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③第二主人公の立ち位置、キャラクター

 次に両作の第二主人公、ヤン・ウェンリーとLに目を向けていきたいと思います。


 この2人にも(見た目や性格こそ大いに違えど)共通する点が多々見受けられます。列挙してみますと「容姿は微妙」「変わり者の天才」「受動的な戦いを強いられる」「後継者がいる」「どちらかと言えば正義寄り」「予想は大体当たる」「にも関わらず最後の勝者にはなれない」といった辺りです。


「容姿は微妙」……これ言ったら両名のファンに怒られるかな(笑)


 ヤン・ウェンリーは決して醜男ではありません。「ごくありふれたハンサム」という伝が残っているようなので、どちらかといえば寧ろ良い方なのでしょう。


 しかし悲しいかな、比較対象が絶世の美貌を誇るラインハルトである以上、必然的に「稀少価値を主張するほどのこともない」とか「非凡なのは外見ではなく(頭の)中身だ」といった逆フォローが、本編中事あるごとについて回ります(笑)。結果、読者はヤンの容姿=凡庸という印象を強く抱くことになるのです。


 なお、奥さんからは「宇宙一の美男子」と思われている模様ですが、参考にはできないでしょう。


 一方、Lの容姿は一見してピーキーです。ぼさぼさの髪に眼下のクマ、ファッション意識皆無の服装にはだし……陰キャものぐさ男子という概念を極限まで研ぎ澄ましたような見た目をしています。東応大学入学式でも「野生的」「相当変わっている」と囁かれていました。


 ところが小畑マジックの成せるわざか、不思議な愛嬌があり女性ファンも世界中にいるようです。よく見れば顔の造形自体は整っているし、絶妙なデザインなんですよね。現に大学同期の京子ちゃん(苗字不明)からは、月より断然イケメンと評価されています(笑)。


 どちらも「まずくはないが世間一般がイメージするイケメン像からはズレた」容姿をしている、といえるでしょう。「好きな人はとことん好きになる」タイプ、でもあるかな?(ノイエ銀英伝のヤンは普通の意味でイケメンすぎるのよ! もっともっさり感がないと(笑))


「変わり者の天才」。ヤンは軍人として明らかに異端です。そもそも士官学校に「歴史を勉強したいから」入った時点で相当変わっています。その上格闘も射撃もダメ、戦争が大嫌いで軍隊そのものに懐疑的。はやく退役して年金をもらいたいと広言してはばからないのに、「戦えば必ず勝つ」。上層部としてはさぞ頭が痛い問題児でしょう。


 一方、Lは変わり者を越えてもはや奇人ですね。子供っぽい言動に極度の甘党、人前で妙な座り方|(靴下もはかず)を平気でしてコミュに難あり、事件解決のためには法を逸脱することも厭わない……あげればキリがありません。あまりこういう表現は好みませんが、最近流行りの"発達障害持ちの天才"タイプに分類されるキャラでしょう。


 容姿といい性格といい、優等生タイプの第一主人公とコントラストを成すために第二主人公たちはやや崩れたキャラづけをされた感があります。常に覇気に満ち溢れた第一主人公たちと比べると、第二主人公たちはどこかコミカルで力が抜けた印象が強い。


 一見凄そうには見えない彼らが、こと専門分野|(ヤンは軍事、Lは推理)に関しては類稀な能力を発揮し時に第一主人公たちをさえ凌駕する、ここにカタルシスが生じる点も同じですね。


「受動的な戦いを強いられる」。第一主人公たちが能動的に暴れ回るタイプである以上、ライバルの第二主人公たちはどうしても受け手に回ることになります。


 銀英伝ではラインハルト側が進攻しヤンがそれを迎撃する、というパターンがほとんどです。物語後半ではヤンが(成り行きから)反乱を起こして戦いの口火を切るものの、やはりイゼルローンに寄って帝国の大軍を迎え撃つ形を取る以外に手段はありませんでした。戦いのイニシアチブは依然ラインハルトが握っていたと言えるでしょう。


 Lは捜査官という立場の性質上、どうしても事件が起こってから動くことになります。探偵は後手に回る宿命にあるのです。時には積極的に罠を仕掛けたりもしますが、やはり死神やデスノートといった超常の力を利用できる月の方がイニシアチブは取りやすい。月が繰り出してくる策を喝破し返し技を狙う、というスタンスに落ち着かざるをえません。


「後継者がいる」。どちらも己の意志を継ぐ後継者がいます。詳しくは後述。


「どちらかと言えば正義寄り」。両作とも単純に善悪を断定できるような作品ではありませんが、第一主人公たちが”悪寄り”に見えるよう描かれている以上、反作用としてその対極に位置する第二主人公たちが”正義寄り”にいるという印象を読者が持つのは理の必然です。


 ヤン・ウェンリーは「専制国家の侵略者から祖国と制度を守る民主共和政の軍人」、こう書いてしまうといかにもひと昔前のステレオタイプなアメリカンヒーローみたいですね。前章で紹介した田中芳樹先生の発言を踏まえれば、刊行当時の読者は今現在よりさらに民主主義側のキャラこそ正義だ、という認識が強かっただろうことは容易に想像できます。ただしその民主共和政自体が腐敗している、というのが銀英伝の一筋縄ではいかない処です(作中で何度も同盟側の兵士や政治家に”正義”を自称させているのは、読者の先入観を逆手に取った著者一流の皮肉でしょう)。


 Lも捜査官として秩序を守る立場である以上、こちらが”正義側”と思うのは自然な読み方だと思います。ただし捜査において手段を選ばず時に平気で人権を踏みにじったりもするので、やはり100%正しい奴とも言いきれません。大場つぐみ先生も公式ガイドブックで「Lも若干悪」という感覚だったと仰っています。


 このようにヤンもLも単純な正義の味方ではあり得ないのですが、それでもラインハルト、月との対比では何となくそっち側に見えてしまう。初読時その印象から物語を牽引する第一主人公ではなく第二主人公の視点に立って作品を追っていた読者も多いのではないでしょうか(筆者は最初銀英伝はヤン視点で読んだクチです)。


「予想は大方当たる」。ヤンもLも作品の一方の主役であると同時に、野心に燃える第一主人公たちの前に立ちはだかる最大の障壁という役割も与えられています。そのため、両名とも作中最高の頭脳を持つキャラとして描かれることになりました。物語は大方、彼らの予測どおりに進行します。


 もちろん神ならざる身、細部まで完全に見通すことはできませんが、他の者が誰も思いつきもしなかった真相にただ1人到達している、というシーンは随所に出てきます。


 ヤンでいえばラインハルトが同盟クーデターを画策していることを看破したり、"神々の黄昏(ラグナロック)"作戦でフェザーン回廊を通過してくることを読み切った辺りがそうですね。Lに関しては即座に第二のキラの存在を見破ったり、あと「ノートを放棄する=記憶がなくなる」可能性に行き着いた点なども数えていいでしょう。


「最後の勝者にはなれない」。そんな作中最強の天才として描かれている彼らですが、どちらも最終的な勝利を手にすることはできません。運だったり、本人の性格だったり、或いは初期状況がそもそも無理ゲーだったりと様々な要因があるのですが、いずれにしろ彼らは物語上で本懐を遂げるには至りませんでした。


 そういった悲劇性も相まってか、ヤンとLの人気は凄まじいものがあります。ヤンは劇場版『わが征くは星の大海』のフィルムブック『ラインハルトとヤン』(岸川靖:編)の中で「原作ではファンが一番多いキャラ」と明言されていますし、Lも単独でスピンオフ映画やゲームが作られるほどの人気を獲得しました。



 他にも細かい共通点は思いつきますが(生活能力がないとことかw)、キリがなくなるので止めておきましょう。


 とにかくこれまで述べてきた中で、Lというキャラのコンセプトや立ち位置、人気の出方が、ヤン・ウェンリーとかなりの部分で重なっているということは論証できたと思います。L=ヤン・ウェンリータイプのキャラ、とくらいは断言しても良いでしょう(くどいようですがこれをパクリと糾弾する意図は露ほどもありません、Lはオリジナルとして昇華された素晴らしいキャラです)。




 そして前章の内容も踏まえた上でまとめると、「野心家優等生の第一主人公|(悪寄りな印象)vs脱力系異端児の第二主人公|(善寄りな印象)、しかし能力的には終始第二主人公が優勢」という物語の構図が両作で完全に一致していることがわかります。

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