第十二話 決して声を出すな
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静かなる囁きに満ちた夜が、ひとつ終わった。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
もしこの物語が、ほんの一瞬でもあなたの心に触れたのなら――
小さな「声」として、評価・ブックマーク・コメントを残していただけると嬉しいです。
この物語は、まだ終わっていません。
そして──
「あれ」は…… まだ、消えていない。
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深く息を吸い込む——
それは、ほんの束の間の安らぎのためだけ。
夜がついに一日を巻き込み、濡れた空の最後の色を呑み込んだ。
月の光は差さず、星の瞬きもない。
すべてが闇に呑まれた。
沈黙。あまりにも濃い沈黙。
雨は確かに止んだ。
だが、その後に残された冷気は…
骨にまで染みついていた。
その不確かさの中で——
ただ一つ、確かなことがある。
影喰。
深く、静かな海の底からやってくる存在。
いつ現れてもおかしくない。
声を——呑み込むために。
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「コウタ、あの神社に行け」
叔父の鋭い声が静寂を破った。
「俺とお前の父さんは役場に向かう。手分けするんだ」
コウタは困惑した表情で見つめ返す。
「でも…神社で何をすればいいの?」
叔父は少しの間コウタを見つめた後、静かに答える。
「『カグラの歌』の完全な旋律を探せ。そして…行けば分かる」
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彼らは無言でうなずいた。
そして四人の男たちは、それぞれ別の方向へと全力で駆け出した。
父と叔父は村役場へ。
コウタとハクボは、こう呼ばれる古い神社へと向かう——
「自ずと閉ざされた社」
だが、道の途中——
「おーい!君たち!こんな混乱の中でどこに行くつもりだ?!」
以前、大橋で会った警備員の男が、今度はボロボロの自転車で現れた。今にも転びそうな勢いで。
「やっべー!もっと速く逃げないと!!」
ハクボが焦ったように呟く。
「うぅぅ…チャリで追ってくるとか…無理、無理…」
コウタは手を左右に振って絶望する。
警備員は険しい顔で怒鳴る。
「長々と話す前に、まず答えろ——今、何が起きてるんだ!?」
「くっそ、時間がない!知りたきゃ、ついてきてくれ!!」
コウタはそう言い残し、再び走り出す。
ハクボも続き、警備員は「まったくもう…」と溜息をついて追いかけ始めた。
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やがて、彼らは丘のふもとにたどり着いた。
「神社…?」
警備員が呟く。
「よっしゃ!急いで登るぞ!」
コウタはぬかるむ地面を踏みしめながら、駆け上がっていく。
神社への道は急な斜面で、雨の名残が泥を生み、足を重くする。
だが、彼らの足は止まらなかった。
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「ゲゲゲ……ゲギギ……」
それは笑い声のように聞こえた——だが、人間のものではない。
むしろ、濡れた舌が空気を舐めるような音。
そして、他のすべての音は——消えた。
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「や、やばい…また出てくるぞ…おい、やっぱ戻ろうぜ…」
警備員の声が震える。
「うっせーな、このおっさん…」
コウタが小声で呟く。
「ほんとにね」
ハクボがすぐに同意する。
「はあぁっ!?このクソガキども!!」
警備員が怒鳴るが、それでも追いかけ続けた。
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ついに、彼らはたどり着いた。
神社は以前と変わらず——古びて、静かで、重々しい。
彼らは巨大な扉を押し開ける。
「ギイィ……」
鈍く軋む音が空気を裂き、古い香の匂いと焼けた木の匂いが鼻を突く。
そう、以前と同じだ。
「何を探してるんだ?」
警備員が尋ねる。
「カグラの歌」
コウタが即答する。
「見つけた巻物には…まだ完全じゃなかったんだ」
それを聞いた警備員はすぐに手伝い始めた。
棚を開け、埃まみれの箱を漁る。
だが——
何も出てこなかった。手がかりすら、ない。
トン…トン…トン…
ノックの音に、三人は一斉に顔を向けた。
神社の奥から、一人の老人がゆっくりと現れる。
皺だらけの顔。
古びてはいるが清潔な法衣。
手には一巻の紙の巻物。
「これを探していたのか?」
低く穏やかな声が響いた。
「あなたは…?」
コウタが尋ねる。
「ワシのことは“ハクヅキ”と呼んでくれ。この神社の守り人じゃ」
コウタは息を飲み、震える手で巻物を受け取った。
ゆっくりと——それを広げる。
そこに書かれていたのは…
「カグラの歌」
完全な旋律が記された、古の巻物。
「これだ…!」
コウタが叫ぶ。
「よっしゃあああ!!」
ハクボが大喜び。
「ナイス!!次は何をすればいい?」
警備員が尋ねる。
「父さんたちのところへ…」
コウタが戸惑いながら答える。
「たぶん…」
「で、それはどこだ?」
「…しらん。へへ」
「へへじゃねぇ!!」
警備員がコウタの頭を軽くはたく。
「それは君たちが持っていっていい」
ハクヅキが静かに言った。
「あ、ありがとうございます!」
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だが、出ようとしたその時——
ハクヅキは三人をじっと見つめた。
「…君たち三人に頼みがある」
声は穏やかだが、深く響いていた。
「頼み…ですか?」
「影喰と戦ってほしい。
声を喰らう、闇の影と」
「ええええええええええええっっっ!?!?」
三人の叫びが、神社に響き渡った。
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そして、夜はまだ語り終えていない。
声が武器となり、沈黙が死の扉となるこの夜。
「カグラの歌」は、何を歌い上げるのか?
そして——
人の声は、すべてを聴く闇に打ち勝てるのか?
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