⑧(重大なネタバレを含むため、本文中に章題記載)
⑧第二主人公の後継者が遺志を継ぎ、物語の幕引きに重大な役割を果たす
ヤンおよびLの死後、それぞれ彼らの後継者が立ちラインハルト、月との対決を継続することになります。
ヤンの後継者は養子兼弟子のユリアン・ミンツ。物語序盤からヤンと共にあったキャラで、ヤンと絡むシーンも非常に多かった。彼が後継者として立ったのは(読者にとって)極めて自然な流れと言えるでしょう。
一方、Lの後継者はメロおよびニア。それまで影も形もなかったのに、Lの死後急に生えてきました(笑)。この突拍子のなさがいかにもデスノらしいとも言えますが。優秀な子供たちを教育するためにワタリが創設したワイミーズハウス出身(L自身、子供の頃ここにいました)で、生前からLが己の後継者と目をかけていた2人です。
メロ・ニアは何かと並べて語られることが多い2人ですが、メロが目立って活躍したのは第二部の序盤だけ。以降月との対決を主導したのは終始ニアでした。よってここでは、Lの後継者=ニアに絞ってユリアンと比較したいと思います。
第二主人公の死後、後継者が立つ! デスノのこの流れだけでも銀英厨の血が騒ぐじゃないですか。私は連載当時、メロ・ニアが登場した週で銀英仲間に騒ぎまくって(以下略
もちろん、ただそれだけで両作のこの展開を重ねているわけではありません。ユリアンとニアの共通点に目を向けてみましょう。
私が2人に共通すると思う点は「能力は前任者には及ばない」「にも関わらず前任者の遺産を継ぎ、その悲願を達成する」というものです。
ユリアンがその戦略・戦術能力でヤンに及ばない、というのは小説中でもいくども強調されたことです。彼が若すぎて成長の機会を得られなかったこと、アッテンボローが擁護したように独創に走らずあえてヤンの模倣に徹したことなどを加味しても、少なくとも本編中で彼がヤン以上の天才を証明したと考えるのは困難でしょう。
にも関わらず、ユリアンは最終的にヤンも成し遂げられなかった悲観――帝国軍との戦いで一定の戦果をあげてラインハルトとの会談に持ち込み、民主共和政の芽を残すべく交渉を開始することに成功しているのです。彼が歴史上で果たしたこの役割は、決して小さくありません。『銀河英雄伝説』という物語の決着をつけたのは彼である、という見方さえできます。
これには前任者のヤンがそこまでの道筋をあらかた示していたこと、ヤンが残した遺産|(イゼルローン要塞や仲間、師の名声その他)があったことなど様々な要因がありますが、知力で師に及ばない分をユリアンが他の長所――主に武勇でカバーした点も見逃せません。
シヴァ星域会戦終盤でユリアンたちがブリュンヒルトに突撃した際、突撃を許したラインハルトはユリアンを指して「ヤンの後継者なら知で及ばずとも勇にはいささか非凡なものがあろう」と発言しています。このことからも本伝のクライマックスともいうべきこの場面で、作者氏がユリアンの”知”よりも”勇”をクローズアップしたかったことは間違いありません。
そして見事おのれの元までたどり着いたユリアンの奮戦を認めたラインハルトは、戦闘停止を帝国全軍に命じます。最後にはユリアンの"勇"が和平を勝ち取った、とも言えるでしょう。
(それにしても頭から「知で及ばずとも」と決めつけてるラインハルト、「後継者だろうが何だろうが知力でヤン・ウェンリーに勝てる奴がいるはずねえ! 俺でさえ勝てなかったんだぞ!」という心底が透けてみえます。厄介オタクすぎる……)
何より最終局面で、相対するラインハルトが不治の病に冒されていたことが大きかった。皇帝が万全の状態だったら帝国軍の動きはより洗練されたものになり、前述のブリュンヒルト突撃は不可能だったでしょう(ユリアン自身もそのような感慨を抱いています)。ここでは運が相当ユリアンに味方しています。
知力でヤンに及ばないユリアンが大事を成し遂げるためには、これだけの諸条件が必要だったわけです。最後までパワーバランスを崩すことなく物語を見事にまとめ上げた、全盛期にあった田中芳樹先生の手腕が光る名采配と言えます。
一方、ニア……ここでまためんどくせえことになるんだよなあ(笑)
「物語の幕を引いた」という点はいいでしょう。ご存知のとおり、最終的に夜神月に敗北をもたらしたのはニアです。
彼がそもそもデスノートの存在に行き着いたのは火口逃走時に現場に居合わせた警官の証言からですが、この火口の闘争劇自体Lの捜査がもたらしたもの。よって捜査結果という"遺産"を受け継いでいると言え、この点もクリアーしています。
問題は「前任者には及ばない」という点です。
正直に申し上げると、私の印象ではニアの知能はLより上なんです。だってあいつ、「13日の嘘ルール」見破ってるもん! しかも「死神に頼んでキラが書かせた」って発想にまで至ってるもん! Lさえ越えられなかった壁、あっさり越えちゃってるもん!
……こほん。少し整理して説明させていただきますと。
デスノの第一部終盤、「13日の嘘ルール」はLの前に最後まで立ちはだかった障壁でした。あれがあった為に月、ミサをキラと断定することができず、生命を失う羽目になりました。「死神がキラに味方した」という確信にはとうとう至れなかったのです(ルールを検証しようとしていたことから、その可能性は疑っていたでしょうか)。
初読時の筆者はこれを「Lといえども超常の存在である死神については読みきれない、それが人間の思考の限界なんだ」と解釈しました。
ところが第二部のニアはメロから「ノートのルールにはひとつ嘘がある」というヒントをもらった途端、それが13日ルールであることに気づき、しかもキラが死神に書かせたものだとまで看破したのです。Lでさえ突破できなかった障壁を、いともあっさり飛び越えてしまいました。
この一事は決定的に思えます。これだけを以って「ニア>L」と確定させてもいいくらいです。ニアの推理を聴いた月も「Lよりひどい」と内心呻いていたではありませんか。
しかし本編はこの後、「ニアはLに及ばない」という風潮で話が進んでいくことになります。各キャラの台詞の端々からそんな雰囲気が漂います。月でさえニアと対面した時「お前はLにはるかに劣る」とか言い出す始末……おいおい、前と言ってること違うやん(笑)
さらに問題となるのは、またしても公式ガイドブックに書かれた「1番頭がいいのはL」という大場つぐみ先生の見解です。また別の頁では、第二部の月の敵をメロ、ニアの二人にした理由について「"Lでも捕まえられなかったので一人では無理"という事」、と述べています。「Lが最高の探偵として存在していた以上、彼を超える者を描く事はおかしいと思った」、とも。
つまり原作者さまの中では、やはり頂点に立つのはLでありニア単独ではLに及ばない、という認識なのです。
ではL以下の能力のはずのニアが、Lでさえ跳ね返された「嘘ルール」の壁をなぜ打ち破れたのか? 本稿の趣旨上、まずはその理由を考察しなければなりません。
……考察してみた結果、当初の想像以上にくどい内容になってしまったので、一旦ここで区切らせていただきます。
次回は丸々「L>ニア」の証明に当てる予定です。読者の皆様には、どうかもう少しお付き合いください(^^;