先には無数の口があるという。

目は見えないが、あらゆる音を感知し、常に声を狙っている。

全身は黒い鱗で覆われており、それはまるで霧のように揺れている。

その動き一つで、空気は沈み込み、息ができなくなる。


それは“闇”そのものである。


武器で殺すことのできない影。



---


「……想像しただけで怖い」

ハクボが小さな声で囁いた。


台所の蛇口から、水がポタ……ポタ……と滴り落ちていた。

しかし誰もその音に気づかない。

誰もそれを耳にしない。


なぜなら外では——

闇が、まだ息を潜めていたから。


そして、“音”こそが、すべての始まりなのだ。


生き延びること。

祈ること。

正しい方法で立ち向かうこと——それらがすべてを決める。



---


再び、音が鳴り響く。


影は、それを探しにやって来る。


歌による祈りこそが、唯一の希望。



---


---


最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。


声は再び響く。

影は静かに近づき、誰かの名を呼んでいる。

願いが届く前に、全てが闇に沈む前に——

この物語の行方を、どうか見届けてください。


ブックマーク・評価・ご感想をいただけると、この物語の“続き”がより深く、より遠くまで響いていきます。

コメント一つひとつが、私にとっての灯りです。


次の夜に、またお会いしましょう。

おやすみなさい……そして、忘れないで。


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