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降臨ss

作者: 蝶月

時系列は2作目と3作目の間です。


  「あっつ……」


 太陽が照りつけ、本格的に夏の到来を突きつけられる。幸いな事に教室はクーラーが効いてるおかげで涼しいがそれでも暑いものは暑い。

 午後から緊急職員会議かなんかのおかげで早上がりとなったが、この暑さの中帰る憂鬱さと早く帰れる嬉しさがぶつかって微妙な気分だ。

 

 ぶち上がってるクラスメイト達は「カラオケ行こう!」「遊ぶぞー!」などと喜んでいるが、そんな元気は自分にあるはずもなく、1人そそくさと教室から出ようとすると聞き慣れた声に呼び止められる。

 

 「ちょっと海斗!!私に何も言わずに帰るなんて水臭いじゃん!」


 こいつは幼馴染の佳奈。家が隣な上に幼稚園の頃から高校生になる今まで同じクラスという超腐れ縁だ。この話を高校からのやつ話すと「どんな確率だよ」と疑われるが、実際俺もこの話をされたら嘘だと思う。いや全部同じクラスとかどんな確率だよ……。佳奈は友達も多くいわゆる一軍というやつだ。対して俺は友達もどちらかと言えば少ない寄りだし、せいぜいよくて三軍ってとこだろ。

 そんな一軍女子である佳奈がこのタイミングで呼び止める理由なんて大体わかってる。


 「どうせ一人で帰るんでしょ!私が一緒に帰ってあげる!」


 一緒に帰ってあげるなんて優しい私、と言わんばかりのドヤ顔をしている。ここ最近よく帰ろうとすると止められる。ただ、悪いが今日は一人で帰るつもりだからな。申し訳ないがここは断らせてもらおう。


「いや、大丈夫だ。今日は一人でか「ちょっと待ってて!すぐ準備するから!」え……る……」


「はぁ......」


 こっちの返事も待たずに自分の席へと戻ってしまった……。このまま勝手に帰ったら絶対怒るよなぁ……。下手したら母さんにまで話が行きかねん。なんで1ミリも関係ない母さんが学校で起きたことを知ってるんだよ。俺のプライバシーはどうなってんだ。

 まぁ……、この暑い中一人で帰るよりかはマシか……。

 

 帰宅する人たちの流れから逃れるように廊下の窓際に寄り掛かりスマホを開く。


 「お、たけぽよ配信してるじゃん」


 画面の中では2つのお団子結びにしたエプロン姿の少女が配信している。なんでも今日は料理配信をしているみたいだが、明らかに料理中に出てはいけない黒煙が画面いっぱいに広がっている。


「これ映して大丈夫なやつか……?」


 大慌てなたけぽよを見て笑いを堪えているといつの間にか隣にいた流星に絡まれる。


「ういーー海斗おつーーー」


「ういお疲れ~。」


 野球部である流星は綺麗な五厘刈りだ。そんな頭が真横にあると撫でたくなるのが人の性というもの。俺もその例に漏れることなく流星の頭を撫でる。何回撫でても気持ちいんだよなこいつの頭。

 

「なぁ聞いたか?今日の職員会議の理由。」


「いや、知らないけど。」


 撫でていた手を払いのけられ、若干の寂しさを覚える右手から意識を流星へと向ける。

 

「なんでも隣町で死武者が出たらしいぞ。」


「まじで?」


 死武者。それは異界より現れた化け物。なんでも過去に大きな戦いがあった場所によく出現するらしいが俺たち一般人には詳しいことはよくわからない。死武者には一般兵器は効かなく対抗できるのは武将を降臨することができる”降臨マスター”のみということ。つまり俺たちがもし死武者と出会った一巻の終わりって訳だ。


「まじまじのまじよ。」


「俺たち呑気に帰ってていいのか?」


「なんでももう討伐されたから大丈夫らしいぞ。ただ、また出るかもしれないから大事をとって今日は下校ってことらしい。」


 確かに、安全が確保された今のうちに生徒たちを家に帰すのは間違ってないか。

 この話だと帝宮警察もいるってことだろうし。

 

「もしかしたら明日も休みになるかもしれないってよ!」


「マジかよ、激アツだな。てか、流星時間大丈夫なのか?野球部は練習あるんじゃなかったっけ?」

 

 「やべ!俺もういくわ!海斗も気を付けて帰れよー!」


「流星もなー」


 そう言って去っていく背中を見送って視線を前に向けると、ちょうど教室から出てきた佳奈と目が合った。

 

 「お、ま、た、せ〜」


 「遅い、5分も待ったぞ」


 対して待ってないがそれはそれとして、だ。

 当たり前のように横に並んだ佳奈と昇降口へと向かう。


 「ごめんごめん、さあや達にカラオケ誘われちゃってさ。でも海斗だって流星と話してたじゃん。聞こえてたんだからね~。」


 「まぁな。カラオケ、行かなくていいのか?」


 「うん、今月ちょっとピンチだしさ〜。それに……どっかの誰かさんを一人で帰らせる訳にもいかないですからね〜」


 上履きから靴へ履き替えながらそう言った佳奈の表情は、長い髪の毛に隠れて見えなかった。


「だれも頼んでないけどなー」


「またまたそんなこと言って~。ほんとは一緒に帰れて嬉しいくせに~。」


 佳奈を置いて一足先に駐輪場へと歩き出す。

 

「あーーーごめんってばーー」











 住宅街。ここは俺と佳奈が育った地区でもある。懐かしくもある景色だがこの道は通学路現役だ。懐かしいような懐かしくないような道を二人で進む。


「海斗はさ……もう剣道やる気は無いんだよね……?」


 そう聞かれ、鼓動が早くなるのがわかる。無意識のうちに自転車を押す手に力が入ってしまう。


「何度も言っただろ、もう剣道はやめたんだ。」


「……そっか。そうだよね。何度も聞いちゃってごめんね。」


 俺は中学の時、あと一歩で大会優勝というところで負けた。俺のせいで……俺の弱さのせいでみんなの夢を叶えることが出来なかった。それ以来剣道……いや自分から逃げている。なにも為せなかった、弱いままの、自分から。


「佳奈は凄いよ、俺と違って未だに剣道続けてて……さ……」


 地面から視線を隣に向けるとそこには明らかに顔が青ざめ、震えている佳奈の姿があった。

 

 「ねぇ……海斗……あれって……」


 震える指先を向けている先には、化け物がいた。


 刀を持った、まるで……死んだ武士みたいな……

 

 あれは…………


 「死武者……!!」


 異界の亡者と目が合う。今まで感たことがない悪寒が背筋を走る。頭が、心が、本能が今すぐ逃げろと叫んでいる。

 痛いくらいに鳴っている心臓を感じながらも飛んでいきそうな意識を呼び戻して身体を無理やり動かす。


 「佳奈!逃げるぞ!」


 声を張り上げ佳奈の手を掴もうとするが、彼女は涙を浮かべ、地べたに座り込んでしまっていた。


「海斗……腰がぬけっ……立てなっ……助けっ……」


 考える前に身体が先に動いていた。まるで佳奈を守ろうとするかのように前に立っている自分に驚くが、すぐに意識を前に向ける。目の前からは死武者がこっちに走ってきている。後ろには佳奈。時間がない。佳奈を抱えて逃げられるか?いや間に合わない、どうする、どうすればいい。

 意識と視界を巡らせここから切り抜ける方法を考える。


「一か八か……やるしかない……!!」


 死武者がもうすぐそこまで来ている。


「海斗……逃げて……」


「うおおぉぉぉぉぉ!!」


 力を振り絞り自転車を死武者へと放り投げる。死武者の知能はそこまで高くないのか避けることなく当たる。


「よし!今のうちに逃げるぞ!」


 佳奈を起き上がらせようとしたその時だった。

 もう一体の死武者が奥から現れたのが見えてしまう。

 自転車の下敷きになっているやつも戻るのは時間の問題だろう。


「嘘だろ……もう一体……」


 死武者が走ってくる。対抗できる手段なんてもうどこにも……。

 思考を必死に回していると、佳奈の荷物が視界に入る。


「ただで死んでたまるか……!!」


 佳奈の荷物から竹刀を取り出す。自分でも分かっている。これが如何に無謀なことかは。こんなことをしたって大した時間稼ぎにならないことも。でも、それでも……


「俺は……逃げない……!!」


 死武者と対峙する。こいつも武士だったからか正々堂々と挑んでくれるようだ。


 「死んでも武士ってか……」

 

 今はその数秒すらありがたい。覚悟を決める。ここで死なないために。


 「はああああぁぁぁぁぁ!!」


 全力で竹刀を振るう。


 しかし、刀には似ても似つかない刀はいとも簡単に切られてしまう。


「あ……ぁ……」


 竹刀が手から落ちる。分かっていた。こうなることは。でも……こうするしかなかった。


 なんとか死武者の攻撃を避けるがもう何もできないことを分かってしまう。

 

 最後の抵抗とばかりに佳奈を守る様に覆いかぶさる。

 結局俺はまた負けるのか……。


 「佳奈……ごめん……」


 佳奈を抱きしめその瞬間を待っていた、その時だった。


 


「武将降臨!!」


『ブショーコーリーン、織田信長!!』


 そんな声がどこらから聞こえると背後から死武者の気配が無くなっており、恐る恐る視線を上げるとそこには刀を振りぬいた男が立っていた。


 「少年よ、お主の勇気しかと見届けた。ここからはわしに任せぇ!」


 その男からは只者ではない気配を感じる。現代に生きている人たちからは出ない、そんな気配が。

 

 「あ、あの……あなたの名前は……」


 刀を構え、死武者と対峙しながら男は答える。

 

 「わしの名は織田信長。緒河桃歌の降臨武将よ!」


 織田信長。その名を知らない人はいないだろう。天下統一を成し遂げた最初の武将である名前を。

 その歴史上の人物が今目の前に立っているのだ。


 「いくぞ!桃歌!」


 「はい!」


 桃歌と呼ばれた少女と織田信長の動きがリンクする。一糸乱れぬ動きに目を奪われてしまう。

 少女は手を掲げ、信長は刀を天に掲げている。その刀に雷が集まっていく。


 「「天下雷龍!」」


 刀を振るうと眩い光が視界を覆う。その光はまるで龍のようで……。光の先に居た死武者が爆ぜていくのが見える。


 「意識が……遠く……」


 信長の背中を見つめながら、俺の意識はここで途切れてしまった。


 

 

 



 目を覚ますと俺はベットに横たわっていた。


「知らない天井だ……」


「あ!起きた!」


 声の方を向くとそこには目を赤くした佳奈が座っていた。

 身体を起こし周りを見渡すと、どうやらここは病院らしいことがわかる。


 「佳奈……?俺たちどうして病院なんかにいるんだ?」

 

 「覚えてる?私たち死武者と遭遇したんだよ……?それで海斗が死武者と闘おうとして……」


 覚えてる。確かに覚えてる。竹刀で死武者に挑むなんて我ながら無謀なことをしたもんだ。


「あぁ。覚えてる。ただ……どうやって倒したかは覚えてないんだよな……」


 思い出そうとすると頭にもやがかかる感じがする。誰かが守ってくれたような……。


「さっきね、気になって病院の先生に聞いたの。そしたら”無理に思い出さない方が身のためです。”だってさ。」


「そうか……」


 思い出さない方が身のため……か……。


「佳奈。」


「なに?」


「剣道部ってまだ部員集めてたりする?」


「え……それって……」


「俺、もっと強くならなきゃいけない気がするんだ。あの人みたいに。」


「あの人……って?」


「分からない。けど、強くて、かっこいい人だった。俺もあの人みたいに誰かを護れる強さが欲しい。」


「海斗……」


「ダメ……かな」


「ううん!大歓迎だよ!」


 そう言って佳奈はまた泣き出してしまった。でもその涙はあの時とは違っていて。

 あの時、誰に助けてもらったのかはわからない。きっとこの先も思い出せないのだろう。

 でも、あの人の背中は覚えてる。いつかあの背中に届くように。


「また、よろしくな佳奈。」

 

「うん……!」


 

 

 

 

降臨マスターしか倒せない化け物に一般人が出会ったら怖いよねって話を書きたかったのと、桃歌と信長のカッコよさを書きたかった。

もっと桃歌と信長の戦いを描きたかったけど死武者相手ならそこまで手間取らないってことに気づいてこの量になりました......。悲しい......。

一般人に降臨を見られたら隔離しなきゃいけないって設定を思い出したので二人には都合よく記憶をなくしてもらいました。これも科学力のなせる業ってことで。科学力万歳。

一般兵器が聞かない化け物にここまで奮闘した海斗君をほめてあげて欲しい。まぁ一歩間違えなくてもほとんど自殺行為ですけどね。それでも戦った海斗君はかっこいい。


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