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②第一主人公の立ち位置、キャラクター

 これまで度々「第一主人公」「第二主人公」という言葉を使ってきましたが、一度それらの定義を明確にしておきたいと思います。


『銀河英雄伝説』の第一主人公はラインハルト・フォン・ローエングラム、第二主人公はヤン・ウェンリー。


『DEATHNOTE』の第一主人公は夜神(ライト)、第二主人公はL。


 上記の認識で私はこれらの言葉を使用しております。より詳細に規定するならば、


 〇第一主人公……先に登場する、単行本や映像メディアでは1巻目の表紙・パッケージを飾ることが多い、アニメや舞台のキャスト順は大体トップ、作品自体このキャラ達の一代記としての側面が強い。


 〇第二主人公……第一主人公に遅れて登場、単行本や映像メディアでは大体2巻以降の表紙・パッケージを担当する、アニメや舞台のキャスト順は大体2番目以降、作品の中心にいるというよりは第一主人公のライバルとしての役割を作者から求められている(ように見える)。


 とでもなりましょうか。


 両作に触れたことがある方ならば、「両方とも主人公だけど、どっちかといえばラインハルト(月)の方がよりメインだよな」というのは皮膚感覚で理解していただけるものと思いますが(こんな風に言うのは逃げですかね?)。




 というわけで、この章では上記で定義した第一主人公の2人、ラインハルトと月を比較していきます。


 そうすると、この2人はキャラコンセプトが非常に似ていることがわかります。性格、というよりは物語上での立ち位置が極めて近しいのですね。


「「ラインハルト」を縮めると「ライト(月)」になるよね!」などと妄言をほざくつもりはありませんのでご安心ください(え、もうほざいてる?)。また、本章では声優の宮野真守さんに触れる予定もありませんので、ファンの方にはあらかじめお断りしておきます。


 気を取り直して、両者に共通する特徴を羅列すると「正統派イケメン」「頭脳明晰」「能動的野心家」「幼稚で負けず嫌い」「主役なのに悪役寄り」「ライバルに押されがち」といった辺りでしょうか。


「正統派イケメン」、これは見たまんまですね。


 ラインハルトは原作小説中でもその美貌を強調する表現が頻繁にでてきます。「鼻梁と唇の端麗さは、古代の名工の手になる彫刻を想わせた」とまで書かれています。アニメや漫画でもそれにならって、どのバージョンでも必ず金髪白皙の美青年に描かれていますね。


 夜神月も、そのイラストを一見すればかなりの美形キャラだとわかるはずです。連載初期は「小畑(たけし)の絵が上手すぎるから美形に見えるだけで実はフツメンのつもりで描いてるんじゃないか」という疑惑も囁かれましたが(笑)、その後女性にすさまじくモテることが作中で判明したり初対面の(あまね)海砂(みさ)が「あんな若くてカッコイイなんて」という印象を抱いたりしているので、作中世界でもやはり相当ハイレベルなイケメンと目されていると考えて間違いないでしょう。


 どちらも容姿の上では「万人が思い描く美男子像」を体現したようなキャラ、といえます。


「頭脳明晰」、これは言わずもがな。前章の分析を踏まえれば、両作の主人公を担当するにあたって必要条件とさえ言えます。


「能動的野心家」、2人とも野心家です。


 ラインハルトは物語開始当初から権力の階段を登り詰め「宇宙を手に入れる」ことを目指していますし、月も第一話でデスノートを使い影から世界を操ることで「新世界の神になる」と豪語しています。どちらも終始一貫、作中世界の頂点に君臨することを欲しています。


 そして彼らは己の野心を達成するため、非常にアグレッシブに行動を起こします。そのことが作中世界に混乱と変化を呼び、物語を展開させていきます。


 つまりどちらの"野心"も、作品そのものを動かす原動力の役割を担っているわけです。


「幼稚で負けず嫌い」、これはデスノート作中でLがキラを評した言葉ですね。Lによってキラの存在を証明されても萎縮するどころかより活発にキラ活動を展開し、挑発まがいの反撃までしてくる。そもそも犯罪者を殺していくことで世界を良くしようという発想自体幼稚だ、という見方もできるでしょう。


 他方ラインハルトも非常に負けず嫌い。ヤンに負けたことをいつまでも根に持ち、彼の訃報を聞いた時は「俺に勝たせねえ内に死んでんじゃねえ!(意訳)」とキレちらかしています(苦笑)。


 また政治・軍事面は天才だけどそれ以外、主に私生活では未熟な若者だということは作品随所で強調されていますね。ヒルダと一夜を過ごした翌日薔薇抱えてそっこー押しかけた際には、後に義父となるマリーンドルフ伯から「天才少年」と評されています。一面の才能は特化していてもそれ以外は子供レベル、ということです。はちゃー……


 女性の扱いに関しては月くんは随分世慣れているらしく、よく複数の女性と同時に付き合ったりしています(ほぼカモフラージュの為ですが)。これはラインハルトとの決定的な違いですね。女性を軽視しているということだし彼は女性を”利用できる道具”としか見ていない節もあるので、ここを以て加点とは現代の風潮的にできないでしょうが(笑) この辺りからはどちらかというとロイエンタールを想起させられます。


「主役なのに悪役寄り」、ここは多少の説明が必要でしょう。


 月に関しては問題ないですね。何せやってることが殺人鬼のそれです。もちろん「犯罪者を裁く」という行為の是非はファンの間でもよく議論になるポイントですが、少なくとも作中ではほぼ「悪役」ポジションとして扱われてると考えて間違いないでしょう。


 Lが死んで月が一旦勝利をおさめたかに見えた第一部終盤、その回が掲載されたジャンプの煽り分は「最悪の時がおとずれた!(うろ覚え)」でした。非道な策をよく用いますし、月の悪い顔は最早作品の代名詞です(笑)。最終回などで多少の問題提起はしているものの、やはり作者の先生たちも月が善玉に見えないよう苦心しながら作品を作っていた節が伺えますね(公式ガイドブック『DEATHNOTE13 HOW TO READ』でも、原作の大場つぐみ先生の「月は凄い悪」という認識が記されています)。


 一方、ラインハルトに関しては悪役と聞いてピンとこない方も多いと思います。事実彼は小説中でも、「民衆の味方」「上からの改革者」という側面が強調されています。これに関しては多少、作者の想像が入ることをご容赦ください。


「専制国家に所属する野心家」「侵略する側」、今でこそこのタイプの主人公は珍しくないですが(『キングダム』とかね)、銀英伝が発表された80年代当時、これらの要素は"悪役を示す記号"みたいなものだったと思うのですよね。ラインハルトは明らかに『三国志』の曹操も意識して造られたキャラですが、何せその曹操が一般的には悪の権化と目されていた時代です。


 作者の田中芳樹氏も「当時のSFは"正義の民主国家vs悪の専制国家"という図式ばかりだったので、そこを逆転させたかった」と銀英伝について述懐しておられます。つまり専制国家側のラインハルトが読者に第一印象"悪役"と目されることは、十分予想しておられたでしょう。


 その上で読み進めていけばそんな単純なキャラじゃない、ヒーロー性も少年性も兼ね備えた主人公だなということがわかってくる。その印象の反転こそがラインハルトという主人公を通して田中芳樹氏が狙ったことではないか、と筆者は見ているのです。


 そう考えればやはりラインハルトは一種の悪役、「ダークヒーロー」と捉えるべきでしょう。感傷的な部分が強調されている分、月よりもルルーシュに近いかもしれませんね。


「ライバルに押されがち」。2人とも作中最高峰の頭脳の持ち主なのに、中々ライバルに勝てません。ヤンもLも強すぎるんですね。読者はどうしてもラインハルト、月が終始苦戦しているイメージを抱きがちになります。


 もっとも両名とも結果だけ見れば勝利者側になるのですが、その結果にまでなんだかケチがついてまわります(笑)。どうしても「本当はヤン(L)の方が強かったろ」と思われてしまう。そういう意味では苦労性の主人公sと言えるでしょう。天才イケメンだからって俺tueeeeできるわけではないのが往年の名作の世知辛いところです。




 以上の考察を総括すると、「ラインハルトの悪役成分をより濃くして生み出されたのが夜神月というキャラ」ではないか、というのが私の仮説になります。


 無論それだけではなく、月の誕生には他にも大場つぐみ先生の様々な試行錯誤があったことは間違いないでしょうが(大ヒット作の主人公がそうそう容易く造形できるわけがありません)、その原型のひとつとしてラインハルトの存在を相当意識しておられたことが想像できるのです。

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